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魔拳無双~ 神祖の魔女に拾われた孤独な少年は、人類史上六人目の魔人となりました。  作者: 堅物スライム
第二章 黄昏の終わり

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第35話 凶雷乱舞――4

 ヴィルマルは極限まで神経を研ぎ澄ませ、集中力を高める。

 雷撃を感じた瞬間にグラビトスを叩き込む。それだけだ。

 中途半端に防御力を高めていては、雷撃を感知するまでにコンマ数秒のラグが発生する。その刹那の差が致命的となり、大槌を振ってもそこにはもうアクセルの姿はない。かといって、無防備に凶雷を喰らえば命はない。相討ちにはならない。


 全て、覚悟の上だ。

 だが——命と引き換えにこの男の魔力を削らなければ、後に続くコウに勝ち目はない。己の不甲斐なさゆえに、この国の兵士たちには肩身の狭い思いをさせてきた。彼らの誇りを取り戻さなければならない。その為なら、己の命など全く惜しくはない。


「ハッハー。覚悟を決めたって顔してるな? お前の魂胆なぞ見え見えだが、乗ってやるよ。格の違いって奴を教えてやる」


 アクセルは薄ら笑いを浮かべたまま、じりじりと間合いを詰めてくる。


 あと一歩。

 その一歩を踏み込めば——アクセルの間合いだ。


 静寂が落ちた。

 二人の視線が交差し、火花が弾ける。


 合図は、なかった。

 稲妻のような速さでアクセルが飛び込んでくる。ヴィルマルは目を瞑った。目で追っても追いきれない。ならば全集中を、電撃を感じることだけに。子供の頃に学校で学んだ「カエルの足のけいれん実験」。例え死んでも、電気による痙攣反応がこの大槌を振るってくれる。


 そして——その瞬間が訪れた。


 ビリッ。


 感じると同時に、大槌を振るう。


 ブンッ!!


「!?」


 空振り。

 手応えが、ない。

 いや——電撃が、軽すぎる。ダメージを全く感じていない。


 ヴィルマルは反射的に目を開けた。

 そこにあるのは、アクセルの下卑た笑顔だった。どこまでも人を馬鹿にし、舐め腐った悪意が溢れている。


「ハッハー。どうだ、人生最後の一撃が空振りだった気分は? 思い残すことだらけか? 残念だったな! 後悔に身を焦がして死ね!!」


 フェイントだった。

 アクセルは騎士道のような立派な精神など、端から持ち合わせていない。ヴィルマルが目を瞑ったことを確認するや否や、その体に軽く触れる程度の雷を飛ばした。案の定、それに引っかかったヴィルマルの渾身の一撃を余裕で躱すと、体勢を崩したヴィルマルに向けてトドメの一撃を振りかぶる。


「じゃあな」


 ここまでか。

 ヴィルマルは無念に顔を歪め、覚悟を決めた。


永久氷壁アイギス


 ドカァン!!!


