第二話「怠惰脱却作戦」
一週間くらい経ったのかな。
そのくらい経って分かったことがある。
父の名前は、ピタル・シュクラン。
とにかく優しくて、まぁイケメンだ。
青い髪と、白い瞳。
生後8ヶ月の俺はというと、
フルネームは、コウェイス・シュクラン。
誰に似たのか知らんが、
髪の色は黒である。
嬉しいことに、すごい美形。
これ、将来モテちゃう!
あ、そうそう、母親についてだ。
俺は最初、父が捨てられたと思っていた。
けど、それはおかしい。
あんなにいい人が捨てられるのか?
そう思い、家の中を調査した結果。
ゴミ箱に、紙が捨てられていた。
広げると、置き手紙のようなもので、その内容は……。
『くそが、ピタルがこんなに金がないとはね。
アタシはがっかりしたよ。
離婚だ離婚。
ガキは、1人で育てな!』
と、記載されていた。
俺は、それを読んだ時、空いた口が塞がらなかった。
母はクズだ。
ピタルは、顔がいい。
でも、金銭的にいえば……裕福ではない。
決して、貧乏でもない。
普通っていう印象だ。
それを母は知り、捨てた。
金と顔にしか目がない人か?
なんともまぁ、めちゃくちゃだな。
捨てたのは、ピタルの方かもしれない。
いやよそう。
捨てた捨てられたというのは……。
彼は、俺を愛してくれてる。
あんなクズとの子供である俺を。
それだけでいいじゃないか。
生後8ヶ月でありながらも、彼を尊敬するぜ。
ピタルは、朝から夕方までは、仕事に行っている。
で、赤ん坊を家に置いておくのは、普通はやばい。
しかし、俺の世話をしてくれるロボットがいる。
喋りはしないが、オムツを替えたり、飯をくれたり、寝かしつけてくれる。
きっと、この異世界の全親御さんは、このロボットに助けられていると分かる。
このロボにより、ピタルは安心して仕事ができるってわけだ。
まぁそれはいいとして、今、この家に彼はいない。
絶好のチャンス。
俺には、この世界に転生してから……。
いや、魔法があると知ってから、やりたいことができた。
前世では、ラノベを読んでは寝る。の生活で怠惰そのものだった。
一応、高校は行っていたが、昼休みもラノベを読んでいるくらいである。
友達を作ることすらしてなかった。
俺は、後悔している。
挑戦を、努力をしてこなかったから。
幼馴染のルルは、格闘技をしていた。
総合格闘技、ボクシング、極真空手。
それぞれ、敵無しだ。
もう、ほんとに強い。
ルルにナンパしたDQN男は、基本的にボコられる。
そんな彼女は、俺にも格闘技を勧めてくれた。
けど、やらなかった。
めんどくさいから。
格闘技自体は好きだった。
ルルがしてたから、よく試合も見に行った。
なのに、やらなかった。
痛そうだから、と言い訳してた。
今思うと、本当に怠惰だ。
ルルには申し訳ない。
――でも、俺は転生した。
親も、優しいし、愛してくれている。
最高の環境だ。
努力しよう。
挑戦しよう。
鍛えよう。
MMAを、するわけではないけれど、
俺は今日から、魔法のプロになるんだ!
いつか、剣とかも扱ってみたりしたい。
なんだろう、この好奇心。
どこから、湧き出てきてるのかは知らん。
が、好都合。
生後8ヶ月。
意識が芽生えてから、1週間。
俺、コウェイス・シュクランは、魔法を学ぶと同時に努力をすると決心した。
---
そうと決まれば、魔法について、だ。
ピタルは、魔法が得意にみえた。
俺を笑わせるために、毎日いくつか見せてくれたのだが、
初めて見た時以外は、どれも無詠唱。
「ファイアー」とも言わずに、火を出せている。
まぁ、この世界に詠唱があるのかは知らん。
しかし、きっとすごいに違いない。
だってさ?
うまいんだもん。
遠くの小さなゴミを正確に当てたりするし。
彼は、どう魔法を勉強したんだろう。
学園とかに通っていたのだろうか。
そう思いつつも、今。
ピタルの部屋を漁りまくってる。
机の引き出しが怪しい。
ここにはきっと、魔法の本とかが!
