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『White Cage――透明な献身――』  作者: 長谷川鈴凪
6 Last Protocol  最後の行動規範

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39―社会科見学

約束していた会社見学の日。

 S/F社の広大な展示室に、紗奈のクラスメイトが五人いる。

各々おしゃれしている。紗奈もシンプルなワンピースを着ていた。

「紗奈ちゃん、今日はありがとう」

「でもこれじゃあ普通の社会見学だね」

そう言って雑談しているところに、背後から声がした。

「それなら社内を案内しましょうか?」

「紗奈ちゃんのお兄様!こんにちは」

友人たちが色めきだす。


冷徹なチーフの顔から、無害な保護者の顔を張り付けている透也がいる。

それを紗奈は興味なさげに見ていた。


隣にいた真衣が話かける。

「お兄さんって、いつもあんな感じで優しいの?」

「優しく見えるのは、仕事だからだよ」

紗奈はわざと全員に聞こえる声で言った。

静寂が訪れた。

「……紗奈」

透也が優しく、しかし有無を言わせぬ響きで彼女の名を呼ぶ。

「女性なら誰にでもそうするんだよね」

「……そう見えるなら、気をつけるべきだな」


クラスメイトの一人が進言する。

「あ、あのお兄様。私、将来医療系を考えていて、医務室とかって見学できたりしませんか?」

「それなら、専門の者に案内させましょう」

透也はスマートフォンを取り出し、薫に連絡を入れる。


程なくして、一般社員用の医務室を薫が案内することになる。

友人は興味深そうに質問を重ねている。

紗奈はその隣には立たず、少し遅れて、透也の背後を歩く。

一定の距離。

変わらない位置。

透也はふと足を止めた。

背後の気配が、一拍遅れてぶつかる。

「……っ」

紗奈は鼻を押さえ、小さく眉を寄せた。

「ひどい」

「……そうか」

透也は一瞬だけ視線を落とし、また前を向く。

「さっきのお返しだ」


薫は透也の口角が一瞬あがったのを見逃さなかった。

(……今、昔みたいだったな)

透也が時間を確認する。

「薫、そろそろ切り上げろ」

「……あぁ」


 紗奈は友人と会社の入口で別れた。車が見えなくなると、紗奈の顔からも表情が消えた。

三十五階、TSOの静寂に包まれた薄暗い廊下で洸樹がワンピース姿の紗奈とすれ違う。

「おっ……」

紗奈は洸樹の方を見向きもせず通り過ぎた。

更衣室に入ると紗奈は、ワンピースを脱ぎ捨てた。

いつものビスチェ型防弾チョッキと黒のショートパンツ姿。

左足を椅子の上に乗せ、左内太ももに固定された白いタクティカルナイフの輪郭をなぞるように指を沿わす。

紗奈の短い呼吸が均一に整っていく。

紗奈の熱が冷たいセラミックナイフに吸い込まれるかのようだった。


レイモンドの言葉が頭の中でリフレインする。

「紗奈、いいな。それを抜くときはお前が最後の選択をする時だけだ」


十五歳の時、アメリカについてすぐレイモンドは紗奈にこの白くて美しいナイフを贈った。

「綺麗……」

上質な白い本革の箱に入ったそれは、武器に見えなかった。

「そうだ。同じ道具でも使いようによって美しくも、醜くもなる」

「お前はどっちになりたいんだ」

「どっちでもいい」

紗奈はナイフを緩衝材から外す。

「……そうか。つまらないな」


(第六幕――完)

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