第十五章 贈玉 ーーーー侍女 香沈
李楽山を過ぎて明日はいよいよ国境に到着する。
山を超えると今までの風景とはがらりと変わった。
今日は樹々が生い茂る道を進んでいる。
あまりにも鬱蒼とした風景に少しの物音がしてもどきりとしてしまう。
休憩の時にも皆 寄せ合うように集まって休んでいた。
あと少しすると道も開けてくると聞いているのだけれども本当だろうか。
瑤さまはあの日以来 歩き回ることはなくなった。
今日も外には出られたが近くの木陰に座って書物を読んでおられた。
変わりなく明るくよくお笑いにはなられるが
以前のような溌剌としたお姿をみることはなくなっていた。
いよいよ桀国に入られる日が近くなったせいか
それとも別に思うところがあられるのか。
郭での残りの日々が静かに静かに過ぎている。
日没前には樹々の海を抜けて小さな宿場町に着いた。
久しぶりに野営ではなく宿で休めることにほっとする。
明るい部屋での夕餉も久しぶりである。
瑤さまも寛げられているご様子だ。
ゆったりと夕餉を取られた後のこと
泓太子さまからのお使いという方が来られた。
出立してまだ間もないのにどうしたのかしらね と
瑤さまは不思議がっていらっしゃる。
そうして
中に通されて入って来た使者は あの楸律さまであった。
はっ と動きが止まってしまった瑤さまに対して
今日もまた楸律さまは恭しく拝礼をされた。
泓太子より仰せつかっていた品を調達できましたので
お持ちいたしました
そう言って小さい巾着を一つ差し出された。
わたくしから瑤さまにお渡しし 瑤さまが中を開けてみると
栗の実ほどの小石が一つ入っていた。
修学院の栗にしては硬すぎますね
と 瑤さまがおどけると
そちらは李楽山の石でございますので食べられません
と楸律さまが仰った。
お約束していましたよね
と言って柔らかく笑われた。
虚をつかれたような顔をしていた瑤さまでしたが
みるみる笑顔になられた。
光るかどうか割ってみましょう
と言い 小石を楸律さまにお渡しになった。
香沈も一緒にみましょうと言い出し わたくしの手をとり引き寄せられたので
恐れ多くも楸律さまと瑤さまと三人 頭を寄せ合う形になってしまった。
割りますよ
楸律さまが刀の柄で叩くと あっけなく石は二つに割れた。
割れた途端 明るく青い光が漏れ出した。
思わず三人で声が出た。
日の光とも灯とも違う光で青く明るい光であった。
しばしの間 じっと見入っていた。
ずっと光り続けているようですね
瑤さまが鈴のような声で独り言のようにつぶやいた。
光る石は楸律さまの手から瑤さまへと渡された。
近しく このようにお話を出来るのも 今日が限りと思われます
公主さまのこれからが良きものであるよう お祈りいたします
そう言って楸律さまは深々と拝礼をされた。
瑤さまは拝礼を直させて 真っ直ぐに楸律さまと向き合われた。
楸律 ありがとう
最高のはなむけです
あなたにとってもこれからが良きものでありますように
そういって あの大きな笑顔をされた。
楸律さまも以前のような穏やかな笑顔をされている。
なのに何故かとても切なげなお姿であった。
翌日 わたくしたちは桀の城門をくぐった。
昨晩もらった小石の巾着を
瑤さまは大切に大切に両手のひらに乗せて新しい一歩を踏み出した。




