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『White Cage――透明な献身――』  作者: 長谷川鈴凪
6 Last Protocol  最後の行動規範

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39/45

38―残骸

 保護者が帰り、校内は片付けに追われていた。


制服に着替えた紗奈を見つけたクラスメイトが、彼女に詰め寄る。

「城瀬さん!あんなかっこいいお兄さんがいたんだ!」

「お兄さんもS/F社で勤務してるんでしょう?」

「結婚してるの?」

「ちょっと、みんな紗奈が困ってるよ」

真衣が紗奈を心配する。紗奈は困ったように曖昧に笑う。

「兄はまだ独身だけど、ああ見えて二十八歳だよ」

「いや、見た目より若いし」

透也のことを恋愛枠で見ているクラスメイト達を何だか紗奈は、新鮮なものを見る目で見ていた。


「ねぇ、紗奈ちゃん。今度会社案内してよ。お兄さんとも会えるし」

強引な一人が紗奈の手を両手で掴もうと手を伸ばしたのを、紗奈はさらりと避ける。

「……一度、兄に聞いてみる」

「ありがとう、紗奈ちゃん」


「紗奈、本当に大丈夫?さっきの気にしなくていいと思うよ」

一緒にゴミを集めていた真衣が言う。

「ありがとう。でもちょっと面白かった」

「そう?あ、この後、みんなで打ち上げに行くんだけど紗奈はどうする?」

紗奈は静かに首を横に振った。

「そうだよね……。じゃあまたね」

そう言って、紗奈は真衣と教室で別れた。


紗奈は、車を呼ばず歩いて校門を出た。透也にはすでに打ち上げで遅くなると連絡を入れてある。

行先はなかった。でも一人になりたかった。

自分がどこに行きたいのか、どこに行けばいいのかわからない。

考えなくても、透也が全部決めてくれた。


欲しい化粧品も、食べたいものも、好きな人もいない。


「なぁ、あれ紗奈じゃね?」

洸樹の声は、ただの確認だった。

駅近くの居酒屋のテラス席。夜の匂いの中で、澪は視線だけをそちらに向ける。


確かに、紗奈がいた。

一人で歩いている。速くも遅くもない、一定の歩幅で。

澪はすぐには立たなかった。

数秒だけ見て、それから椅子を押す。

「……ちょっと見てくる」

荷物はそのままにして、距離を詰める。


「紗奈」

呼ぶと、彼女はすぐに気づいた。

「……澪さん?」

声は普通だった。

普通すぎて、逆に引っかかる。

「車は?」

「……」

少し間が空く。

「澪さんこそ、まだ近くにいたんですね」

後ろで洸樹が追いついてくる気配がする。

「デートだったんですね」

紗奈は、そう言って小さく笑った。

澪は何も返さない。


「なら放っておいてください」

その一言で、空気が一度だけ薄くなる。

澪は紗奈を見る。

見て、それから視線を外す。

「洸樹」

「……おう」

「タクシー」

短くそれだけ言う。

洸樹がスマートフォンを操作する。


 邸の書斎にいた透也のスマートフォンに門扉の監視カメラからの通知が来る。

見慣れないタクシー。

その車から制服姿の紗奈と洸樹と澪が降りてきた。

透也はひとまず玄関に向かった。


「あ、チーフ。お疲れ様です」

呼び鈴を押す前に出てきた透也を見て、平静を装って洸樹が言う。


「何かあったのか?」

「カフェでご友人といた紗奈が帰りたそうだったから、タクシー呼んじゃいました」

「……そうか。わざわざすまないな、澪」

澪は紗奈に目配せする。

「送って頂き、ありがとうございます」

透也が澪にタクシー代を多めに渡しているのを横目に紗奈は自室に入った。

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