第二十七章 花憶 ーーーー 侍女 香沈
初めての厳しい長い冬もやっと終わった。
温石のおかげかわたくしたちもなんとか乗り切った。
瑤さまも王から分厚い綿入りの上着を何枚も贈られ
それのおかげか体調をくずす事無く過ごすことができた。
本当にまんまるね
と大笑いされていた。
毛皮ではなく綿入れというので届いた時には正直
よい気持はしなかったけれども 実際 毛皮よりもずっとずっと
暖かかったそうだ。
それも清衣司に持っていって洗ってもらおう。
日差しも日に日に元気になり庭の冬囲いも外された。
冬を乗り切った小さい木々が緑を付け始めていた。
桀は冬の終わりが遅いせいか春は一気にやってくる。
ついこの前に少し緑が・・と思っていたら
いつのまにか鮮やかな新緑が生い茂るようになっている。
よく見ると花の蕾のようなのもの見える。
花木司の者の腕がいいのか植え替えたばかりだというのに
囲いの中でちゃんと息づいていてくれていたようだ。
最近は瑤さまもお庭によく出で様子を見ている。
さすがにもう植える場所がないので土まみれになることはないけれども
朝には欠かさずわたくしどもと一緒に水を差している。
花陽舎にいた時のよう。
瑤さまの笑顔は相変わらずだけれども
今のほうがずっとずっとお幸せそうである。
瑤
太子さまがお呼びになる。
いつもの大きな笑顔でお応えになる。
瑤さまが蕾を指さし あと少しで咲くそうですよ と告げる。
紫丁香花というのだけれども どのような花なのかわからないと
おっしゃった。
それは咲くのが楽しみですね と太子さまも柔らかく笑われた。
穏やかな日和が続き新緑が美しい。
程なくしての早朝
何処からともなくよい香りが漂ってきた。
瑤さまも太子さまも気づかれたようで珍しく朝餉の前に揃って庭に出られた。
紫丁香花とよばれていたその花が咲き始めていた。
小さい花がたくさん集まって咲いていて やわらげな香りをまとっていた。
うっすらとですが ちゃんとよい香りを届けてくれて
と瑤さまが顔を近づけているそばで
太子さまは その紫丁香花を じっと見ておられる。
恭さま とお声掛けをしても その花を見ていらっしゃる。
母上の花だ とぽつりと呟かれた。
とても懐かしそうに 切なそうに花を見つめていらっしゃる。
そうして隣の瑤さまの手を取りそっと握られ
しばらく花を見つめておられた。
風がふわりとそよぎ 花の香りがお二人をつつんだ。
母上に また会うことができました
太子さまはそう言って瑤さまにやわらかく微笑まれた。
あとから徳太監に聞いたのだけれども
紫丁香花は太子さまのお母様がお好きで庭に植えられていたそうだ。
小さな小さな太子さまを抱いて
その木のそばで子守唄を歌っておられたという。
遠い幼い頃のかすかな記憶の中に残っていたのでしょう と。
今はまだ背の高さにも満たない小さな細い木であるけれども
太子さまに懐かしく愛おしい記憶をつれてきたようだった。




