第三十七話 第五層
「……まぁ、そんなことは理解している。だが、大丈夫だ」
ブラッドは、大きく出た。
「だいたいアンタがそう言って止めれたやつらはいるのか?いても極小だろ。大半の奴らはその冒険心を爆発させたはずだろ」
「…はぁ。そうですねェ、特に貴方のような実力を伴った方が一番面倒ですよ」
「んじゃ、書類にサインしたから入っていいよな」
「…はぁ、頼むから──」
ブラッド達は、歩き出す。
「──死なないで下さいよ」
悲哀のこもった声であった。
◇
転移門から五層までは一気に転移することが可能だ。
「じゃあ何層まで転移する?」
「んー、我々は攻略を目指すので五層で良いのでは?」
ブラッドは迷宮に慣れるため一層からの方が良い気がしたが、意見を取り入れないのはなんだか嫌な気がした。
「分かった、じゃあ五層へ行くぞ」
転移門から、数値を入力し、五層まで転移が始まる。
──ぐわんぐわんと視界がブレる。
気持ちの悪い感覚だ、とブラッドは思う。
(他人の転移など)
◇
第五層に転移する。
「…ここが、第五層。【羨望】の間か」
一から五層の情報は既に公開されているので、攻略は容易なはずだ。
それに、階層ボスはとうのまえにいない。
湧き出るのは、迷宮モンスターという、迷宮限定の【敵】。
それは、人だけに敵意を向ける訳では無い。
外のもの、全般に、だ。
そういう風に、まるで迷宮の外とうちとでは世界が違うように、それらは都合よく発生する。
発生だ。
原理は不明。
「…ここに湧き出るモンスターは、殆どが砂系統のモンスターだ」
ブラッド達の目前には、広大な砂漠が広がっている。
どこまでも続くようだが、前の方にポツポツと点のように人が見える。
恐らくは先人たち、他の迷宮攻略者だろう。
「しかし、不思議な場所ですね」
「あぁ」
建物の中だと言うのに、陽の光があるという点である。
「…これが、迷宮」
陽の光に照らされる暑さに、ここが建物内であることをブラッドは忘れそうになる。
「あらゆる法則さえ、無視するか」
◇
「建物の中は、こんなに広そうじゃなかったのに」
「何らかの技術で、空間を拡張させているんだ。それが魔法なのか何なのかは不明だが」
──だが、それが恐ろしく高度な技術であることは自明の理であった。
「さて、と。いきなり一匹登場か」
──第六層へと向かう道を探す中、砂から現れた一匹の迷宮モンスター。
「陣形、いいな。ヨーネ、術を頼む」
「はいよ」
ヨーネが幻術として分身を発生させる。
魚のような形をした、砂を泳ぐモンスターは困惑する。
「今のうちに俺が強化をかける」
ブラッドは全員に魔法をかける。
「身体強化、攻撃力強化、防御上昇、生命力上昇、致命強化、灼熱耐性、敏性強化、神聖なる加護」
──それだけでない大量の強化魔法が皆を包んでいく。
全てが付与されている。
「すごい、なんていう感覚ですか」
「何でも出来るような感覚だ」
「さぁ、行くぞ」
『とはいえ前線は任せるんでしょ〜?』
『まぁな』
心の中でブラッドは笑った。
◇
忍浅葱は、迷宮攻略連合の副隊長であり、最前線を行く。
──現在、迷宮八十八層。
彼女の天才的才能は、戦闘面に於いても全面発揮された。
「そっち、大蛇がいったよ」
「上から骸骨馬が降ってくるぞー」
前線に出るのは戦力が高いものたち。
現在、八十八層において、殆どの地帯は開拓された。
残るは、階層ボス程度だろう。
──忍浅葱の能力は、忍法。
忍者の如き力が使えるということに、迷宮に入って三ヶ月程度で分かった。
異界召喚者。
召喚されたばかりの時の力は大した事はない。
しかし、彼らの最も恐ろしい点は、その成長速度であった。
「ふん!」
刀を振るう。
その刀は浅葱本人の魔力で創造した魔刀。
忍者のその刀捌きは達人のそれを遥かに凌駕している。
八十八層ボス、炎獄の魔人。
それと一対一で対峙する。それと互角に渡り合う。
「流石、異界の者だ。強え、強すぎる」
魔法を、忍法を、剣術を使い浅葱はそれを単体で討伐する。
「アイツが迷宮攻略連合二番手なのは、単純な強さ故だ。一番手のディレベルさんは創設者というのが大きいが、それを抜いたら間違いなく、忍浅葱、アイツが最強だよ」
──。
「さぁ、八十九層へ行くよ」




