表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪愛の復讐者  作者: 亜逸
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/220

第30話 絶望を越えて

 テストは一人、夜の大森林を駆け抜けていた。


 後発隊と呼ばれていた、一〇人の《終末を招く者(フィンブルヴェート)》は全員斬り捨てた。

 ヨハンに言われたとおり魔法陣を潰し、〝グラウンドヴァイン〟なる長距離移動魔法の機能を停止させた。

 

 やるべきことはやった。が、どうしても胸中に渦巻く不安が消えない。

 最悪の想像ばかりが脳裏に去来する。


(大丈夫。コーダさんもゲイツも、グラムの騎士に恥じない実力者だ。先程斬り捨てた奴ら程度なら、何十人いようが敵じゃない。けど……)


 テストは知っている。

終末を招く者(フィンブルヴェート)》には、実力者などという生ぬるい言葉では表しきれない、七至徒と呼ばれる化け物がいることを。

 そして、その化け物の候補として選ばれた者たちがいることを。


 ストウロのような小さな村に、七至徒やその候補が現れるとは考えにくい。

 だけど、もし、何かの間違いで現れていたとしたら、


(コーダさんとゲイツでは荷が重すぎる……!)


 逸る気持ちに背中を押されながら、森の中をひた走る。

 やがて、村の近くまでたどり着くも、


「これは……」


 村を離れた時には存在していなかった、高さ三メートル程の岩壁が村を閉じ込めるように拡がっているのを見て、眉をひそめる。


 村にいた人間を逃がさないために、《終末を招く者(フィンブルヴェート)》が魔法で岩壁を築いたという推測はできる。

 だが、なぜ村と森の境目ではなく、森を少し進んだところに築いたのか?

 その理由が、テストには皆目見当がつかなかった。

 見当がつくことといえば、木上を高速で移動していたヨハンが、岩壁の存在に気づいてすらいなかった可能性が高いということくらいのものだった。


 これ以上考えても仕方がないので、地を蹴り、一足で岩壁の上に着地する。

 続けて、眼下に視線を落としたところで、テストはようやく森の中に岩壁が築かれた理由を察する。


「悪趣味な真似を……!」


 眼下では、壁に縋りつきながら息絶えた村人の遺体があった。

 この岩壁は、必死の思いで森に逃げてきた人間に、絶望を与えるために築かれたものだった。


「……すまない」


 遺体をそのままにしていくことを短く詫び、岩壁から飛び降りて村へ向かう。

 ほどなくして村にたどり着いたテストは、自分と同じ騎士服に身を包んだ首なしの遺体を〝視〟て、唇を噛み締める。


「ゲイツ……!」


 やはり、七至徒か、七至徒候補が現れたのだと確信する。が、同時に疑問にも思う。


「……静かすぎる。それに人の気配も……一人だけ? しかも、この気配は……間違いない。ヨハンだ」


 確かにヨハンならば、七至徒はともかく、その候補を倒せてもなんら不思議はないとテストは思う。

 テストが垣間〝視〟た魔法士としてのヨハンの実力は、そう思わされるほどに凄絶だった。


「けど、それ以外の人は……」


 味方も、敵も、全て死んでしまった。

 そう考えるのが自然だが、どうしても受け入れることができず、意味もなくかぶりを振ってしまう。


 とにかく状況を、特に仲間(コーダ)の生死を確かめるためにも、まずはヨハンと合流した方がいい。

 そう考えたテストは、村の様子を確かめながら、小走りで気配を感じる方角へ向かう。


 村の惨状は、目を覆いたくなるほどにひどかった。

 味方も敵も関係なく、遺体の多くが無残な死に様を晒していた。

 家屋は今もなお焼け続けているものか、完全に焼け落ちたものしか残っていなかった。


「……すまない」


 走りながら、誰にともなく詫びる。


 帝国の侵攻が及んでいないこの地では、帝国の手の者が現れたとしても、せいぜい二、三人程度だと思っていた。

 どれほど多くても、二桁を超えることはないと思っていた。


 事実、それほどの大所帯の潜入は、《グラム騎士団》と地方領主の連携により、未然に防いでいた。

 一人一人バラバラに動いてこの地に潜入し、後ほど合流しようとしていた者たちの動きも、未然に防いでいた。


(まさか、魔法を使って長距離を移動してくるとは……!)


