第四十三話 噂
『しかし、まだ迷宮がそこまで強いモンスター、というか魔物で溢れてなくてよかったですよ』
『確かにな。基本は人工物のようなものばかりだ』
『誰でもない誰かとか、始祖、闇喰らいとかがいなくて良かった〜』
『そこらへんの最上位の魔物は迷宮外でもそうそう会わないだろう』
『まぁそうなんですけどね。あ、ブラッド様ってアレを見たことってありますか?』
『あれ?』
『最強液状生物ですよ』
『あぁ、無いなぁ、まだ』
『そうなんですか。私は遥か太古に一度だけちらりと見たことがあります』
『ほぉ。よく生きてたな』
『すごく遠目でしたからね。と言ってもアレはこの世に存在していいようなものじゃな無かった気がしますね〜』
『そこまでか』
ブラッドは記憶を辿って、自分が戦って来た中で最も強かった魔物を思い出す。
『悪魔の男…』
『……?』
『いや、懐かしいものを思い出したんだ』
『…そうですか〜』
◇
「さて、迷宮の攻略もそれなりに来たな」
ブラッドは、ラリと、それからディア、ヨーネの精神力を舐めていた。
迷宮へ来て、二年。外では十二時間ほど。
「第二十層、攻略だ」
それでも尚、皆ブラッドへついてくる。
身体の成長、老化はせずとも、二年間とは人を成長させるものである。
「少し、休憩ですね」
「あぁ」
そして、ブラッドはバックを地面へ落とした瞬間に、消える。
「はっ」
「ふっ」
ブラッドとラリの体術鍛錬が始まった。
打撃の応酬。
受け流し、躱して隙を見ては攻撃を入れ込む。
技術は同等程。
だがそこには明確な差があった。
──攻撃力と敏性である。
ブラッドの方が圧倒的に火力や速度が上だ。
「が、っ、ごっ」
「ふんふんふん」
ブラッドは魔法による強化をかけずとも、人間離れした身体能力がある。
今まではラリが技術でなんとかカバーしていたが──
「ぐあっ、参った」
ブラッドの手刀がラリの喉元へ誘われた時だった。
「ふん。最近は勝てるからな」
「いやぁ、もう僕じゃ敵わないなぁ、全然」
ブラッドはラリの手を取る。
「お前たち、行くぞー」
「…んー」
そしてブラッド達は歩き出す。
未だにヨーネとディアは実践レベルで体術を身につけてはいなかった。
だが、それが正常なのだ。
彼が異常なだけである。
◇
およそ、迷宮内にて一年半前。
「ふぅ」
ブラッド達は休憩中に話し合っていた。
「なぁ、ブラッド」
「ん?」
ディアが気さくに話しかけた。
「お前はどうして、迷宮に来ようと思ったんだ?」
「んー、まぁ必要な素材があったからな」
「素材?でもひとつも取ってないよな」
「まだな。かなり上層のものなんだよ、きっと」
「はぁん?誰かに依頼された口か」
「そんなとこだ」
「俺はな、迷宮へ来たのはもちろんギルドの依頼ってのもあるけどな、それ以上の狙いがある」
「ん?」
普段は何も考えて無さそうな男だがな、とブラッドは一笑した。
「まーそう言うなよ。俺の家はな、かなり貧乏でな」
『うわ、辛気臭い話が始まりましたよ〜、ほんとにやめて欲しいわーうわー』
『…』
「まぁ。貧乏だから飯食うのにも精一杯でな、金稼ぐこと以外何も出来なくてな。それが俺の生きるということだった。けどな、俺はダメだった」
「…?」
「金が無くて、そのせいで俺の母は餓死した。もともと床に伏せてたんだ。身体が弱かった。でもなぁ、俺は自分のことをせめてしまった。俺のせいだと思った」
「…」
「自分の生きがいを失った男は、ふらふらと旅をした。まぁその時にこいつらと出会ったんだ」
「ども〜」
「…おう」
「まーそれで、聞いたんだよ、噂をよ」
「噂……?」
「迷宮の最上層には、人の魂を冥界から還すことが出来るというアイテムがあるらしい」
「…ほぉ」
「それを得るために、俺は、ここへ来てんだ」
「…母親を生き返らせる為にか?」
「いや、違う」
「…?」
「不測の事態に備えて」
「……」
ブラッドは、
ブラッドはなぜだか
──何故だか分からないが!鳥肌がたっていた。ゾワッと言う理解不能な感覚が襲う。
「……」
…勘違いだろう、とブラッドは思っておいた。
自分より確実に弱いであろう男に怯まされた?いや有り得ない。そう考えなければならなかった。
──しかし、ブラッドはそのアイテムが実在しているというのなら、かなり使えるとも思った。
ブラッドの母親を蘇生させるという悲願を、達成させる際に。




