34―最後の学園生活
レイモンド達が帰国してから二か月が経とうとしていた。
あの訓練の喧騒は紗奈の首の傷跡が日に日に薄くなるにつれ、二人の関係も落ち着きを取り戻していった。
高校生活最後の学園祭は、卒業を控えた三年生たちにとって大きなイベントだった。
連日、その準備で遅くまで校内は賑わっていた。
紗奈のクラスは、カジノ風設営でブラックジャックをやることに決まったようだった。
「城瀬さん!今日は逃がさないから」
いつものように直帰しようとした、紗奈をクラスメイトが呼び止める。
「ごめんなさい、当日は手伝うから」
「衣装合わせは当日じゃ間に合わないでしょ」
そう言って、カジノのディーラーだとすぐわかる黒い蝶ネクタイとベストを差し出される。
「白シャツは制服で大丈夫だから、当日は黒いパンツ持ってきてね」
紗奈は観念して、ベストを着て蝶ネクタイをつける。凛とした雰囲気の紗奈にそれはぴたりとはまっていた。
「城瀬さんて、こういうのすごく似合うね」
「そうでしょ?絶対似合うと思ったんだ」
友人の真衣が勝ち誇ったように言う。紗奈はため息を吐く。
「……私は何をすればいいの?」
「紗奈はディーラー役。テーブルでカードを配るの」
「わかった」
気は進まない。だが逃がしてもらえそうになかった。
準備の手伝いをしないならなおさら、本番で役割も全うするしかない。
私邸で食後のコーヒーを二人で飲んでいるときだった。
「透也、今度の土曜日学園祭で出勤できないから」
「あぁ知っている。お前のクラスは何をするんだ?」
「カジノで、ブラックジャック。私はディーラー役」
透也のカップを持っていた手が止まる。
白シャツ。
黒のベスト。
蝶ネクタイ。
カードを配る指先。
(見たい……)
「……時間が取れたら、俺も顔を出す」
「わかった」
紗奈は頷いた。
それ以上何も言わない。
「……来ても構わないのか?」
「どうして?」
「いや……」
紗奈は首を傾げた。
「だって保護者でしょう?」
透也はコーヒーを一口飲んだ。