 そんな魔法があるなんて知らなかった――などと言い訳をするつもりはない。

 ストウロ村の人たちを、《グラム騎士団》の入団を希望していた人たちを、死なせてしまったのだ。

 過失は全て自分たちに……いや、自分にあると、テストは己を責め続けた。


 やがて、気配のもとにたどり着く。

 テストが察知したとおり、気配の主はヨハンだった。


 ヨハンは、血塗れになった少女の遺体を見下ろしながら、立ち尽していた。

 そこから少し離れた位置で、血と涙と涎と糞尿に塗れて絶命している男は、おそらく《終末を招く者(フィンブルヴェート)》だったのだろうと、少女を殺した者だろうと、テストは推測する。


 少女が、ヨハンとともに行動していたことは知っている。

 少女が、ヨハンとどういう関係にあったのかまでは知らない。


 だけど、ヨハンが少女の死を悲しみ、悔やんでいることは、〝視〟るまでもなくわかる。

 だから、なんと声をかければいいのかわからなかった。


「……テストか」


 不意に、ヨハンの口が開く。

 独りごちるように言われたせいで危うく聞き流しそうになりながらも、テストは応じた。


「ああ。《終末を招く者(やつら)》の増援と魔法陣は、しっかり潰しておいた」

「……そうか」


 重い沈黙が、二人の肩にのしかかる。

 コーダを見かけたかどうか確認したかったが、今のヨハンは少女の死を受け止めるだけで精いっぱいにしか見えなくて……とてもじゃないが、訊ねられる雰囲気ではなかった。


「……生き残っている人がいないか探してくる」


 気配からして十中八九生存者がいないとわかっていながらも、ありもしない希望に縋るように、残酷な現実から逃げるように、ヨハンのもとから離れる。

 もっとも、それで逃がしてくれるほど、残酷な現実というものは甘くないが。


「コーダさん……!」


 焼け落ちた食堂(ダイナー)の傍にコーダの遺体が倒れているのを発見し、テストは騎士服の胸の辺りをキュッと握り締める。

 真白かったコーダの騎士服は、あの少女と同様、血の赤に染まっていた。


 テストが《グラム騎士団》に入ったのは、およそ一年前。

 騎士団長と親交があり、なおかつ圧倒的な実力を有していたこともあって、テストは客員に近い形で入団した。

 ゆえに、同僚と呼べる人間はおらず、()()()()()を抱えているせいもあって、一年経った今でも騎士団内において、友人、知人と呼べる人間の数は少なかった。

 そして、その数少ない人間が、コーダとゲイツだった。


 瞼を強く閉じ、瞳の奥から込み上げてきたものを強引に押し返す。

 それは、一年前に捨てた弱さだと自分に言い聞かせる。


 瞼を開いた後、遺体をそのまましておくことをコーダに詫びつつ、村を見てまわる。わかっていたことだが、自分とヨハン以外に生き残った人間は一人もいなかった。

 コーダも、ゲイツも、村人も、《グラム騎士団》入団希望者も、《終末を招く者(フィンブルヴェート)》も……誰も彼もが非業の死を遂げていた。


(このままにはしておけない……していいはずがない……!)


