第三十八話 それこそ
迷宮、八十九層は巨大な巨大な大森林であった。
「なんだか、温かいわね」
忍浅葱は、そこで、夏を思い出した──
◇
──。
「浅葱〜」
「何よ、もう」
二人が通う道は砂利道で、そこは山で覆われて、少し奥に行けば海がある。
田舎だった。
「暑いね〜」
「暑いわね」
じんじんと照る太陽は、二人を煌々と照らし続ける。
そして、風が吹いた。
「気持ちいいね」
「ええ、そうね」
隣には小川が流れている。セミがうるさいくらいに鳴いている。
「…空、青いね」
青空が、広がっていた。雲がまばらにある。
「積乱雲ね」
「綺麗」
ザッ、ザッ、と大地を踏みしめて二人は歩く。
次第に周りは草木ではなく、古い木造の家に変わっていった。
古臭い自販機もある。
「スマホもある時代に、こんな錆びた自販機だなんて、何か風情があるわね」
「そうね〜」
忍浅葱の隣には、天野朱雀がいた。
彼女は、浅葱の唯一の友人であった。
彼女らが通う高校は、非常に田舎だった。
「学校近いわね〜てか、あの牛飼のおじさんまだなんかやってるよ」
「えぇ。水車がまわっているわ」
「子供たちが走りあっている」
「……夏ね」
「そうね」
◇
「戦型、第一陣!」
浅葱がそう叫ぶと、それに答えるように迷宮攻略連合の兵たちはぞろぞろと動き出す。
森の中にいるのは──
(……?何かしら、あれは。弓使い?森妖精の類か?)
木の上から彼ら攻略者を眺める、何十に及ぶ影。
「魔法、用意」
魔術師達が、魔法を構える。
「撃てぃ!」
数多の炎球が大森林の木の上へ放たれる。
しかしそれらは──
「魔法障壁……!」
魔法障壁という魔法に対する壁で防がれた。
あれを壊すには──
「鉄槌、行きなさい」
「了解!」
魔法障壁ならず、盾役、援護役、そういった役割をすべて壊すのが、鉄槌。
「ふぅん!」
鉄槌は跳ぶ。
勢いよく跳んで、木の上──二十メートルはあるだろうか──に降り立つ。
そして、ハンマーを構えて。
ハンマーで魔法障壁を砕いていく。
「はっ!やっ!」
ただ、砕くだけ。それだけ。
その存在に、【敵】は怯む。
そして、その刹那の隙を決して逃さない。
「影分身生成」
浅葱の影分身が生まれ、それらが素早く木の上へ登っていく。
「ふん!」
それぞれの影分身は持っているクナイで【敵】をなぎ倒していく。
忍者の特性は、致命。
致命攻撃で、一撃で仕留めることが多い。
故に素早く戦闘が終わる。
「戦闘、終了」
忍浅葱の何が優れているのか。
その成長速度も侮れないが、同じくらい優れているものがある。それは、魔力量である。
異界召喚者は既に没した女神、治神のつけたランクなどに関係なく、魔力量が異様に多い。
それ故に、忍浅葱の魔力量は多い。
「はぁ。一旦休憩するかしら」
◇
第五層。
ブラッド達は、殆どの【敵】を倒した。ブラッドはその死体を見て思う。
「…」
『何だこれは?』
『ブラッド様、私精霊として長く生きていますけど、こんな生物?見た事ないですよ〜』
『いやぁ、これはそもそも』
──生き物なのか?
◇
「ふぅ、ここの飯は本当に不味いわね」
「そ、そうですね」
「私は、ここでの生活をもう少し快適にしたいんだけど、難しいのよ」
浅葱は語る。
「しかし、これらのモンスターが不味いのは仕方の無いことでしょう」
「んー、そうなんだけどね」
「…ここでしか生きられないもの達、か」
モンスターは迷宮の外へ出られない。
これは、掟である。
持ち出す事は可能であるが、しかし、己から出る事は不可能である。
いや、そもそも階層をまたぐことすら出来ないだろう。
「特殊な結界がある訳でもない。おそらく、そう設計されているのね」
◇
「これが、第六階層への道か」
巨大な坂がある。
その奥は闇で包まれている。だが上へ続く道はこれ以外にはないだろう。
「さて、登るか」
◇
陽の光が指す。と、思えば。
「暗いな、曇りかよ」
曇っていた。そして、しとしとと雨が降っている。
その雨はどこまでも続いていた。
「なんだ、ここは」
白い白い空間が続いていた。
そこに淡々と雨が振り続けていた。
「水防御」
水に対する防御魔法だ。しかし、摂取する水などまでは防御しない。というか、する事が出来ない。
「不思議な場所よね」
ヨーネは感嘆する。
「ここは、なんだ」
白き白き空間。
「あれが、モンスターか」
第六層、敵。
「人工物、鉄塊人形か」
ブラッドは噂程度に聞いたことがあったが、まさか三メートル程の大きさとは思わなかった。
「お前ら、いくぞ──ッッ!」




