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『White Cage――透明な献身――』  作者: 長谷川鈴凪
6 Last Protocol  最後の行動規範

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36/45

35―学園祭①

 学園祭当日。

紗奈は制服から黒いパンツに着替え、黒いベストと蝶ネクタイをつけると、自分の教室にもどった。

「紗奈、ちょっとこっち着て」

真衣が呼ぶ。紗奈は椅子に座らされる。

「何するの?真衣」

「せっかくなんだからメイクしないと」


化粧が施され、髪を高く結い上げた紗奈を、クラスメイトたちが囲む。

鏡に映るのは、いつもより少しだけ大人びた、けれどどこか生気の欠けた自分だった。唇の赤味だけが浮く。

「すごい、雰囲気全然違う……!」

真衣が感嘆の声を上げる。紗奈は鏡の中の自分を見つめ返し、小さく息を吐いた。

制服の野暮ったさが消えたことで、隠していたはずの「何者か」が輪郭を現す。

背筋を伸ばし、顎を引いたその姿勢は、無意識のうちに身体に染み付いたTSOの護衛の構えそのものだった。

その立ち姿が、カジノという虚構の空間と重なり、紗奈を「クラスの静かな女子」から「無機質なディーラー」へと変貌させていく。


 正門には『学園祭』と書かれた大きな立て看板がある。石造りの正門を通り、S/F社のロゴが入った巨大なセキュリティゲートを私服姿の洸樹と澪がくぐる。

「普通の高校だな」

黒Tシャツにジャケットを羽織った洸樹が周囲を見回す。

「当たり前でしょ。何だと思ってたの」

黒いパンツにスリッドの入ったスカートを重ね着した澪が呆れる。

「いや、紗奈が通ってるからもっとこう……」

「何よ」

「いやぁ。現役女子高生に声かけられたりして」

「きもっ」


教室の扉が開くたびに流れ込む熱気と喧騒。

以前の紗奈であれば、その熱に触れる前に身体を硬くし、自ら壁を作って視線を逸らしていただろう。

だが、今の彼女は違う。

背筋を張り、淡々カードを捌くその姿に、クラスメイトたちは畏怖にも似た憧憬を抱き、距離を詰めてくる。

「ねえ、城瀬さん。こっち向いて」

スマートフォンのカメラを向けられる。

「次、私が客やる!」

壁が崩れていく。


 次から次へと父兄や他校の生徒が見学にやってくる。紗奈のクラスのカジノクラブも他とは違った雰囲気で盛況だった。


洸樹と澪が、パンプレットを片手に教室の入口にいる。

紗奈のディーラー姿を見た二人は、固まる。

「……」

「……」

「澪」

「何」

「思ったこと言っていい?」

「やめなさい」


紗奈が立つその一卓だけは、空気が切り取られたように静かだった。

チップは学園祭らしく金色のアルミで包まれたコイン型チョコレートだった。カードがテーブルを滑る微かな風。

「……バースト。プレイヤーの負けです」

紗奈の声には抑揚がない。

負け続きの洸樹が唸る。それを澪が後ろで面白そうに見ている。

感情を殺し、ただ淡々と数字を処理するその様は、クラスの出し物という枠を逸脱していた。

賭けに負けた客は洸樹を含め誰一人として文句を口にせず、ただ気まずげにコインを差し出した。

紗奈は一礼もしない。

ただ、次のカードを束から抜く。

その指先は完璧なまでに整っており、無駄な動きが一つもない。


――その時。


カジノブースの入り口が、わずかに揺らいだ。 いつもなら喧騒に埋もれるはずの微かな違和感に、紗奈の視線が反応する。

教室の喧騒、生徒たちの笑い声、全てが遠ざかる。

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