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『White Cage――透明な献身――』  作者: 長谷川鈴凪
7 Cold Embrace 冷たい抱擁

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40―TSO始動

――今から六年前

大学を卒業し、後継者として働き始めた透也を、父・和馬は徹底的に忙殺した。

会議。出張。接待。役員説明。

与えられる仕事は、どれも断れないものばかりだった。

目的は一つ。

紗奈から透也を引き離すこと。


日付が変わる頃。

人の消えたオフィスで、透也はようやくペンを置いた。デスク脇のスマートフォンを手に取る。

映し出されたのは私邸の監視カメラ映像だった。

広いベッドの隅で。

左には一人分の空いたスペース。

小さく身体を丸めて眠る少女。涙の痕だけが、頬に薄く残っている。

透也は無言で画面を見つめた。


彼女は自分がいない夜に慣れない。

眠れない。

食べられない。

呼吸するように耐えている。

その事実に、透也の胸はゆっくりと軋んだ。

守りたい。

奪い返したい。

殺してしまいたいほど腹が立つ。

感情が区別できなくなる。


数日後。

紗奈の通院には薫を付き添わせた。和馬の影響が及ばない数少ない人間だった。

昼休み。

薫から電話が入る。

「入院を勧められた」

透也は眉を動かさない。

「理由は」

「誰かが見ていないと危ないらしい」

沈黙。

「連れて帰れ」

薫が小さく息を吐く。

「そう言うと思ったよ」

少し間を置いて続けた。

「栄養剤の点滴だけ受けさせてる」

透也は目を閉じた。

食事もまともに取れていない。

知っていた。

知っていて、何もできない。


そんな頃だった。

レイモンド・グレインフォードが現れたのは。


視察先。

海外企業との交流会。

透也が名刺交換を終えた直後だった。

「君がミスター城瀬の息子か?」

流暢な日本語。

振り返る。

そこには長身の男が立っていた。

年齢は三十前後。だが纏う空気は異様だった。

若い実業家。

そんな言葉では足りない。

王が私服で歩いているような存在感。


「おすすめのバーがあるのですが、ご一緒にいかがですか?」

透也は営業用の微笑みを浮かべる。

「良いですね」

レイモンドは笑った。

そして思う。

なるほど。

この男は壊れかけている。


父親の話ではなかった。会社の話でもない。

その視線の先には、どこか別の場所にいる誰かがいる。


面白い。


レイモンドはそう思った。


レイモンドの手腕を借り、透也はTSOを立ち上げた。

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