↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『White Cage――透明な献身――』  作者: 長谷川鈴凪
8 Hollow Anchor 空虚な碇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/64

49―綻び

――統括チーフ室

紗奈は後ろ手にして立ち、書類に目を落としている透也とデスクを挟んで対峙していた。

「透也、私アメリカに行ってもっと護衛の実戦を積みたい」

紗奈は透也の顔をあえて見た。

「だから高校を卒業したら行ってもいい?そうしたらもっとあなたの役に立てると思う」

「アメリカには行かせないと言ったはずだ」

透也は書類から一度だけ目を上げて紗奈を見ると、また視線を戻した。これ以上この話題はしたくないとでもいうふうに。


「……私を本当に壊したいの?」

吐き捨てるようにそれは勝手に紗奈の口から出た。

「どういう意味だ」

唸るような低い声だった。

紗奈は答えない。

答えれば、本当に透也を殺したくなりそうだった。

重い沈黙が落ちる。

空調の音だけが微かに空間を支配していた。


紗奈はTSOの医務室にいた。

「どうした?眠れていないのかい」

薫がコーヒーカップを片手にカルテへ目を落としたまま尋ねる。

ソファに寝転んでいた紗奈は天井を見上げた。

「ねえ」

「うん?」

「透也が結婚したら、私はどうしたらいいと思う?」

薫の手が止まった。

数秒遅れて、静かにカップを机へ置く。


「まだ決まった話じゃないだろう」

「でも、いつかはするでしょ」

紗奈は腕で目元を隠した。

「そうなったら私は城瀬家を出る」

まるで当然の未来を確認するような口調だった。

「紗奈」

「だから考えてるの」

腕を下ろす。

「次は誰のところへ行けばいいのかなって」

薫は眉をひそめた。

その発想自体がおかしい。

だが紗奈は本気だった。

「レイはアメリカだし」

「透也は結婚するし」

「だから」

少し考える。

そして。


「次はあなたが私の主(あるじ)になってくれない?」

医務室の空気が止まる。

薫は深く息を吐いた。

「なれない」

即答だった。

「どうして?」

「私は君の主じゃない」


薫は椅子から立ち上がる。

「君の主治医だから」

紗奈は少しだけ視線を逸らした。

まるで答え合わせに失敗した子供のように。

「……冷たいのね」

紗奈は身体を起こした。


「違うよ」

薫は静かに言う。

「君は勘違いしている」

「何を?」

「誰かの所有物にならないと生きられないと思っていることをだ」

紗奈は黙った。

その沈黙だけで十分だった。

薫が椅子から立ち上がり紗奈の前に立つ。

「透也じゃなければ私でもいい」

「私じゃなければ別の誰かでもいい」

「そんな話じゃないだろう」

紗奈の指先がわずかに震える。


「……私に魅力がないから?」

紗奈は薫の白衣の下にあるネクタイを引っ張り、自分に近づかせる。

薫が咄嗟にソファの背もたれに手をつく。唇が触れそうな距離。

「違う」

短く答える。

長い沈黙。


紗奈はネクタイを引っ張っていた力を抜く。

やがて紗奈は視線を逸らした。

「……冗談よ」

その声だけが、少し寂しそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。