第十一章 勅旨 ーーーーー侍女 香沈
我が国 郭は北の国 桀と和睦を結ぶ。
その証として桀の太子恭と郭の公主瑤の婚姻を結ぶこととす。
相変わらずの暑い日の昼下がり 勅旨が下された。
跪いて勅旨を聞いていた瑤さまは しばらくの間 動けなかった。
内官に促され やっとゆっくりとお手を掲げ
うやうやしく勅旨を受け取られる。
なにが起こったのか まだ理解していないご様子であった。
届けにきた内官が退出したあとも表情なく勅旨を手にしたまま佇んでおられた。
突然のことなので瑤さまも わたくしたちも呆然としているといった
感じである。
話しかける事もなんとなく憚られ ただ瑤さまを見ていた。
ひとりになりたいと仰られたので
気がかりながらも退出したのだけれども
ご様子が心配だったので戸口でお部屋の中の気配に気をつけていた。
一刻を過ぎてもお声がかからない。
薄暗くなってきた。
不安になり恐る恐るお声をかけ戸を開けてみる。
瑤さまは勅旨を抱いて卓に伏せっておられた。
驚いて大きな声でお名前を呼びながら転げるように瑤さまに駆け寄った。
瑤さま 瑤さま と叫びながら お体を強く揺すってしまった。
瑤さまはひどく驚いてわたくしを見 そして
ああ と力無く微笑まれた。
とても寂しいお顔だった。
見ていても辛くなるお顔だった。
いつもならばお部屋に火が灯り夕餉からお休みになる前は
楽しい談笑の時間なのだけれども
その夜は花陽舎らしからぬ とても静かな夜となった。
翌日からにわかに慌ただしくなった。
お輿入れの日も二ヶ月後と早々に決まり お支度に追われる日々となりそうだ。
婚礼衣装の仮縫いをされている瑤さまは普段と変わらないご様子である。
動揺されたのはあの日だけであった。
お慶びの様子は見受けられはしないが穏やかにお支度をされておられる。
次々とお祝いの品も届けられるので休む暇もないほどである。
装飾品を選んでいるところに来客が来られた。
泓太子であった。
笑ってお迎えになる瑤さまを睨むようにして どかどかと詰め寄られた。
挨拶もなしですか と瑤さまが言い終わらない間に
大声で叫ぶように
姉上はよろしいのですか と 仰った。
皆 しん と静まりかえった。
泓太子は瑤さまを睨んだままである。
わたくしも公主ですもの
そう言われて瑤さまは微笑まれた。
わたくしは他の公主のような取り柄がないので
友好の役割などないと思っていたのだけれども
思いがけず今回のお話があがって
やっと公主としてのお役目が果たせるのです
泓も快く送り出して
そう仰ってにっこりと笑われた。
泓太子のお顔は相変わらずだったけれども
その眼から一粒 大粒の涙が落ちた。
そうして瑤さまのお手をぎゅっと握りしめられた。
解ってはいるのですが・・・
そう言って言葉をつまらせてしまった。
そんな泓太子の肩を瑤さまは優しく撫でられた。
それから幾度となく泓太子は花陽舎においでになられた。
弟とはいえ女性の住まいに来るのは と瑤さまが言われると
私はまだ子供ですから と平然とおっしゃる。
王も王后も気難しい太子がそこまで慕う姉ならば
嫁ぐ前の少しの間くらいよいであろうと黙認されているようだ。
おかげで花陽舎は慌ただしさの中 寂しさを強く感じることもなく
つつがなく過ごしていられたのだった。
勅旨が出されてから七日。
やっと北域に行っていた遠征軍が戻ってきた。




