第40話 グラム騎士団長
クオンよりも四半日遅れて、ヨハンとテストは《グラム騎士団》本拠地がある山脈に到着する。
山脈の中からたった一人の人間を探し出すのは現実的ではないと判断した二人は、今はクオンの存在を無視し、急ぎフルードでの出来事を報告するために騎士団本拠地を目指して歩き出した。
二時間ほど歩き、たどり着いた山脈の中腹には、地下通路――山の中に掘られた通路なので厳密には地下ではないが――が設けられており、草むらに隠された入口から通路に足を踏み入れる。
通路の幅は肩を並べて走るには微妙に狭かったので、道案内を務めるテストが先頭に立つ形で通路を走り抜けた。
しばらく走っていると、真白い騎士服に身を包んだ騎士が行く先に立っているのが見え、二人は足を止める。
どうやらこの騎士は立哨に務めているらしく、その手に持った武装媒体を構え、光刃を具象させようとする。が、テストを認めた瞬間、
「なんだ、テストか」
安堵したように、武装媒体を収めた。
しかし、どうやらテストの方はこの騎士のことを知らないらしく、
「キミは、え~っと……」
「クライブだ。こんな狭苦しい場所の立哨を押しつけられるような、天才剣士さまの記憶にも残らない下っ端騎士さ」
自虐と皮肉を交えるクライブに、テストは恐縮そうに「すまない」と返すことしかできなかった。
『剣の実力を見込まれて、客員に近い形で騎士になったせいか、軋轢との付き合いは長くてね』
以前に、テストがそんなことを言っていったのを、なんとはなしに思い出す。
(軋轢と呼べるほどの悪意は感じないが、テストの実力に嫉妬しているのは言葉の端々から感じられるな)
などと考えながら、彼のことを見ていたせいか、ヨハンの視線に気づいたクライブが気持ち警戒しながらテストに訊ねる。
「ところで、後ろにいるのは?」
「騎士団に協力してくれる同志だ。彼以外の人間については……今は聞かないでくれると助かる」
「そういえばお前、コーダさんとこの小隊だったな。……帝国兵と、いや、《終末を招く者》と出くわしたのか?」
首肯を返すテストを見て、クライブは舌打ち混じりに「あのクソ野郎どもが……!」と、悪態をついた。
「そのクソ野郎どものことで、騎士団長に大至急報告したいことがあってね。道を空けてくれると助かる」
「それは、帝国にこの本拠地がバレてしまったことか?」
予期せぬ言葉に、テストは思わず瞠目してしまう。
「〝奴〟はもう事を終えたというのか!? バカな……早すぎる……!」
「そいつの仕業かどうかはわからないが、巡回にあたっていた騎士が二人殺されていた。……まさかとは思うが、〝奴〟ってのは、コーダさんたちを殺した《終末を招く者》じゃないだろうな?」
「それはない。そいつらは、もうこの世にはいない。ボクが騎士団長に伝えたいのは、もっと最悪の報告だ」
事もなげに「そいつらは、もうこの世にはいない」と言ったことに気後れしたのか、「もっと最悪の報告」という言葉に狼狽したのか、クライブは気持ち青ざめながら、すぐさま壁際に身を寄せて道を空けた。
「とんでもなく、やばいってことはわかった。さっさと通りな」
テストは小さく会釈してからクライブの脇を通り抜け、ヨハンもそれに続く。
再び二人は通路を走り、しばらくして終点となる扉にたどり着く。
扉をくぐり、奥にある階段を上がった先には両開きの大扉があり、二人の騎士が立哨に務めていた。
先のクライブ同様、テストは二人の騎士に軽く事情を説明し、騎士団長が執務室にいることを確認してから大扉を開けてもらう。
大扉の先には、天井、壁、床に至るまで石で造られた大広間が拡がっていた。
ようやく《グラム騎士団》の本拠地に着いた――などとという感慨に耽る暇は当然なく、さっさと大広間を抜け、その奥にある廊下を駆けていく。
巡回にあたっていた騎士が二人も殺されたからか砦内は騒然としており、そのせいか、それともテストと一緒にいるせいか、部外者の存在に気づく者はいても誰何しようとする者は一人もいなかった。
やがて、執務室がある廊下にたどり着くと、
