34 大陸一周徒歩旅行準備編
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ノルブに印をつけていなかったことに気づいたのは、ヴェイグがディセルブに転移してからだった。
「すまん」
“僕も忘れてた。緊急事態だったし、仕方ないよ”
どうせ10分ほどで戻れるからと、ディセルブの周囲で呪術の痕跡を探す。
[超感覚]で辺りを見てみれば、あちこちに点在していた。
何度も[解呪]を使ううちに、広範囲を同時に解呪できるようになった。
ディセルブからノルブまでの道で解呪し続け、ファウさんの元へ戻ったのは、それでも昼を少し回ったころだった。
ノルブへ入ろうとして、門番に止められた。
「おい、お前、いつこの町から出た?」
この町、ここしか出入り口ないのかな。あと、僕を憶えてたのか。
「転移魔法で」
「はあ? 魔法? そんな魔法があるなら直接町の中へ戻りゃいいじゃねえか」
そういえば、魔法を使える人がいないって話だった。
この人は僕、というか冒険者に何か恨みでもあるんだろうか。
なおもネチネチと絡んでくる門番に困っていると、町の方からシスターがやってきた。
通りすがり風だったが、門番が止めている僕を見て、シスターが慌てて近づいてきた。
「何をしているの? その方は先生を救ってくれたのよ!」
あのとき、シュナさんたちと一緒にいた人らしい。
門番はシスターには逆らえないようで、不服そうな顔をしつつも解放してくれた。最後まで「ケッ」とか言って態度が悪かった。
そのシスターさんは宿まで付いてきてくれた。門番のことを聞いてみると、以前冒険者に勝負を挑んで返り討ちにあったそうな。
想像以上にしょうもない理由だった。そんな人が門番やってていいのかなぁ。
「兄様、おかえりなさいませ」
ファウさんや教会の人たちと話をするときは、ヴェイグに任せることにした。
「突然話を切り上げてすまなかった」
ヴェイグが事情を説明して、ディセルブからここまで解呪してきたことを話した。
「もうそんなに…」
「切り上げる前に聞こうとしていたことなんだが、なぜ俺たちに魔物を仕向けていた?」
「以前の私の、最後に残っていた僅かな良心のせいです」
「良心?」
「魔物を蔓延らせたのは私です。他の国を疲弊させるために、そうしていました。ですがせめて、なるべく強い人の近くに発生させるよう呪術を組みました。それで、犠牲を少なくしようと考えたのです」
「なるほど。それで幸か不幸か、俺…というより、アルハの周りだったのだな」
ディセルブで突然湧いた魔物も、僕の方へ向かってきただけか。
“これから湧く魔物も、僕が近くにいたら僕の方へ来るかな”
僕の言葉はヴェイグが逐一ファウさんに伝えてくれている。
「今は私が制御しているわけではないので…」
「魔物が強くなっているのも、呪術が関係しているか?」
「恐らく。なるべく強い魔物を、という呪術が積み重なって、影響を与えているものかと…申し訳ありません」
「過ぎたことを悔やむ前に、打開策を講じてくれ」
ヴェイグはファウさんに対し、一貫して厳しくも優しい。いや、誰に対してもそうかな。
「はい…」
解呪した直後のファウさんは、自業自得とはいえ気の毒なほど憔悴してた。でも今は、なるべく前を向いて償い方を模索しているように見える。
オーカ達を拐って呪術に使おうとしていたのは、ファウさんが呪術を教えた中でも過激な思想の連中だった。
呪術に心を蝕まれていた状態のファウさんでもドン引きするレベルで、生贄を使う呪術を好んでいた。
彼らの目的は、自分たちの境遇を周囲のせいと決めつけての見境のない復讐と、ファウさんへの忠誠心を言い訳した自己満足。
ちなみに今もジュノ国の牢にいて、釈放の予定はない。
「では、ジュノ国の北の森の魔物は?」
「魔女が住まうという森ですか? あそこには近づいておりません」
「ふむ…あれは別件か」
“今は森に魔物はあんまりいないね”
「そうか…アルハ? ここから森の気配を?」
“うん。[気配察知]だけ強化したよ”
中にいてもスキルは使えるし、強化もできた。1つのスキルを強化してる間は、やっぱり他のスキルは使えない。
「それにしても、範囲が広くないか」
“こっちでも、スキルの鍛錬はできるんだよ”
前にヴェイグが、中にいる状態で魔力を待機状態にしてたのを見て気づいたことだ。
できることは、割とある。
ヴェイグが身体を使っている間、瞑想みたいなことをしていると[気配察知]が研ぎ澄まされていった。前は森の結界に阻まれて読みにくかった気配も、今は他と同じくらいわかる。
もう少し頑張れば、また別のこともできるようになるかもしれない。
「努力家だな」
“そんなことないよ”
今までやろうともしなかったのが怠慢だったんだ。
この大陸の地図とファウさんのリストを並べて、地図のほうに丸印をつけていく。人の方はこれからファウさんが調べてくれるので、先に場所の解呪をすることにした。
「人里の近くからだな」
“ジュノ国が一番大きいんだよね。森に寄ってカリンにも話を聞こうよ”
ジュノ国、魔女の森、その後は近くの国や町へ。大陸の中心からスタートして、ほぼ渦巻状のルートが出来上がった。
僕の速さでも、踏破するだけで数カ月はかかる。それに、スキルに代償はいらなくても、移動は僕の足がメインだ。ぶっ通しで走り続けていたら身体が壊れる…と思う。流石に壊れるよね? そこまで頑丈じゃないよね?
“…いけそう”
「何がだ?」
“いや…。野営の準備どのくらい持っていく?”
「そうだな、念の為に一月分くらいか」
転移魔法があるから、足りなくなったら戻ってこればいい。
僕らの横で様子を見ていたファウさんが、少し席を外して戻ってきた。そのあと、シュナさんやシスター達が、手に荷物を持ってやってきた。
「どうぞ、お使いください」
そう言って目の前に置かれたのは、野営のセットや携帯食料、旅の道具だった。
「これは?」
「教会の備蓄と、町の人からの寄付です。貴方に使ってほしいとのことです」
「しかし…いや、ありがたく頂こう」
食料も道具も旅に出る時準備して、結局つかわないことが多かったから、結構残っている。
ヴェイグが受け取ったのは、こういう時、断りきれないことがこれまで沢山あったからだろうな。
ルートはできた。持ち物や装備も揃えて点検した。夜は早めに休んだ。
ファウさんたちとは、宿屋で別れた。宿のご主人がいい人で、今後教会の復旧が済むまでファウさん達の面倒を見てくれるそうだ。
僕の分だけでも宿代を受け取ってくれたら完璧だったんだけどな。
例の門番に捕まると厄介なので、町のはずれの目立たないところでヴェイグに転移魔法を使ってもらった。
まずは、ジュノ国だ。




