第八章 訪問 ーーーー侍女 香沈
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
今までも瑤さまとご一緒にいると いろいろな事があったけれども
こんなに肝を冷やすお供をすることになろうとは。
わたくしと瑤さまは泓太子のお住いに向かっている。
仰せつかった菓子を持ち 侍女の格好をした瑤さまを
後ろに従えて王宮の中を歩いているのだ。
主の前を歩くなんて それも荷物を主に持たせて。
考えられない状況に倒れそうである。
自分より年上の侍女に荷物をもたせる侍女なんていないでしょう。
香沈の方が年上なのだから仕方がないのよ。
それはそうであるのだけれども。
泓太子のお住いにやっと着いた。
後ろの瑤さまに人が気がつく前に早く中に入りたい。
震える声で門番に声をかけた。
しばし門前で待たされたのち重い扉が開かれて中に通された。
扉が閉められた瞬間 瑤さまから菓子の籠を受け取り
素早く瑤さまの後ろへと控えた。
瑤さまは呆気にとられ驚かれたが いつものような笑い顔で笑われた。
姉上!
奥から白のご袍をお召になった泓太子が駆けていらした。
わたくしと瑤さまを見比べ
ああ こちらだ
と瑤さまの手を取り 瑤さまと同じ大きな笑顔で笑われた。
やっと会えた。
今日のお召し物もなかなかですよ。
お二人は顔を見合わせて あはは と笑われた。
お喋りをしながらお部屋に入りお席についた。
わたくしは太子の侍女たちと お茶の用意を始めた。
太子の侍女たちは ここぞとばかりに興奮気味に話かけてきた。
太子は瑤公主には あんなにお優しく接するのですね
最近は皆にもかなり寛容になられたけれども
瑤公主の影響があったという噂も なるほど と思う と。
以前の太子は かなりの気難し屋でご機嫌を損ねないように
気をつけていたとか。
笑い顔なんて見慣れていないので戸惑ってしまうくらい と驚いていた。
瑤さまと泓太子はずっとお喋りしている。
修学院を出られて以来だから半年以上は経っている。
話がつきないのだろう。
お茶と持ってきた菓子をお出しする。
これは 泓が胡桃が好きだと聞いて香沈が考えたのよ。
どうぞ。
ひとつ手に取り瑤さまが泓太子に差し上げる。
一口食べて うん と頷かれ
香沈の菓子は本当においしい。
これもいい味だ。
そうおっしゃって わたくしにまで話かけてくださった。
香沈 私の側の者に作り方を教えてくれないか。
これはとても気に入った。
とおっしゃった。
思いがけない仰せに ただただ身を縮めて深く拝礼をしたのであった。
戸口に内官が来て一礼した。
太子さま
楸律殿が参られました。
ほかにも お客人がいらしゃるようだ。