「ストレイトスさん!」
まさしく執務室に入ろうとしていた男に向かって、テストは声を張り上げた。
ストレイトス。
その名が騎士団長を示していることをテストから聞いていたヨハンは、観察するような視線を男に送る。
まず最初に目が行くのは、後方に撫でつけた黒髪の下にある双眸。
これもまたテストから聞いていたことだが、ストレイトスは生まれながらにして視力を失っているらしく、確かにストレイトスの双眸は焦点が合っていないように見えた。
精悍さと陽気さが同居した容貌を見た限り、年齢はおそらく三十代半ばほど。
身に纏う純白の騎士服はどうやら騎士団長専用のものらしく、テストや他の騎士のものとは若干意匠が異なっており、背にはマントを羽織っていた。
(この男が、《グラム騎士団》の騎士団長か)
その男が今、まさしく口を開こうとしている。
知らず固唾を呑みながら、いったいどんな言葉が出てくるのかと身構えていると、
「しまったああああああああああああああッ!! まさか、テストくんがもう帰ってきてたとはッ!! ピエロ姿で出迎える予定だったのいいいいいいいいッ!!」
両手で頭を抱えながら、思わず閉口してしまうほどのアホなことを、砦中に聞こえるほどの大音声で叫んだ。
一方テストは、大袈裟に頭を抱えているストレイトスよりも深刻な様子で、片手で頭を抱えていた。
「ふざけている場合ではありませんよ、騎士団長」
ストレイトスの背後――廊下の角から、神経質そうな男の声が聞こえてくる。
ほどなくして現れたのは、やはり神経質そうな容貌をした、ストレイトスと同じくらいの年齢の騎士だった。
「わかっている、ラムダス。ちょっと叫んでみただけだ」
「ちょっと悪ふざけをしていただけだと言わんばかりのノリで叫ぶのはやめてください。ちょっとどころか、大変はた迷惑ですので」
「へいへい、わかりましたよ副騎士団長殿」
歯に衣着せないラムダスの物言いに、ストレイトスは子供みたいな物言いで応じる。
そんなやり取りを見せられたヨハンは、ただただ唖然とするばかりだった。
「一緒にいるとかなり疲れると言った意味、わかってくれたかい?」
言葉どおり疲れた顔をしているテストに、ヨハンは顔を引きつらせながらも首肯を返すしかなかった。
「ところで、さっきから気になってたんだが、その兄ちゃんは何者だ?」
「騎士団に協力してくれる同志です」
「ん? あぁ……すまん、テストくん。俺は彼の口から直接聞きたいんだ」
不意に、ストレイトスの雰囲気が変わった。ような気がした。
気のせいだと言われれば、それで納得してしまうような、ただ感じたとしか言えないような些細な変化だった。が、テストが反論もせずに黙っているのを見て、気のせいではないとヨハンは確信する。
(ここは、包み隠さずに答えた方がよさそうだな)
そう思ったヨハンは、
「ヨハン・ヴァルナス。ブリック公国軍の兵士を務めていた者だ」
ファミリーネームも含め、素直に素性を明かした。
そして予想どおり、ストレイトスの片眉がピクリと上がり、ラムダスの口から驚愕の吐息が漏れる。
「まさか、ヴァルナスという名は大陸最高の魔法士の?」
「ダルニス・ヴァルナスは、僕の父だ」
訝しげに訊ねてくるラムダスに、ヨハンはあえてダルニスの名を出す。
その結果、ラムダスの表情にいよいよ狼狽の色が浮かび上がった。
「騎士団長、彼の言っていることは……」
「嘘じゃない、だろうな。心音にしろ、汗の匂いにしろ、嘘による緊張や異常が認められない」
そう言いながら、ストレイトスは、ヨハンに向かって手を差し伸べる。
「とりあえず、信用できる人間だというわかった。《グラム騎士団》に入団したいって感じじゃなさそうだが、ひとまずはよろしく頼むよ、ヨハンくん」
差し伸べられた手を握った後、信用できると断言されたことを訝しんだヨハンは試すように問う。
「信用してもらえるのは有り難いが、正直、理由を聞かせてほしいところだな。まさかとは思うが、心音や汗の匂いだけで、人の心も読み取れるとか言うつもりじゃないだろうな?」
