1―校門の向こう側へ
終業を告げるチャイムが校内に響き、その余韻がまだ廊下に残っているうちに、城瀬紗奈は指定カバンを手に立ち上がっていた。
「城瀬さん、今日も早いね」
すれ違いざま、ブラウンボブの少女・苑田真衣が声をかける。
紗奈は小さく会釈だけを返した。
冷たいわけではない。
ただ、向かう場所が違うだけだった。
昇降口で靴を履き替え、校門へ続く緩やかな坂を下る。歩調は乱れない。黒髪は風に揺れながらも、その輪郭だけは崩れない。
大きな石造りの正門が視界に近づく。
その境界を越えた瞬間、紗奈はわずかに口元の力を抜いた。
学校という箱庭から、彼女自身の時間へ戻る合図のように。
校門の外には、夕闇に溶け込む黒いセダンが静かに停まっていた。
同じように迎えを待つ生徒たちもいる。この学校ではそれ自体は珍しくない。
ただ、その中でもこの車は異質だった。
滑らかに後部座席へ乗り込むと、重厚なドアが閉じる音が外界を断ち切る。
一瞬で静寂が満ち、革の匂いだけが残った。
車が動き出すと同時に、紗奈は髪をまとめ直す。高い位置で結ばれたポニーテールが、空気の質を変える。
制服の下には薄い防弾繊維の黒いビスチェ風装備。
黒いショートパンツ。
左の内腿には、白い装飾のように収められたタクティカルナイフ。
彼女は静かに制服を脱ぎ替え、黒のスーツへと身体を通す。
「……はぁ」
短く息を吐き、黒いネクタイを締める手つきに迷いはない。
最後にジャケットを羽織ると、柔らかさは完全に消え、輪郭だけが残った。
制服は丁寧に畳まれ、座席の隅へ置かれる。
「目的地まであと5分です」
運転手の声に、紗奈は手袋をはめたまま視線を上げる。
一等地にそびえる高層ビルが、夕日を受けて鈍く光っていた。
全面ガラス張りの外壁は、周囲の街を映し返しながらも、どこか外界を拒絶しているようにも見える。
【── S/F(Security Force)──】
最上部のロゴだけが、静かに支配の意思を主張していた。