期待と、興味を抑えられなく、思いっきり、
ガラっ、と引き出しを開ける。
が、そこには、何もなかった。
はずれか。
この部屋は綺麗すぎる。
机、ペン、紙くらいしかない。
心が綺麗な証拠ってやつかしら。
次、寝室だ。
いつも、俺とピタルが寝てるダブルベットと、部屋の角にロボットさんがいる。
こいつは、基本的に停止してる。
赤ん坊の俺に、うんちなどの異変が起こらない限り。
そういえば、こいつ名前がないんだよな。
うーん。
考えよう。
えーと、いつも世話をしてくれるから……。
よし!
今日からお前は、『セワ』だ!
セワは、停止してる。
これがもし、人だったら喜んでくれたかなー。
いやないな。
正直、セワって名前は安直すぎ!
もっと、いい命名ができないかな……。
考える。
うーん。
はっ!
おっといけない。
今は、魔法についてを探す時間だ。
こんなところに、魔法の教科書があるとは思えんが。
それにしても……。
「うきゃっ!」
はぁ最高。
フッカフカのベッド。
あぁ、ずっとこうしていたい。
ここに、ラノベがあれば……。
「!!」
いかん!
ぐーたら生活に戻る気か俺!
さっき決めただろう。
前世の怠惰から、おさらばするんだ。
三条奏多は、もう死んだ。
今は、コウェイス・シュクランである。
ふふん。
って、かっこつけてるけど、今の体型が赤ちゃんすぎて可愛くなっちゃう。
それはそうと、魔法の本とかないかなー。
ないなら諦めて、喋れるようになるまで成長を待ち、ピタルに教わるしかないな。
1歳くらいになったら喋れるかな。
「?」
ベッドから降りて気がついた。
下の隙間に、箱がある。
赤い箱で、黄色いリボンのようなのがついてる。
手を伸ばし引きずり出す。
ベッド下にあるとか、
前世のえろ本かよ……。
「……」
箱を、凝視する。
開けていいのかな。
なんか、プレゼントボックスって感じだ。
ピタルの好きな人にあげるやつとかだったら、開けたらダメだよね。
でもいないか。
うん、まだいないだろうな。
クズ女に騙されてたもんピタル。
まだ、女性不信が解けてないだろ。
そう、勝手に思い込んで、いざ!
開封!
え……。
箱の中身は、本であった。
紙も添えてあり、『コウェイス5歳の誕生日』と、記されている。
本の題名は、
『魔法』と、
端的に書かれてある。
この2つを見て、俺は、ぐるぐると頭の中が回転した。
やってしまったのかもしれない。
魔法についての本を見つけた嬉しさより、
ピタルが、俺にプレゼントしようとしたであろうものを開封してしまった。
5歳にくれるものを今……。
どうしようどうしようどうしよう!
優しい父のサプライズを、好奇心旺盛な、クソガキが台無しにしてしまった。
やばい、申し訳ない、すいません。
いや、謝ってる場合か。
まず、この箱を戻そう。
元あった場所に。
うわ!
リボンビリビリに破いてしまった!
おわったかもしれない。
と、半分絶望していると、
「コウェイス?」
ありえない声が聞こえてきた。
今は、いないはずの人の声。
仕事に行ったと思ってた人の声。
俺は、恐る恐る振り返る。
「ぱぷ?」
ピタルと目が合い、次に彼は、破かれた自分のプレゼントに視線を向けた。
やばい、と思い、必死にかわいこぶった。
「ぱっぷぅ」
「……」
ピタルの顔が、真顔になった。
いつも、俺に向ける笑顔ではなく。
「ぱ、ぱぶ〜」
いや、こんな可愛いよ!?
これなら、許してくれるよね?
赤ちゃんがしでかしたことさ!
いーや!
そもそも、こんなところに隠してるのが悪くないか?
「なーんだ」
え?
ピタルが、苦笑した。
「やっぱり、ここは見つけちゃうよね」
「……」
「仕事を早く終わらせて、隠し場所変えないとと思ったのにー!」
「……」
悔しがるピタル。
その表情を、ただ見上げることしかできない。
「まぁ、いいか!
コウェイスも、早く魔法を知りたいよね」
「……ばぶ」
「よーし! 今日から読み聞かせるからね!」
俺は、彼が悲しむと思った。
だって、サプライズプレゼントを先に開封されたら俺だって、まじかよってなるし。
でも違った。
彼は、悔しがって、ただ笑った。
なのに俺は、許してもらおうと、無様にぶりっ子してた。
まったく。
まだまだガキだな俺って。
ピタルを見習おう。
今日から魔法の本を、父が毎日読み聞かせてくれるようになった。