「言わない言わない。ただ、目が見えないからこそ、色んなものが〝視〟えるようになっただけの話さ。それこそ、テストくん以上にね」
テストが相も変わらず反論しないところを見るに、ストレイトスの言葉に誇張がないことを、ヨハンは悟る。
「だがまあ、君が信用できる人間だと断定したのは、君と同じ怒りと後悔を抱えた人間を知っているから、とだけ答えておこうか」
あまりにも勿体ぶった言い回し、ヨハンは眉をひそめた。
「それは、どういう意味だ?」
「今は『その内わかる』としか言えないな。それに、そろそろ話の本題に入りたいしな」
そう言ってストレイトスは、見えない目をテストに向ける。
「さて、報告を聞かせてもらおうか」
テストは背筋を伸ばして「はい」と応じ、
「ストウロ村の住民の保護、並びに、各地に散った騎士と同志を集めるために村に滞在していたところを《終末を招く者》に襲われました。ボクとヨハンの力で撃退には成功しましたが……」
テストの表情が悲痛に歪み、言葉が途切れる。
心痛を察したのか、テストに代わって、ストレイトスが淡々と言葉をついだ。
「他の者たちは全員殺されたというわけか。コーダくんとゲイツくんも含めて」
唇を噛み締め、テストは首肯する。
一方ストレイトスは、騎士団長という立場ゆえか、努めて平静を保っている様子だった。
「帰ってきた騎士がテストくんだけだった時点で、嫌な予感はしていたが……とにかく、ご苦労だったな」
「……いえ」
テストはストレイトスの労いを振り払うように、首を横に振る。
「報告は、まだ終わってません」
「そいつは、良い報告と悪い報告……どっちだ?」
「最悪の報告、ですね。それも、できれば内々にお伝えしたい内容です」
ストレイトスとラムダスは顔を見合わせ――いちいち目が見えるような仕草をされるせいで、ヨハンが若干混乱していることはさておき――ヨハンとテストに、執務室に入るよう促した。
執務室は、人四人が入るには少々狭く感じる程度の広さで、騎士団長が使っていると思われる執務机と書棚が雑然と並んでいた。
「それで、最悪の報告というのは?」
ストレイトスは執務椅子に腰を下ろし、話すようテストを促す。
テストは首肯を返し、覚悟を決めるように一呼吸ついてから口を開いた。
「フルードを訪れていたカウロウ伯が、《終末を招く者》の手によって殺害されました」
この報告に、ラムダスは勿論、ストレイトスまでもが驚愕を露わにする。
「それは本当なのか!?」
「本当です。ヨハンを騎士団本拠地に案内するために、フルードに立ち寄ったその日の深夜に事件は起きました。カウロウ伯の遺体も、この目で確認済みです。後ほどフルードにいる連絡員から、詳細な情報が送られてくるはずです」
努めて事務的な物言いに徹しているが、テスト自身カウロウ伯の死がいまだ信じられないのか、その声音はわずかに震えていた。
「カウロウ伯を殺した者は見たのか?」
「それは……」
テストは、ヨハンに視線を送る。
クオンのことを自分が語っていいものか迷っている――そんな視線だった。
ヨハンはテストに向かって一つ頷き、
「カウロウ伯を殺した〝奴〟はクオン・スカーレット。ブリック公国公都陥落の、元凶となった女だ」
「そうか……。しかしこれで、巡回にあたっていた騎士二人が殺された理由が判明したな」
ストレイトスに同意するように、ラムダスは首肯する。
「カウロウ伯は砦の場所を吐かされた上で殺されたと見て、まず間違いありません。伯が命惜しさに口を割るとは思えませんから、おそらく、使用人の方たちを人質にされたのでしょう。そして、伯を殺した《終末を招く者》――クオンは、伯から得た情報が正しいかどうかを確認するためにここを訪れ、発見されたか邪魔になったかは定かではありませんが、とにかく、巡回中の騎士二人を殺害した……ということになりますね」
冷静に分析しながらも、ラムダスの額には冷たい汗が滲んでいた。
カウロウ伯が殺害された挙句、帝国に騎士団本拠地の位置を知られてしまったのだ。
冷汗を流さない方が、どうかしているくらいだった。
