第十三章 出立 ーーーー瑤公主
馬車がゆっくりと動き出した。
およそ十日におよぶ桀への旅の始まりである。
王宮門の大階段の上に 父王母后そして弟の泓が見送りのために立っている。
離れていてお顔がよく見えないためかそれとも今まで近しく接して
いなかったせいか父母の顔を見ても寂寥感はわかなかったが
泓が階段を駆け下りてきた時には思わず小窓に身を寄せた。
ほどなく衛兵に止められたので言葉をかわすことはなかったのだけれども
お互いの顔をみることはできた。
泓とはもう会うこともないのかと思うと喉の奥が苦しくなる。
泓の顔が今にも崩れてしまいそうなので
わたしはいつものように大きく口を広げて笑ってみせた。
泓は見慣れた不機嫌で睨むような顔を一瞬したのだけれども
大きな笑顔を作って応えてくれた。
すごく不器用な笑顔だった。
王宮がだんだんと小さくなっていく。
人垣ができている街中を進み城門をくぐり抜ける。
一瞬で景色が変わった。
空の青と地の緑。
初めて見る門の外は緑と青の世界が延々と続いていた。
郭は美しい国です。
修学院で皆が言っていたとおりであった。
草の香りがする風を受けると気分がすっと軽くなっていった。
となりで香沈も外の景色をじっと見ている。
たしか香沈の故郷は草原を東に半日行ったところのはず。
いま眺めている方向である。
香沈の肩越しからはなだらかな丘陵が見えている。
この輿入れの随行は二百人ほどである。
その二百人も故郷を離れるという
それぞれの思いがあるのだろうと考えると
随行なんていらないのに という気持ちになる。
それでも姉上たちと比べてかなりの少人数だったので
父王は格好がつかないのでもっと人数を増やすようにと仰った。
桀に着いたらあちらの新しいお付きもつくので と得得と説明して
この人数に収まったのだけれども それでも長い列が出来ている。
しばらくは護衛の者も同行するので かなりの大人数である。
そういえば護衛隊に楸律もいるそうだ。
最後に少しでも話せたらよいのだけれど。
前方の騎馬隊を探してみる。
すぐにわかった。
背筋をぴんと伸ばし微動だにせず。
馬に乗る姿も真面目で思わず笑ってしまう。
笑ってしまうほどおかしいのだけれど今日は切なくなった。
もう机を並べて勉学することも 泓の宮で雑談することもないのだ。
喉の奥が苦しい。
緑の草原はどこまで続いているのだろう。
また風が通り抜けた。
緑の上を走るように過ぎる風の様を ただただ眺めていた。




