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『White Cage――透明な献身――』  作者: 長谷川鈴凪
5 Silent Choice  自発的服従

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27―消えない罪

 レイモンドが泊まる五つ星ホテルに、透也と紗奈も泊まることになっていた。


 五つ星ホテルの最上階のバー。

レイモンドは当然のように紗奈の前に立ち、行く手を遮った。

「ここからは大人の時間だ。君は部屋で休みなさい」

優しい声色なのに、拒否の余地はない。

紗奈は一瞬だけ透也を見る。透也は小さく頷いた。

「先に休んでいい」

紗奈はそのままエレベーターの方へ歩いていく。

その背中が消えるのを確認してから、レイモンドはバーテンダーにウイスキーを頼んだ。

彼の黒髪から覗く整った横顔を見て、バーテンダーが手元を一瞬止める。


グラスを受け取りながら、軽く笑う。

「相変わらず、お前の周りは湿度が高いな。窓、開いてるのか?」

「それが城瀬家なんだよ」

透也はソファに浅く腰を下ろす。レイモンドは肩をすくめた。

「なるほど。換気不良の一族か」

「お前の愛は重いんだよ」

「選んだだけだ」

「……それを選ぶタイプには見えないんだが。紗奈の何がそんなに良いんだ?」

「放っとけ」

「便利な答えだな、それ」

レイモンドはグラスを軽く回す。少し面白がっているようだった。

氷の音だけが、まだそこに残っていた。


 紗奈は、一人で割り当てられたホテルの部屋に足を踏み入れた。

クローゼットの中、ベッドの下、照明などに不穏な物がないか一通り確認をする。

窓の向こうには、都市の光が冷たく広がっていた。

広すぎる部屋は、ときおり彼女に「自分の輪郭」を曖昧にさせる。


紗奈はシャワーを浴び、白いバスローブに身を包んだ。

少し大きすぎる布を持て余しながら、窓際に座る。

膝を抱えたまま、呼吸が浅くなる。


(……だめ……)

音にならない声が喉の奥で崩れる。

「置いていかないで……」

意識が沈む。


気配があった。

鍵の音ではない。

もっと静かな、慣れた足音。

透也が、そこにいた。

紗奈の額に触れるように視線を落としながら、彼女の揺れを見ていた。

紗奈はうわ言のように続ける。

「あなたの腕の中で……盾でいられたら……」

その瞬間、呼吸が途切れるように目が開いた。


現実が戻る。涙で視界が少し歪んでいる。

窓の光はそのままで、部屋も変わっていない。

ただ一つ違うのは、背後に透也がいることだった。

腕の中に閉じ込められるように、紗奈は支えられていた。

「……お前は」

透也の声は低い。

「俺がまともに呼吸できなくなる姿を見たいのか」

紗奈は、その意味を知らないふりをした。瞬きをした瞬間、涙が頬を伝って落ちた。

透也は彼女を抱えたまま、視線を窓の光へ向ける。


その腕の中で、彼だけが理解していた。

これは安らぎではない。

静けさの中でこそ壊れていく孤独だった。


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