ラムダスはハンカチで冷汗を拭い、ストレイトスに進言する。
「相手方にジスファーがいる以上、籠城は下策。そうでもなくても、帝国軍ならば山に火をつけるぐらいは平気でするでしょう。ここは可及的速やかにこの砦を引き払い、本拠地の第二候補として挙がっていた、ペルー伯の砦に向かうべきです」
「そうだな。カウロウ伯領地から王都までは、早馬でも一〇日はかかる。情報を聞いた帝国がすぐさま軍を動かし、兵士全員を馬や馬車に乗せて侵攻中の地方もろとも一気に突っ切ったとしても、この砦にたどり着くまでには二週間前後……計一ヶ月弱はかかるはずだ。その間にペルー伯に使いを送り、この砦を引き払う準備を進めておけば、帝国軍に背中を見られる前にペルー伯の領地に逃げ込めるだろう」
「問題は《終末を招く者》ですね。まず間違いなく、移動中を狙ってくると思います」
「そうだな。そこさえクリアできれば、なんとか――ならないのか?」
唐突に話を切り、ヨハンとテストに顔を向けながらストレイトスは訊ねる。
このままでは「なんとかならない」ことを知っていた二人の心音と汗に、わずかながらも変化が生じ、ストレイトスはそれを察知したのだ。
「ここは、僕が答えた方いいだろうな」
そう言いつつもヨハンはテストに目配せをし、彼女が首肯代わりに瞼を伏せるのを確認してから、ストレイトスに応じた。
「魔法の中には〝グラウンドヴァイン〟と呼ばれる、長距離を一瞬で移動できるものが存在する。〝グラウンドヴァイン〟は魔導経脈の集約点に出入り口を用意する必要があるため、さすがにカウロウ伯の領内から飛ぶことはないと思うが、領外はその限りではない。そして、領外にある〝グラウンドヴァイン〟の出入り口にクオンがたどり着いたら、あとは一瞬だ」
「その〝グラウンドヴァイン〟を、帝国が使っているというのか?」
「ああ。実際、そのせいでストウロ村にいた者たちは虐殺された」
悔やむように、強く拳を握り締める。
ストレイトスはヨハンの心中に気づいている様子だったか、あえてそれには触れずに話を進める。
「〝グラウンドヴァイン〟の最大移動距離と、一度に運べる人数を教えてくれ」
「最大移動距離は魔導経脈次第だが……だいたい、コークス王国の端から端くらいになるだろうな。一度に運べる人数は最大で一〇人。補足すると、魔導経脈の機嫌に左右されるため連続使用はほぼ不可能だと思ってくれていい」
「なるほど……軍単位での移動には向かないということか。それだけは救いだな。最後にもう一つ、〝蓋〟をしている集約点は〝グラウンドヴァイン〟の出入り口として機能するのか?」
澱魔の出現口となっている魔導経脈の集約点を、無数の魔力――言い換えれば大勢の人間を集めることで被覆し、澱魔出現を防止する……〝蓋〟とはその状態を指した言葉だった。
魔法士でも為政者でもないストレイトスが、〝蓋〟について知っていることに少なからず驚きながらも、ヨハンは答える。
「機能しない。だから奇襲に関しても、直接的なものは不可能だと思ってくれていい」
「そうか……」
ストレイトスは数瞬黙考した後、副騎士団長に訊ねる。
「ラムダス。過疎化した村から保護した方々の数は、どれくらいになる?」
「確か、二〇〇と少しくらいだったかと」
「それなら……方々と護衛の騎士二〇人に、いつでも砦を発てるように荷物をまとめておくよう伝えておいてくれ。護衛の騎士の選別は君に任せる」
「了解しました」
それだけで全てを察したように、ラムダスは騎士団長の命令を謹んで受け入れ、部屋を辞そうとする。が、
「あ~っと、ちょっと待ってくれ。見かけたらでいい。〝彼〟に執務室に来るよう伝えておいてくれ。入る時はノックもいらないともな」
またしても、それだけで全てを察したように「了解しました」と答えたラムダスは、うんざりとしたため息をついてから今度こそ部屋を辞した。
「〝彼〟って、誰のことです?」
と、テストが訊ねるも、ストレイトスは意地の悪い笑みを浮かべるだけで答えようとはしなかった。