 そう思ったテストは、確固たる足取りでヨハンのもとへ戻る。

 ヨハンは、相も変わらず少女を見下ろしたまま、立ち尽していた。


「つまらない理屈を言えば、いつ、どんな方法で敵が現れるかわからない以上、今すぐこの場を離れた方がいい。この場に留まっていると、どんな危険が降りかかってくるかわかったものじゃないからね」

「……そんな理屈はどうでもいい」


 先程よりもヨハンの声音がしっかりしていることに安堵しつつ、テストは同意する。


「どうでもいいと思っているのは、ボクも同じさ。だから提案というか、ボクの希望を言わせてもらうと、ボクは亡くなった人たちを弔ってあげたいと思ってる」

「全員か?」


 テストは首肯を返し、


「もちろん《終末を招く者(フィンブルヴェート)》を除いて、だけどね」


 ヨハンは今一度少女に視線を戻し、数瞬瞑目してから答える。


「わかった。手伝おう。僕も、レティアたちをこのままにしていきたくはなかったからな」



 ◇ ◇ ◇



 テストと話し合った結果、亡くなった人たちは土に埋め、その上に合祀墓を設けるという形で弔うことに決めた。


 地属性魔法を使って地面に大きな穴を掘り、一人一人丁寧に、穴の底に寝かせていく。

 意識してか、あるいは無意識の内か、ヨハンもテストも、レティアやコーダたちの遺体を後回しにし、自分とは縁もゆかりもない人たちを優先して穴に運んでいった。


 二人は黙々と、ただ黙々と遺体を運び続けた。

 作業的にならないよう気をつけながら一人一人丁寧に運び、穴の底にたどり着くと、ガラス細工を扱うようにそっと遺体を寝かせ、黙祷を捧げる。

 それをひたすら、ただひたすら繰り返した。


 やがて夜が明け、村人や入団希望者たちの遺体を全て運び終えた二人に、いよいよ別離の時が訪れる。


 ヨハンは、レティア、ラスパー、スレット、トムソンの四人と。


 テストは、コーダ、ゲイツの二人と。


 コーダたちの遺体はテストに任せ、ヨハンは先にスレットとトムソンの遺体を穴に運ぶ。

 穴の底に寝かせた後に捧げた黙祷は、先程まで運んでいた遺体よりも必然、長くなってしまった。


 続けてラスパーの遺体を背負い、穴を目指して歩き出す。

 ストウロ村にたどり着くまでの間、レティアだけではなくラスパーたちにも戦い方について何かしら教えていたら、結果はもう少し変わっていたかもしれない――そんなことを考え、首を横に振る。


 ラスパーたちに比べたら()()()というだけで、自分には人に教えられるほどの〝武〟は持ち合わせていない。

 魔法の延長線で、射撃の基本を教えるのがせいぜいだ。


 そうとわかっていながらも、どうしても探し求めてしまう。

 魚一匹いない池に釣り糸を垂らすように、不正解の中から正解を探し求めてしまう。

 どうすればレティアたちが死なずに済んだのか、その解を探し求めてしまう。


 そうこうしている内に穴にたどり着き、ラスパーを寝かせた後、自傷じみた探求を中断して黙祷を捧げる。


 長い長い黙祷を終えて瞼を上げると、いつの間に運び終えていたのか、コーダとゲイツの遺体に黙祷を捧げるテストの姿が、視界の端に映っていた。

 テストの頬に一筋だけ涙が伝うのを見たヨハンは、気づかなかったフリをするように踵を返し、レティアのもとへ向かう。


 レティアが最後になってしまったのは、彼女が生きている内に駆けつけたにもかかわらず救うことができなかった自責の念と、彼女が生きている内に駆けつけたからこそ彼女の死を受け入れきることができない心の弱さが原因だった。


「せめて、ラスパーの隣に寝かせてやらないとな」


 踏ん切りをつかせるように、あえて言葉に出しながら、レティアの遺体を抱き上げようとする。が、その際にレティアの懐から短銃媒体(ピストル)が滑り落ち、それを言い訳に彼女を抱き上げるのを中断する。

