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第十四章    草原   ーーーー侍女 香沈

初秋のよい天気が続いている。

王都を出てから六日たった。

広々とした草原はまだまだ続いており緑の織物の上を進んでいるようである。

ほとんど変わらない景色なので正直飽きてきているのだけれども

なんの問題もなく進めているのは有難い事ではある。

瑤さまも変わらずである。

はじめこそは馬車に揺られっぱなしでご不調のようであったが

すぐに慣れたご様子である。

たまの休憩の時にはお身体をほぐすためにと さっと車から降りられ

あたりを歩き回ったり軽く体を動かしたりしていらっしゃる。

人目を気にしない瑤さまに皆は驚いている。

今もわたくしをお供に散策中である。

ぽつんと咲いている野花をみつけて かがんでご覧になっている。

久しぶりにみる花ね と笑顔でおっしゃた。

こうしていると気ままな遠出にきているようだ。

瑤さまも初めての旅を楽しもうとしているようである。

あちらでは昼餉の準備をしている。

のどかな昼の草原である。

時々 瑤さまは何げに辺りを見回す。

何かを探しているのか それとも もう見ることがないであろう景色を

目に焼き付けているのか。

今日もゆっくりと辺りを見回していらっしゃる。

そうしてくるりと一通り見回すと またのんびりと歩きだされる。

昼餉のあとは また日暮れまで移動が続く。

夜はさすがに出歩くのは危ないので気楽に歩き回れるのはこの時だけである。

天幕にお食事が運ばれるまでずっと散策していらっしゃる。

それにしても今日は隊列の随分前方まで足をのばして来ている。

さすがに遠くに来すぎだと瑤さまに お伝えしようとしていた時

瑤さまが急に早足になった。

前方にあの方がいた。

瑤さまに気がつき 馬の体を拭いていた手を止めて

驚いたお顔でこちらを見ていた。

瑤さまは駆けて行かれた。

わたくしは必死について行く。

いきなり公主さまが現れたので周りの護衛たちは慌てて拝礼をする。

瑤さまはそれに軽く受け応えし

そして満面の笑みで楸律さまの前に立たれた。

恭しく楸律さまは跪かれた。

今までとは違うとても儀礼的な態度に

瑤さまは少し戸惑われたご様子だったけれども

他者がいるので仕方のないことである。

礼をうけ改めて向き合われた。

楸律さまが隊に入っていることは泓太子から聞いてはいたのだけれども

なかなか探す事ができなかったこと 今日やっと会えたと仰って

笑顔を見せられた。

しかし楸律さまは相好を崩すことなく礼儀正しく直立して控えていられる。

続かない会話に戸惑いながらも瑤さまは話かけ続けられる。

道中には以前に泓太子の宮で話されていた あの李楽山がある。

あとどれくらいで着くのかとお尋ねになっても

明日の午後には着くでしょう と

淡々と楸律さまはお答えになる。

途切れ途切れになる会話で間が持たず

瑤さまは思いあぐねていらっしゃった。

そうこうしているうちに 


そろそろ昼餉が出来上がる頃です

公主さまはお戻りになられますよう

と 楸律さまは促した。


そうですね 

と呟き 瑤さまは視線を落とされた。

瑤さまになんて態度を と怒り出しそうになっているわたくしを制して

瑤さまは 楸律さまを真っ直ぐ見ておっしゃられた。


楸律 今までありがとう

共に修学院で学べたことは今までの中で

いちばん貴重で大切な時間でした

泓のこと 頼みます

それだけは どうしても伝えたくて探していました


そう仰って いつもの大きな笑顔をなさった。

さっきまで一つも表情を変えなかった

楸律さまのお顔がほんの少し崩れたように見えた。

でもすぐに深々と拝礼をしてしまわれたので

その表情を確認することは出来なかった。

瑤さまが向きを変え来た道を歩み始めても

楸律さまはずっと拝礼したままであった。

瑤さまは かなり早足になっている。

急いでそばに と思うのだけれども

近づこうとすると さらに早足になる。

お顔を見られたくないようだ。

わたくしは早足をやめて広く間隔をあけて後ろをついて行くことにした。

 


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