自然テストの口からも、うんざりとしたため息が漏れる。
「まあ、その話は置いとくとして……ストレイトスさん、もしかして打って出るつもりですか?」
ラムダス同様察していたテストが、単刀直入に訊ねる。
部外者ゆえか、唯一察していなかったヨハンは一人瞠目していた。
「ああ。この山脈からカウロウ伯領地の外に出るのに、おおよそ三日。〝グラウンドヴァイン〟の出入り口への移動に一日程度かかると見積もった場合、四日以内には王都にいる帝国軍将軍――アルトランに、この砦の場所が知られることになる。あの男のことだ。掃討軍の編成も、兵士全員分の馬を用意するのも、さぞかし早いだろう。それこそ、こっちが砦を引き払う準備を済ませるよりも先に動き出せるほどにな」
アルトランのことを不倶戴天の敵と見なすと同時に、一廉の将として認めているような、そんな口振りだった。
「そうか。山脈の真っ只中に本拠地を構える騎士団に、馬はない。最速で砦を引き払ったとしても、背中を突かれるのは免れないということか」
ようやく話が見えてきたヨハンが、得心したように言う。
「そういうことだ。そしてそうなった場合、《グラム騎士団》は十中八九、潰滅か、それに近い痛手を被ることになる。バラバラに散らばって逃げようにも、初めから分断されていた王都決戦の時とは違って、今回は一五〇〇人近くの騎士と同志が一つところに集まった状態になっている。散らばる起点がわかっている以上、《終末を招く者》にとっちゃ追跡は朝飯前。最悪、各個撃破される可能性もあり得る。そもそも、また力を蓄えようと思ったら、逃げ込む場所がバレないよう帝国に背中すら見せずに逃げ切る必要があるもんだから、はっきり言って現実的じゃない」
絶望的な言葉ばかりを並べている割りには、ストレイトスの声音からは恐れも気負いも感じられなかった。
「それなら打って出て掃討軍を返り討ちにする方が、まだ希望があるってもんだ。それに《グラム騎士団》を確実に潰すために、アルトラン自ら出張ってくる可能性が高い。ここでアルトランを討てば、戦局を一変させることも夢ではないが……まあ、あの男のことだから、《グラム騎士団》を確実に潰せるだけの数を用意した上で、ジスファーまで連れてくる可能性も高そうだがな」
その物言いは、絶望に屈しない力強さに満ちていた。
その声音は、希望を見出すことを決して諦めない明るさに充ちていた
そんなストレイトスの在り方を見て、ヨハンは確信する。
(この男は、確かに、間違いなく、グラム騎士団の長だな)
大勢の人間の命を預かり、その責任を負ってなお揺らがない確固たる自負。
ブリック公国軍を束ねていたザック将軍同様――いや、ブリック公国を治めていたセルヌント公に負けず劣らず、人の上に立つ器を感じさせる男だった。
「ところでヨハンくん、君に聞きたいことが――……と言いたいところだが、その前に。どうやら御到着のようだ」
そう言って、ストレイトスは執務室入口の扉を顎で示す。
直後、
「入りますよ、騎士団長」
扉の向こうから聞こえてきた若い男の声に、ヨハンは驚愕する。
その声は、忘れるはずがないほどに聞き覚えのある声だった。
「ノックはいらないと伝えたはずなんだがなぁ」
「はい。だから、ノックはしてません」
「おぉう……確かにそのとおりだ。まあ、とにかく入ってくれ」
扉が開き、中に入ってきた男を見て、ヨハンはこれ以上ないほどに目を見開いた。隣にいたテストが、物珍しげな顔をするほどに。
執務室に入ってきた男は、やはり《グラム騎士団》のシンボルとも言える、真白い騎士服に身を包んでいた。が、その騎士服はおろか、生まれながらにして持ち合わせているはずの、鮮やかな金髪と碧眼さえも絶妙に似合わないほどに、少々太り気味の体型をした男だった。
男は、執務室に騎士団長以外の人間が二人もいることに気づき――……ヨハン同様、これ以上ないほどに目を見開く。
その反応を見て、いよいよ目の前にいる男が他人の空似ではないと確信したヨハンは、自己紹介をされる前に男の名前を訥々と呟いた。
「カル……セル……」





