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魔拳無双~ 神祖の魔女に拾われた孤独な少年は、人類史上六人目の魔人となりました。  作者: 堅物スライム
第一章 破壊と再生と呪い

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第6話 魔人誕生――3

 ガラニン王国の王都ガラには、以前エデンが構築したという転移魔法陣が設置してある。

 ヴォイドから渡されたのは、王都全体のざっくりとした地図と、今回の目的施設の簡単な見取り図だけだった。それだけを手に、コウはエデンの城の魔法陣からガラの魔法陣へと送り込まれた。


 現代日本からこの世界に引きずり込まれた時のような嘔吐感はなかった。目を瞑って、開けたら、違う街にいた。ただそれだけだった。

 一瞬、このまま逃げることも頭をよぎった。——が、金も無く、知り合いもいないこの世界で、一人で生きていける自信はない。諦めて、指示に従うことにした。


 目指す先は街はずれの軍事施設。それほど大きくはないが、入口には剣をぶら下げた衛兵たちがやる気無さそうに突っ立っている。


 エデンからの指令は一つだけ。


神話級武器ディヴァインNo.4アングラ・マイニュの奪取」


 No.6レーヴァテインと並ぶ、ガラニン王国の至宝。そのレーヴァテインは既にコウの右拳のメリケンサックとして魔改造されている。アングラ・マイニュは短剣とのことだ。

 世界に八つしか存在しない神話級武器。その番号は強さの順ではなく、単に発見された順番に過ぎないらしいが、小国ガラニンが周辺諸国に併合されずに生き残ってこられたのは、奇跡的にもその神話級武器を二つ保有していることが大きい。使う者が使えば一騎当千にも成りうる切り札が二つもあれば、警戒せざるを得ない。


 それにしても至宝のバーゲンセールみたいな真似をしてまで、エデン討伐に拘る理由が分からない。ヴォイドによると、死期の迫った現国王の一か八かの賭けだろうということで、国というよりは彼にとっての悲願らしい。


 ——よっぽどエデンに恨みでもあるのか。


 コウは軍事施設の周りをうろうろと視察してみたが、さすがに白昼堂々正面突破など出来るわけもなかった。

 夜が訪れるまで、適当に時間を潰すことにした。


 ◆◆◆


「いよいよ、本番は近い。気合を入れてけよ」


 軍服がはち切れそうなほどの大男が、熊のような毛深く大きな手を振り上げ——バシッと、訓練場から戻ったばかりのスキンヘッドの男の背を叩いた。


「たった一年でここまで腕を上げるとは想像もしていなかった。よっぽど素質があったみたいだな」


 男は答えなかった。

 ゆっくりと、腰の鞘から短剣を抜き出す。そして、うっとりとその刃を眺める。禍々しい、血のような赤い刃。


「……人をぶっ殺してみたかったんだよ。その為の努力ならいくらでもしてやるさ」


 静かな声だった。無機質で、そこには感情などまるで存在しないかのような。


「ガハハハ! 頼もしいな。お前もまた特異体質の持ち主——魔女への切り札だ。無事に首を持ち帰ることが出来れば、一生遊んで暮らせるぞ」


「はっ。そいつは楽しみだ」


 耳のピアスが、妖しく煌めいた。


 ◆◆◆


 日が暮れた。街の人影もまばらになった。


 今さらながらどう考えても、作戦がアバウトすぎる。

 施設に押し入って、アングラ・マイニュの保管場所を聞き出して、強奪してくる。邪魔する奴は殴り殺しても構わない——それだけだ。それしか言われていない。


「君の右拳は人間相手なら無敵だから」


 エデンにそう丸め込まれて、慌ただしく放り出された。作戦の詳細を詰める時間など端から予定に無かったのだろう。

 恐らくエデンやヴォイドからすれば、散歩の途中で道草して帰ってくる程度のことだから。


 雑すぎる。

 そもそも本当に二十人しかいないのか。今までの討伐隊がそれくらいの規模だったというだけで、今回も同じとは限らない。逆に少ない可能性もあるが——そういう問題じゃない。


 あんな奴らの元にいて、本当に大丈夫なのか。やっぱり逃げるべきじゃないのか。

 また堂々巡りだ。


 月明かりが、容赦なく照らしてくる。このまま突っ立っていれば、不審者として警戒されるのも時間の問題だろう。


「はぁ……」


 ため息を一つ。コウは覚悟を決めた。

 とぼとぼと、入口へ向かって歩き出す。昼間と違って、衛兵は一人だった。だるそうに、欠伸でもしそうな顔で突っ立っている。


「すいません」


「なんだ?」


「アングラ・マイニュって、ここにありますよね?」


 小細工無しに直球で質問を投げかける。そもそも何と声を掛ければ良いのか分からないのだから。

 衛兵の顔色が、みるみる変わった。


「……なんだお前。どこでそれを聞いた?」


「ああ、やっぱあるんだ。無駄足にならなくて良かった」


 ——いや、良かったのか。無ければ無かったで帰ればよかっただけでは。いや、衛兵に聞いただけでは確認として弱いか。


「おい」


 肩を、乱暴に掴まれた。


「離せ」


 反射的に、腹を軽く小突く。土人形ゴーレム相手とは違って、出来るだけソフトに——のつもりだった。


「ぐっふっ……」


 しかしそれだけで、衛兵は声にならない声を上げ、その場に崩れ落ちる。死ぬほどではないはず——内臓破裂までしていなければ。罪悪感が一瞬心を過ぎったが、もう後には引けなかった。


 入口を抜けた瞬間、全容が目に飛び込んできた。中央に構える石造りの建物と、その横に兵舎らしき建物。そして窓という窓に、煌々と明かりが灯っている。


 コウは絶望した。

 何が二十人程度だよ。

 窓の数は百近くある。一つ一つ虱潰しに探すのは無理だ。騒ぎになれば一斉に囲まれる。


 詰んでるだろ、これ……。


 仕方なく、静まり返った石造りの建物へ足を向けた。

 中に入ると廊下には最低限の明かりしか灯っておらず、キュッキュッと自分の足音だけが暗闇に吸い込まれていく。


 そのまましばらく息を殺しながら歩いていると、一室だけ扉の隙間から光が漏れていた。人の気配もする。


 緊張が、じわじわと這い上がってくる。


 そっと、中を覗いた。

 格闘技の訓練場だった。一人の男が、空手の型のような動作で黙々と汗を流している。


 その男には見覚えがあった。

 スキンヘッドにピアス、腕には龍のようなタトゥー。


 一年前に、町工場から突然消えた先輩。

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