 爆破音と共に、無数の塊が周囲に飛び散る。

 しかし、それは人体ではなかった。もっと固い何か。同時に水蒸気が周囲を満たしていく。


「ああん?」


 アクセルは足元に転がる小さな塊を拾い上げた。


 冷たい。

 氷の塊だった。


「何だぁ、これ?」


 そして、背後に気配を感じた。

 ヴィルマルとの戦いに集中していて、気づけなかった。そもそも、自分たちの戦いに誰かが飛び込んでくるなど——完全に意識から外れていた。


「ふぅ……。危ねぇ。ギリギリ間に合ったか」


 アクセルが振り返った先には、一人の少年が立っていた。

 その右手の指輪が、赤く光っている。

 アクセルはすぐに理解した。


「ああ、お前が噂の魔人か。クライマックスだったのに、邪魔すんじゃねぇよ」


 一瞬だけ、面倒そうに舌打ちをする。が、すぐに笑みが戻った。


「まぁ、お前も片付ける予定だったから、手間が省けて良かったか」


 コウはアクセルに警戒を払いながら、ヴィルマルの元へと駆け寄る。


「大丈夫か、おっさん」


「ガハハ! まぁ何とか生きとるわい。勝負はこれからだ」


 口ぶりはいつもと変わらない。しかし顔に残る火傷の痕、そして消耗した魔力——コウはすぐに状況を察した。


 相当ヤバい。


「奴はお前と同じ魔人だ。電撃を操る。儂とは長年の因縁もある」


「……今はゆっくり聞いてる時間は無さそうだな。とりあえず俺はどう動けばいい?」


 何も情報がない相手だ。変な先入観を持つより、相手のことも自分のこともよく知っているヴィルマルに委ねる方が早い。


「とにかく奴は疾い。儂にすらまともに当たらんお前の拳は今回は役に立たん。凍結攻撃で牽制してくれ。まぁ、それも当たらんだろうが隙さえ作ってもらえりゃ、後は儂が何とかする」


 ヴィルマルとの修業により、コウの凍結魔術の射程範囲は五メートル近くまで広がっていた。とはいえ凍天絶華ニヴルヘイムは相手との距離が広がるほど威力が落ちる。致命傷を与えるにはせめて二メートル位までは近づく必要があった。


「了解。じゃ、とりあえずやってみるわ」


 コウは軽く拳を握り、アクセルを見据えた。


「まぁ、一発くらいはぶち当ててやるけどな」


 その言葉を聞いていたのかいないのか、余裕の笑みで二人のやり取りを見過ごしていたアクセルが、痺れを切らしたとばかりに声を張り上げた。


「おおい! いつまでウダウダやってんだ! 作戦なんぞ練ったところで何も変わらねぇ。いい加減、覚悟を決めやがれ!」


 そう言うと、右手を二人へと向けた。


神鳴焼尽サンダーインフェルノ


 雷鳴が、轟いた。

 超高温。超高圧。過電流。

 究極の雷撃が、二人へと叩き込まれる。


 コウとヴィルマルは本能で危険を察知し、反射的に飛びのいた——しかし、経験に劣るコウの反応がわずかに遅れた。雷撃が右腕を掠める。掠めた箇所が、瞬時に蒸発し、肉が融解し始めた。


「ぐああああ!!」


 激痛でコウの魔力が目を覚ます。闇の如き黒い炎が吹き上がり、融け落ちかけた右腕をあっという間に再生した。


「おお!? お前、面白れぇ能力持ってんな?」


 アクセルの意識が、コウへと引き寄せられた。


 わずか、一瞬。

 しかしその一瞬を、ヴィルマルは見逃さなかった。


 躱しながら既に攻撃態勢へと移行していた渾身の一撃が、アクセルへと襲い掛かる。距離が詰め切れていない——それでもアクセルがステップバックで躱した大槌の端が、わずかにその腹を引っかけた。


 それで充分だった。


 『重力の王(グラビトス)』が即座に発動する。見えざる巨大な手がアクセルを包み込み、その体を加速させながらクレーターの斜面へと押しつけていく。


「ぐぅ」


 今日、初めて漏れたアクセルの苦悶の声。

 このチャンスを逃すわけにはいかない。コウも即座に駆け出し、斜面に押しつけられたアクセルへと肉薄する。右拳を振りかぶった。


 ドガァン!!


 爆砕音が響き渡り、斜面にもう一つの抉れが生まれる。

 しかし——そこにアクセルの姿は、もうなかった。

 重力から解放されるや、空気を切り裂く雷の如き速さでその場を離れていた。


「おいおい! 何だ、その拳!! お前、二つも超越能力トランセンドを貰ったのか!? ……いや、そんなことはありえねぇ」


 一瞬驚いた後、アクセルはぶつぶつと何かを考え込むような仕草を見せた。

 ダメージは全く残っていなそうだ。しかし、その表情に先ほどまでの余裕は消えていた。


 僅かな沈黙。


 やがてアクセルは顔を上げ、口の端を吊り上げた。


「ハッハー! 面白れぇ! 久々に俺も熱くなれそうだ!」

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