1話 貴方の<職業>は…
「ついにこの日がやってきた」
胸の中を満たすのは自信、希望、興奮、そして未来への期待。
朝は苦手なため、いつもなら頭が重く鈍いのだが、今日は胸の高鳴りのせいか頭が軽い。
なぜいつもと違うのかというと、今日は僕の成人の儀が行われるからだ。
成人の儀とは、15歳を迎え成人となった者が教会に行き、女神イミルから祝福を受け、<職業>を授かる儀式のことだ。
<職業>は大きく2つに分けることができ、<剣士>や<槍使い>などの戦闘職、<農家>や<鍛冶師>などの生産職だ。
カーテンを開け、日の光に眩む目をこすりながら、最低限の身なりを整えて、朝食を食べに食堂に向かう。
僕の名前はアース=セイズ。
ノルド王国の侯爵、セイズ家の後継者だ。
セイズ家は魔法の名家で、歴代の当主は全員魔法系の<職業>に就いていた。
食堂につき扉を開けると父であり、セイズ家現当主であるランバート=セイズが、母アンネリーゼ=セイズとともに朝食を食べていた。
「遅いわよ、アース。しっかりしなさい、今日は貴方の大事な日なんだから」
「そうだぞアース、今日はお前の成人の儀だ。<職業>を授かる前に中級魔法まで覚えたお前なら、私と同じ上位職である<魔術師>じゃなく、魔法系の最上位職<魔導師>になれるだろう」
戦闘職には基本的に3つの位があり(生産職にはない)、下から一般職、上位職、最上位職である。
もちろん、上位の<職業>であるほど就いている者は少なくなっていく。
上位職ですら稀で、1万人に1人の割合だ。
最上位職ともなれば、100万人に1人というまさに奇跡だ。
その分、上位の<職業>は破格の力を有しており、一般職10人が相手でも勝てるほどの力が上位職にはあり、さらにその上位職10人が相手でも勝てるほどの力を有するのが最上位職だ。
「いや、もしかしたら超越職である<大魔道士>にだってなれるかもしれないな」
父は冗談まじりに言う。
超越職、それはまさにさっきの3つの位に当てはまらない例外。
1000年前、魔神を封印した12人の英雄が就いていた<職業>。
槍が山を貫き、剣が空を裂き、斧が大地を割ったなどの数々の逸話が童話として今なお残っている。
12人の名前は伝わっていないものの、<職業>は伝わっている。
ただ、11個の<職業>しか伝わっておらず、残りの1つの<職業>については様々な憶測が飛び交っている。
「そうね。中級魔法なんて本来なら<魔法使い>になって初めて覚えられるものなのにね」
両親は温かく言葉をかけてくれる。
「あはは、まぁ期待して待っててよ」
僕は自信満々に応えた。
ちらりと時計を見るとそろそろ家を出る時間だ。
身支度を整え、両親とともに成人の儀が行われる教会へ向かった。
馬車に揺られて30分強、美しく荘厳な教会に着いた。
中に入ると、外とはまた違う美しさがあり、どこか神聖さを感じる空間が広がっていた。
少し経つと成人の儀が始まった。
成人の儀の内容はシンプルだ。
<神官>を通して女神イミルからの祝福、つまり<職業>を授かる。
形式的な挨拶が終わり、<神官>の前まで行く。
片膝をたて、目を瞑り、両手を祈るように合わせて、今か今かとその時を待つ。
「アース=セイズ、貴方の<職業>は…」
<神官>はそこで言い淀み、少し戸惑ったような表情をする。
少しの逡巡の末、彼は気まずそうに言った。
「あ、貴方の<職業>は<笛吹き>です。」
さっきまでの祝いの場特有の温かな空気が一瞬で凍り付いた。
「ふ、<笛吹き>?そんなものが何の役に立つの?」
母は自嘲気味言う。
何が起きたのか理解が追いつかない。
「ぼ、ぼくは、いっ、たぃ、なに、が…」
しどろもどろに吐き出された言葉はうまくまとまらない。
助けを求めるように父のほうをを見ると、とても冷たく鋭い目でこちらを見ていた。
刹那の思考の末、父は語気を強めて言った。
「魔法系どころか聞いたこともない<職業>を持つ者など、セイズ家にはいらない。失せろ役立たず」
僕が今までの積み上げたものが、一瞬で崩れ落ちていった。
時間、労力、思い出…この15年間が泡沫のように消えてなくなってしまった。
頭を埋めつくすのは自己嫌悪、絶望、悲哀、そして未来への不安。
あまりにも積み重なったそれは限界を超える。
僕の視界は真っ黒になった。