 もう一度、優しくレティアを地面に寝かせた後、短銃媒体(ピストル)を拾い上げる。


「…………」


 拾い上げたはいいものの、この短銃媒体(ピストル)をどうしたいのかは自分にもわからなかった。

 形見としてもらい受けようかと考えるも、もともとは帝国兵が持っていた物なので、形見と言うには少し――いや、かなり違う気がする。

 そもそも、レティアたちとともに過ごしたのは、たったの五日だけ。

 その程度の付き合いしかない自分が形見をもらい受けるのは、やはり、かなり違う気がする。


 結論が出ず、迷子の子供のように途方に暮れていると、


「もらってあげなよ」


 いつの間にか傍にいたテストが、背中を押すように言ってくる。


「〝視〟たところ帝国兵から奪った物だろうけど、短銃媒体(それ)を持って帝国と戦おうと誓ったのは彼女の意志なんだろう?」

「……ああ。帝国に奪われた故郷を取り戻すと言っていた」

「だったら、もらってあげなよ。その短銃媒体(ピストル)は、彼女の戦う意志であり、遺志でもある。お守り代わりでもいい。キミが短銃媒体(それ)を持って戦うことで、彼女もキミと一緒に戦うことできるから……もらってあげなよ」


 しばし、瞑目する。

 確かに、この短銃媒体(ピストル)をレティアの形見と呼ぶには微妙かもしれないが、レティアの戦う意志と呼ぶには、まさしくそのとおりだと思う。

 それに、短い付き合いしかない自分がもらい受けるには、形見とも言い切れないこの短銃媒体(ピストル)くらいが丁度いいのかもしれないとも思う。


「わかった」


 短く応じ、レティアの短銃媒体(ピストル)を懐に仕舞う。

 それから、今度こそレティアの遺体を抱き上げ、穴の底へ向かい、ラスパーの隣にそっと寝かせた。


「ボクもいいかい?」

「ああ。人が多い方がレティアも喜ぶだろうしな」


 瞑目したヨハンは、


(護ってやれなくてすまない……ミーミル村は……君たちの故郷は……僕が必ず取り戻す……! そして……《終末を招く者(やつら)》に必ず復讐してやる……! だから、どうか……安らかに……)


 長い、長い、これまでで一番長い、黙祷と、懺悔と、決意を、レティアに捧げる。

 瞼を上げると、こちらよりも先に黙祷を終えていたテストが声をかけてくる。


「もういいのかい?」


 ヨハンはわずかな沈黙を挟み、応じる。


「ああ」


 そして、双眸に冷たい怒りを揺蕩(たゆた)わせながら、こう続けた。


「皆を弔った後に、やっておかなければならないことがある」

「わかってる。《終末を招く者(フィンブルヴェート)》の死体の処理、だね」


 ヨハンは首肯を返し、


「騎士の君が、死体に鞭打ちような真似をするのは抵抗があるだろう。《終末を招く者(やつら)》の死体は僕が片づけておこう」

「……そうだね。お言葉に甘えさせてもらうよ」


 レティアたちの遺体を土に埋め、その上に木の棒を十字に組んだ簡素な墓を設けた後、ヨハンは、ラガルを含めた《終末を招く者(フィンブルヴェート)》の死体の全てを魔法で粉微塵にし、塵一つ残すことなく焼き捨てた。

 恨みを晴らすように。

 憂さを晴らすように。


 これで、弔いも、処分も、終わった。

 後はもう、村を離れるだけだった。


 荷物をまとめ、向かい合ったヨハンとテストは、全身が血と土埃に塗れていた。


「着替えはあるのか?」

「もともと、村を発つ前に別の服に着替える手筈になっていたから、ちゃんと持ってるよ」


 ヨハンは納得したように「ああ」と漏らし、


「コークス王国内において、《グラム騎士団》の騎士服は良くも悪くも目立つ。人を集めるためならともかく、帝国に知られるわけにはいかない本拠地を目指すには向いていないということか」

