第十二章 参内 ーーーー楸律
久しぶりの鎧を外しての就寝は変な感覚であった。
二ヶ月の遠征中はほぼ毎日 鎧をつけたままの仮眠だったので
窮屈が慣れてしまったようだ。
幸い夜襲をかけられる事もなく小競り合いはあったものの
犠牲を出すこともなく初めての遠征を終えた。
いまだに高ぶりがあるのか心と身体がずれている感じが取れずにいる。
それでも今日はこれから泓太子の所へ行かねばならない。
戻ってきて間もなく早々に参るようにと使いが来たのだ。
正直のところ かなり気が重い。
きっと今回の和睦のことでくってかかられるのだ。
私とていろいろと思うところがあるのに気が滅入る。
ついだらだらとしてしまい かなり日が高くなってから太子の宮に着いた。
取り次ぐまもなく泓太子が駆け寄ってきた。
跪きかけたところで止められ早速 話しかけてくる。
怪我はないか
変わりはないか
やはり痩せてしまったな
とにかく無事に帰ってきてよかった
お一人で喋り続けた。
その後は北域の様子を詳しく尋ねられた。
意外であった。
てっきり感情的になって和睦について言われると思っていた。
一息ついた後 今度は相手国 桀のことを尋ねてきた。
桀の現王は高齢である。
息子の前太子がすでに亡くなっているので孫の恭が現太子になっている。
桀王はやり手ではあるがかなり粗暴で気が荒い。
恭太子はそんな祖父を怖れている。
太子ではあるものの いるかいないかと思われるほどの存在感であるようだ。
国土は寒冷地でもあり冬が長いので国全体は 我が国 郭に比べると
貧しい状態である。
私は知った限りのことをお知らせした。
一通り聞いた後
なかなか厳しい内情であるようだ
姉上に何かしてあげれることはないだろうか
皆が気がついていないこととかないだろうか
と仰った。
やっとここで瑤公主のことが出てきた。
話しぶりからみるとこの御婚儀には異存はない様子で
それはとても以外であった。
なぜお怒りにならないのだろうと腹立たしく思えた。
それでも何食わぬふりをして
公主はいかかお過ごしでしょうか と尋ねてみた。
出立まで日がないので毎日忙しくはしているが
元気にしている とおっしゃり太子は手にしていた茶器に目を落とした。
一番親しくなさっていた姉上さまなので寂しくなりますね と言うと
太子はひどく不機嫌な顔をして私を真っ直ぐに見返した。
そなたと姉上はずっと私の側にいると思っていた
勝手に思っていただけなのだけれども
そう仰って顔を背けてしまわれた。
私も公主はずっとここにおられると勘違いをしていた。
それは知らぬうちに私が願っていたことなのだろうか。
発することのできない言葉がずしりと胸の奥に沈んでいった。
日々は確実に過ぎていき出立の準備も順調に進んでいる。
ご出立まであと一月あまり。
今日 公主を桀との国境まで送る護衛隊が組まれた。
私もその一員に選ばれた。




