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『White Cage――透明な献身――』  作者: 長谷川鈴凪
5 Silent Choice  自発的服従

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30/45

29―技量テスト①

――S/F野外訓練場B

 S/F社が誇る野外を想定した広い室内訓練場。訓練生の動きが一目で分かるように、頭上にはガラス張りの見学室が張り出されている。

TSOのメンバーたちは、いつものスーツとは違い装備のついたタクティカルスーツに身を包んでいた。

ただ一人を除いて。

ジャケットを脱いだネクタイとシャツ一枚の姿。


「紗奈、それで大丈夫なのかよ。怪我するぞ」

洸樹が心配して並んだ紗奈に声をかける。

「私にそれは重すぎるんです。レイの許可は貰ってます」

(チーフじゃなくて、そっちなのかよ)

洸樹は心の中で毒づく。


現場を仕切る梶が、整列する隊員たちを見渡す。

その視線が紗奈で止まった。

「紗奈」

「はい」

梶は紗奈の左太ももへ視線を落とす。

パンツの外側に固定されたホルスター。

そこには黒い模擬ナイフが収まっていた。

「それを使うつもりか」

「必要ですから」

即答だった。

梶は小さく息を吐く。

「そう思っているうちは危ないと言っただろう」

紗奈は僅かに首を傾げる。

「でも、レイが見せてもいいって」

梶は数秒黙った。

「そうか」

それ以上何も言わない。

やがて訓練開始のブザーが鳴り響いた。


 最初は、個人の技量チェックからだった。

コンクリートの廃墟を設定した屋根のない建物の中にダミー人形10体ランダムに設置されている。それを無効化するタイムを測定する。

次は紗奈の番だった。紗奈はホルスターから黒い模擬ナイフを抜いた。模造品でありながら、その刃はまるで本物のような冷徹な光を放っていた。

ブザーが鳴り響くと同時に、紗奈は建物の影へと消えた。

次々と敵を無効化した音が聞こえてくる。


「まじ速えぇ……」

洸樹が思わず息を呑む。

見学室のモニターには、カメラが捉えた紗奈の動きが流れている。

迷いはない。

効率化された殺意が、建物の静寂を切り裂いていく。

最後の一体。紗奈は滑り込むように間合いを詰め、ナイフを人形の眉間へ投げた。

ドスという鈍い音が響く。

洸樹は思わず息を呑んだ。

あれが紗奈の本来の姿なのだろうか。


訓練場からは音が消えたかのような重苦しい静寂が降りる。

紗奈は乱れのない足取りで近づきナイフを抜くと、見学室を見上げた。

誰を見たのかは分からない。

だが、その瞬間だけ。

TSOの誰よりも強いはずの彼女が、ほんの僅かに表情を緩めた。

洸樹は反射的に視線を追う。

ガラスの向こう。

透也が立っていた。

「……ああ」

洸樹はようやく理解した。

紗奈は守っているんじゃない。

あの人がいるから壊れずに済んでいるだけだ。


透也は拳を強く握りしめる。

爪が食い込む痛みだけが、自分という男の輪郭を辛うじて繋ぎ止めている。

だが、レイモンドだけは満足そうに微笑んでいた。


(変わってないな。最初から、壊れる前提で動いている)


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