第四十二話 師弟と師弟
「ふぅ」
ブラッドは息をついた。
現在迷宮十一層。
二ヶ月ほど。
ラリに体術を教わって二ヶ月ほどが経過していた。
もちろん、迷宮内の時間で、だ。
「しかし、やはりブラッドくんはセンスがすごく良いですね」
「ん?そうか」
「はい。だって──」
ヒュォ、ヒュっ、と空を切る音と共に、どっ、どっ、と腕と腕とがぶつかる鈍い音がした。
「もう僕の組手と互角だ……!」
「二人はまだ型の最中なのにな」
「……っな!?いやいや私たちもかなり筋がいい方だそうよ!?」
「そうそう。ブラッドが異常なんだよ」
「……」
ラリは無言でブラッドを見つめた。
「そうなのか?」
「えぇ…まぁ」
世界最強の騎士アラエル、その子であるブラッドは、流石に血を継いでいることがあって、剣術、魔術それら統合して天才的センスを保持していた。
それは、体術も例外でないだろう。
「…さて」
ブラッドは拳を構える。
「続きをやろうか」
「是非!」
「……ちぇ、俺達は」
「まだまだ基礎ね〜」
基礎が出来なければもちろん応用は出来ない。
応用が出来なければ、戦闘に使うことはできない。
これから、途方もない時間をかけて、きっと彼らは体術を学んでいくのだろう。
「……」
その数刻後。
第十一層の攻略に一息ついて、休んでいる時だった。
「あのぉ、ブラッドさん…?」
「ん?」
ラリがブラッドへ話しかける。
「僕にあの〜その」
「?」
「魔法を教えて下さいッッ!」
「!魔法か」
「はい…!」
「…何故だ?」
「えと、僕が体術を教えているように、貴方から教わりたいんです。魔法を。それに魔法が使えるようになったら便利じゃないですか」
「…」
スっ、とブラッドは指で空をなぞる。
すると一本の線が描かれた。
それは絵となりつつあった。
「魔法使いって言うのは、全戦闘系職業の中で最も願望率が高く、また最も付きにくい部類である。それは知っているな?」
「はい」
「つまり、単純なセンスや、努力でどうこうならないところもある。つまり、生まれなどによっては全く使えない可能性もあるってことだ」
「は、い」
「体術などの場合は、肉体さえあれば使用可能だ。しかし、魔法は魔力があるのが最低条件。なおかつ、その中で魔法へ変換出来る才能…そう言ったものが幾つもある」
「…」
「そして、見たところラリ、お前には魔力がない。その才能もない」
「…う」
「ちょぉ、ブラッドその言い方は──」
「ただし」
ブラッドは空中で絵を完成させた。
「魔法を使えるようにする方法が、実はある」
その絵は、一人の人間が一人の背中に手を当てている絵だった。
「なんの絵だ?」
「これは、魔力譲渡の図だ」
「はぁ……?」
「魔力譲渡により、まずは一定の魔力の感覚を得てもらう。それに馴染んだら、今度はそれが魔法の媒体となる」
「……は?何言ってるか分かんねぇな」
「……?」
ラリもきょとんとした顔だ。
「分かりやすい例えを出すとすると、俺がまずラリへ魔力を注ぐ。そうして魔力が身体にある状態に馴染むようにする。馴染んだら、魔法を使ってもらう。しかし、魔法が使えない場合も多い」
「確かにな」
「そういう時は、魔道具のようにラリを使う」
「?」
「魔道具は、魔力を流し、魔法を発生させるものだ。簡易的な魔法でしか出来ないがな。それと同様に、ラリを媒体として、強制的に魔法を出させる。まぁただし、肉体には相当の負荷がかかるだろうがな」
「……」
「さて、どうする?やるか?」
「や…」
ラリは逡巡して、そして決意を決めて言った。
「やります!」
「うむ」
◇
「じゃあ、座れ」
「はい」
ブラッドは横に目を配った。
二人はじっとブラッドを見ている。
「……」
(やりづらい…)
「まぁ、いいか。じゃあ、まずは魔力を少しずつ譲渡していくからな。目を閉じろ」
「はい」
ラリは言われた通り目を閉じる。
「魔力譲渡」
ブラッドの持つ魔力──国の八割に匹敵する──が少しずつラリへと注がれていく。
しかし、ブラッドの保有魔力が下がる訳では無い。
魔力は失った分を補おうとする性質がある。
ただし、多くすると言うのは至難を極める。
天才的な魔術師であるアルペであるからブラッドの際は成功したが、世界に一体何人ほど、他人に魔力を譲渡し増やすことが出来るものがいるのか。
片手で数えてもすぐ終わるだろう。
「……」
青い魔力がラリへ注がれていく。しかし、魔力を見ることが出来ないものには視認できない。
「少しずつ、感覚を研ぎ澄ますんだ。自分の体内に魔力が巡っている。イメージしろ…」
「イメージ……」
「頭から流れ、肩から腕の先へ、そこから腹へ、足へ、そして足先からまた回ってくる」
「…」
「…さて、行くぞッ!」
「?行くぞって何を」
「はッ!」
ドォン、と脈打つような音がした。
「かっは」
ラリが飛び跳ねる。
「ちと荒治療だったか」
「治療というより、修行ですかね」
「だが、なんとか身につけたようだな」
「はい」
ブラッドにはラリの周りに、青いオーラが見えた。
そして、それは本人も視認出来るはずだ。
自分の魔力だけは、自分で見られる。
「すごい、これが、魔力か」
「そう。それこそ──」
──最低ライン。
気分転換というのは本当に大切だと感じます。




