第七章 来文 ーーーー侍女 香沈
泓太子からのお文はそれからもたびたび届いた。
瑤さまも嬉しそうにお返事を出していらっしゃる。
時折 花陽舎で作った菓子を添えられることもある。
花陽舎の菓子は美味しいと評判になった。
たまに瑤さま自らがお作りになって贈られることもあるのだけれども
泓太子に感想を求めては なかなか厳しいご感想を受けたりして
苦笑していらっしゃる。
今まで瑤さまは刺繍や料理などはお好きではなかった。
それが最近はよく厨房においでになっては料理を作るのをご覧になったり
一緒にお作りになったりしている。
料理の腕前を泓太子にからかわれたのがきっかけなのだろう。
奇しくもお輿入れ前に身につけておく事柄なので
丁度よい頃合いで興味を持たれてよかった。
侍女たちも楽しげに教えている。
厨房からの笑い声が聞こえてくる日が多くなっている。
腕前はまだまだではあるが 瑤さまのいまいちのお料理のおかげで
お食事の時間はいっそう楽しいものになっている。
花陽舎は本当に笑い声がよく似合う場所である。
また泓太子からのお文が届いた。
今日も笑顔でお受け取りになり楽しげに封を開けられる。
読み始めた瑤さまは一瞬息を止められたように感じられた。
そして今日のお文は珍しく何度も何度も読み返していらっしゃる。
笑顔はなくなっていた。
たたんでは広げ また たたんで。
そして卓に広げて置いて眼を落としていらっしゃる。
何やら落ち着かないご様子である。
意を決したように 筆を と言われるので 急いでお渡しする。
さらさらとお書きになり すぐに届けて と手渡された。
こんな瑤さまは珍しい。
泓太子からのお文には一体何が書かれていたのだろうか。
半刻ほどして泓太子からのお返事が届いた。
すごい早さである。
瑤さまは急いでお読みになり そして ほうっ と息をついて眼を閉じられた。
しばしそのままでいらしたが 意を決したようにわたくしを見て仰った。
香沈
明日 泓のところへ持っていく菓子を用意して。
未の刻には届けたいの。
菓子の所望をされただけのご連絡だったはずではありますまい。
いったい何がどうなっているのだろう。
瑤さまのご様子が気になる。
持っていかれるとは まさかご自分で行かれるおつもりなのだろうか。
いくら瑤さまでも弟君とはいえ殿方のお住いに行かれるのは憚られるのだが。
あれこれと気になる事ばかりであるが
とにかく仰せつかった明日の菓子をこれから作らなくては。