「そういうこと。まあ、でも、着替えるのはどこかで身を清めてからにしたいところだけどね」


 土埃に(まみ)れた手を見つめ、あるかなきかのため息をつく。


「ところで、そういうキミこそ、ちゃんと着替えは持ってるのかい?」

「一着だけだがな」

「一着だけか。一応、問題はなさそうだね……」


 数瞬沈黙を挟み、確かめるようにテストは訊ねる。


「キミがストウロ村に来たのは、《グラム騎士団》に入団することが目的じゃない。《終末を招く者(フィンブルヴェート)》の情報を集めるため。そうだろう?」

「ああ。実際、情報には期待できそうだしな」


 そう言ってヨハンは、試すような視線をテストに向けた。


「そういえば、あの時ボクは『どうやらキミ()終末を招く者(フィンブルヴェート)》に恨みがあるようだが』とかなんとか口を滑らせてしまってたね」


 大森林の奥で《終末を招く者(フィンブルヴェート)》を見かけ、ヨハンが憎悪に駆られた時に言った自分の言葉を思い出し、テストは小さくため息をつく。


「それなりに情報を持っていることは認めるけど、キミの望む情報を持っているかどうかは保証しないよ」

「構わない。僕は《終末を招く者(フィンブルヴェート)》について、あまりにも知らなさすぎるからな。今は一つでも多くの情報が欲しい」

「ということは、ギブ・アンド・テイクは期待できなさそうだね」

「それは……正直、すまないと思ってる」


 ヨハンが素直に謝ったことで、大森林の奥でヨハンの人柄を〝視〟誤ったことについても思い出したのか、テストの頬には微苦笑が浮かんでいた。


「さて、そろそろ本題に入るとしよう。ボクは事の顛末を報告するために《グラム騎士団》の本拠地に戻るつもりだけど、キミはどうする? 一緒に来るというなら、ボク個人は歓迎させてもらうけど」

「ボク個人、か。他の者からは歓迎されないような言い様だな」

「実際、歓迎されないと思うよ。帝国の魔法士に仲間を殺されたことで、魔法に対して忌避感を覚えている人間は少なくない。それに、騎士の多くは規律とかそういうのに厳しいからね。禁を破って魔法を使うキミのことを良く思う人間は、そうそういないと思うよ。……騎士団長を除いて」

「騎士団長を除いて?」


 思わず、オウムのように返してしまう。


「実力も人望も騎士団長にふさわしい人なんだけど……その……色々と、型破りなところがあってね。まあ、そのおかげでボクも騎士団に入れたわけだけど――……っと、そんなことはどうでもいいか」


 どうでもいいと言いつつも、どこか焦ったような表情を見せていたテストは、わざとらしく咳払いをしてから話を戻す。


「と、とにかく、歓迎は期待できないことを念頭に置いた上でもう一度訊くけど、ボクと一緒に《グラム騎士団》の本拠地に来る気はないかい?」

「……僕を招き入れたことで、キミに余計な軋轢が降りかかるかもしれないぞ?」

「そこはご心配なく。剣の実力を見込まれて、客員に近い形で騎士になったせいか、軋轢との付き合いは長くてね。今さら一つや二つ増えたところで、どうということはない。それにボクは、キミの魔法士としての実力と知識を買っている。それこそ、軋轢の一つや二つ増えても釣りがくると思っているくらいにね」

「そうか……。ならば、断る理由はないな」


 そう言って、ヨハンはテストに右手を差し伸べ、握手を求める。


「先に言っておくが、《グラム騎士団》については、復讐のために利用することしか考えていない。それでも構わないか?」

「構わないよ」


 利用するという発言をあっさりと了承したテストが、微塵の躊躇いもなく手を握り返してくる。

 テストの手は、剣ダコの硬さと、女性のそれを想起させる柔らかさが同居した、不思議な感触に充ち満ちていた。

 そして、


「ボクが〝視〟たところ、キミは目的のためだけに誰かを利用できるような人間じゃないからね」


 淡い微笑を浮かべるその顔は、やはり、女性のそれを想起させるほどに美しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「孤高の暗殺者は、王女を拾い育てる」がファンタジア文庫より7月17日に発売されマース。
本作とはまた違った方向性のダークファンタジーになっておりマスので、興味が湧いた方は下の画像リンクから特設サイトを覗いていただけると幸いデース。

322003001177.jpg

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