第四章 姉上 ーーーーー泓太子
姉上はよく笑う。
顔をくしゃっとしてきれいな歯を見せてよく笑う。
可笑しくてたまらない時には あははっ と声を上げて
軽やかなよく通る声で笑う。
共に勉学するようになるまでは 全く接することのなかった方であった。
三人の姉上のうち 長姉上は薫るお姿 次姉上は華のかんばせ と
言われているのに末の姉上は なんとも言われることはない。
正直とても平凡な容姿なのである。
母上も数多の妃も他の公主も それぞれに美しいので
まったくもって目立たない。
そんな姉上が初めて人目を引いたのが あのお披露目だった。
齢十五にもなると女子というものは か細い声で伏せ目がちに
聞き取れぬような声を発するものなのに
姉上は高く宙を仰ぎ 朗々と詩を謳いだしたのだ。
女のような儚げな声ではなく 男のように力強い声でもなく
なんとも心地のよい声で謳いだしたのである。
皆がただただ 姉上の謳う姿に圧倒された。
詩が終わって舞が始まってもしばらくは私の周りは
姉上のことで話はもちきりだったほどだ。
そしてお披露目がひと段落して父王に願いを申し出たときに
さらに姉上は皆の注目を浴びることとなった。
まったくもって変わった姉上である。
修学院に現れた時にも驚かされたが講義が始まると
さらに驚かされることだらけだ。
とにかくよく講師に質問するのだ。
講義など ただ座って聴いているだけでいいものをあれこれ質問するので
講師も張り切ってしまい 他の子息の中でもつられて話に加わる者がいたりと
非常に騒がしい講義が多くなった。
講師は
ご子息がたの向上心が上がって嬉しい限りと喜んでいるようだ。
まったく余計なことを と最初は思っていたのだけれども
どうしたものか私も最近それが面白くなってきている。
姉上は将軍家の次子と話が合うようだ。
姉上が楽しそうに話しているのを見るとなぜだか悔しくて
私も加わるようになった。
武人なんて無骨なものだとばかり思っていたのだが
話してみると将軍家の次子は穏やかな者であった。
私が動くと取り巻きの者たちも動く。
その者たちは初めこそは私や姉上を怖れて ただ微笑んで頷くばかりだったが
姉上が誰彼構わずに話を振るので思わず皆 地を出すようになった。
馴れ馴れしい と私は思うのだが姉上は少しもそんな風には感じないのだろう。
変わらず笑いながら彼らと談笑している。
姉上を笑わせているのが悔しくて私もその輪に入っていく。
そしていつのまにか皆と大笑いなどしている。
まったくもって今まででは考えられないことだらけだ。




