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『White Cage――透明な献身――』  作者: 長谷川鈴凪
7 Cold Embrace 冷たい抱擁

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46―歪み

 私邸のトレーニング室。

紗奈は模擬ナイフを手に梶の前に立った。

その瞬間、少女の輪郭が揺らぎ、鋭利な刃物のような殺気が空間を支配した。

――獣の気配

梶は反射的に唾を呑み込んだ。一年前の、荒削りで無謀な突撃とは何もかもが違う。

目の前の少女は、もう少女の動きではなかった。

無駄がない。

迷いがない。

そして、容赦がない。

一歩踏み込むたびに、梶の反応は一拍遅れる。

「……おいおい、すごいな」

模擬ナイフが喉元で止まる。

次の瞬間、梶の手が空を切った。

「もういい」

透也の声。

静かすぎて、逆に重い。


梶は息を吐く。

「今のは……テストか?」

透也は答えない。ただ視線だけを紗奈に向ける。

「合格だ」


梶が眉をひそめる。

「合格って……何のだ」

透也はようやく言う。

「紗奈を、私の護衛につける」

「……正気ですか?」

梶の声が一段上がる。

「彼女はまだ十六ですよ」

「それにTSOは、彼女を守るための場所じゃなかったんですか」

透也は一瞬だけ黙る。

そして低く言う。

「守るだけでは足りない」


――S/F社、最上階の重役会議室

定例の役員会議が始まろうとしていた。

重厚な扉が開かれ、一人の少女が入室した時、室内を支配していた冷え切った空気が一瞬で凍りついた。

透也のすぐ後ろ、半歩下がった位置。  

そこに立っていたのは、一年前に姿を消したはずの紗奈だった。完璧に仕立てられたスーツ、洗練された所作、そして何より、周囲の人間を無意識に威圧する「死の匂い」。


彼女は透也のTSOのSF(Security Force)として、父・和馬の前に立っていた。

透也は、父の不快感に満ちた視線を真っ向から受け流しながら、内心で激しい自嘲の笑みを浮かべた。

自分は、ずっとやりたかったのだ。

この城瀬という巨大な泥沼の中に、紗奈を連れ出すこと。

和馬という呪縛の前に、自分の庇護下にある彼女を堂々と立たせること。

それを、レイモンドは嘲笑うようにやってのけたのだった。

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