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魔拳無双~ 神祖の魔女に拾われた孤独な少年は、人類史上六人目の魔人となりました。  作者: 堅物スライム
第二章 黄昏の終わり

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第32話 凶雷乱舞――1

「で、小僧。これからどう進めるつもりだ?」


 要塞都市アロイスの会議室は質素だった。

 石造りの壁に地図が貼り付けられ、中央に据えられた無骨な木のテーブルを、コウとジャオ、ヴィルマルとその副官の四者が囲んでいる。廊下の向こうからコウの団員たちの声が漏れ聞こえてくる。二百名の第一師団と諜報局員十名、全員が無事に要塞内に収まっていた。


「このまま首都のゴドフロアに向かって進軍する。道中の街や村から防衛隊とか警備隊を吸収しながらな。あんたについていきたいって軍人は多いんだろ?」


 それに答えたのは副官だった。コウに目を向け、静かな声で口を開く。


「多い、というよりほぼ全てだろうな。ここら辺にいる軍人は首都から田舎の僻地に追いやられた連中だ。魔獣退治など適当な理由をつけてな。首都におけるヴィルマル様の影響力を排除する為の政策の一環だ」


「なるほど。だったら士気も高そうだな。このまま一気に攻めていこう」


「アロイスはどうする? 儂らがここを出るともぬけの殻になるぞ?」


「ああ、それなんだがさっきエデンと相談してうちの第二師団の分隊を駐留させることにした。俺らよそ者が中心となってこのまま進軍するより、あんたを指揮官にした方が、民衆の反発も少なくなるだろ?」


 ヴィルマルは腕を組み、しばし黙考した。


「ふむ、確かに。だが、数千人規模でここまでやってくるのは大分時間が掛かるぞ?」


「いや、それは大丈夫。ジャオ、転移魔法陣は構築できたか?」


 テーブルの上で丸くなっていた老猫が、ゆっくりと顔を上げた。


「さっき完了報告が入ったところじゃ。この会議が終わったら、ガラに戻ってレキエルと調整せい」


「転移魔法陣……? 貴様らはそんなものを展開してるのか?」


 ヴィルマルの眉が、わずかに動いた。


「ああ、めっちゃ便利じゃん。グレーゲルでは普及してないのか?」


「当たり前だろう」


 その声に、険が混じった。


「転移魔法陣など危険極まりない。悪用されたら、暗殺やら破壊工作などやり放題だぞ? 何のための城壁や城門だと思っている?」


 反論の余地がない正論だった。


「あ、確かにな……。でも、まぁそこはエデンだから色々考えてるはず」


 言いながら、果たしてエデンはそこまで考えているのかという不安が頭をよぎった。単に自分の利便性しか考えていない気がする。


 いや、間違いなくそうだ。

 ただ、神祖の魔女に敵対しようと思う命知らずのバカがそうそういるとも思えなかった。


 まぁいい。


「とりあえず俺は一旦戻る。あんたらは出発の準備とか引継ぎ資料の作成を進めといてくれ」


 そう言うとコウはジャオと共に会議室を後にした。


 ◆◆◆


 先日の大規模なテロを鎮圧した後、ガラの街は平穏を取り戻していた。とはいえ、未だに『魔力の徴収反対! 感情を奪うな!』といったデモ隊の行進は度々発生しているようだ。


「そういった奴らはどうしてるんだ?」


 ガラの軍事施設。

 レキエルの執務室でコウは紅茶を啜りながら問いかけた。窓の外では、街の大通りを丁度その噂のデモ隊が横断しているのが見える。


「全員問答無用で魔力吸収魔法陣にぶち込む。そうすりゃあっという間に大人しくなるぜ。文字通り人が変わる。面白れぇから、お前も今度見学に来いよ」


 レキエルは事も無げに言ってのける。

 相変わらずの物騒な言葉だが、この美貌でヤンキー口調という組み合わせが、街どころか国中でのレキエル人気に火をつけているらしい。

『そのギャップがいい』『むしろドMにはぶっ刺さる』などという声が各方面から上がっているそうだ。コウにはよく分からないが。


「まぁ、そのうちな……。で、とりあえず本題だけどアロイスにお前の軍から千人くらい出してくれ。エデンの了解は取ってる。国境の要となる拠点だからしっかり固めておきたい」


「ふん。いいだろう」


 あっさりと頷いてから、レキエルはじっとコウを眺めた。品定めでもするような、妙な間があった。


「てか、お前しばらく見ない間に随分大人っぽくなったな。イカれたガキだったのが、いつの間にそんな――」


 そこでレキエルの言葉が止まった。

 何かに思い当たったような顔で、ゆっくりと身を乗り出してくる。


「ま、まさかお前……! どこぞの女と……そ、そういういかがわしいことをして大人になったとか――」


「いかがわしいことって何だよ?」


「く、口づけ……とか。い、言わせんな、女の口からそんなはしたねぇこと!!」


 耳まで赤く染めてレキエルが口ごもる。

 ヤンキーなのに純情。さっきまで涼しい顔で魔法陣に人をぶち込むなどの話をしていた人物と同一人物とは思えない。


「し、してねぇよ。するわけねぇだろ、恋人でもねぇやつに」


 コウもコウで、顔を背けながら言い返す。

 遅れてきた思春期はまだ恋愛がどのようなものかも分かっていない。二人ともその強さからは想像もつかない初心さを発揮していた。


「な、ならいいけどよ……。許さねぇからな、他の女とそういうことしやがったら」


 最後の方はどんどん声が小さくなっていき、コウには「許さ」以降が全く聞こえなかった。


 ◆◆◆


 転移魔法陣を利用するとは言え、レキエルの第二師団からの駐留部隊が全員揃うまでに、一ヶ月程度の時間を要した。

 一度に送り込める人数には限りがあるし、受け入れる側も部屋の準備が追いつかない。人だけどんどん来られても、寝る場所がなければ話にならない。部屋を空けるために、ヴィルマルの部下たちは準備の整った者から順に、近隣の街や村へ向けて出発していった。


 ヴィルマルは最後までアロイスに残った。

 引継ぎをしっかり見届けるという指揮官としての責務もあった。だがそれ以上に、この一ヶ月をヴィルマルが手放したくなかった理由が別にある。


 コウの修業である。

 日の出と共に始まり、日が落ちるまで続く。

 格闘術、魔力操作、魔術の応用——ヴィルマルは付きっ切りで、惜しみなく自らの技術を叩き込んだ。手加減はしない。怪我をしてもすぐに再生できるから、本気でぶつかる。


 コウと戦えば、十回中九回は勝てる。

 最後の最後で油断したあの一戦が、運悪くその一回に当たってしまっただけだ。だが戦場においてやり直しはない。負けは負けだ。ヴィルマルはそれを潔く認めていた。


 だからこそ、自分を負かすほどの男には誰よりも強くあって欲しかった。


 そして、コウにはその素質がある。

 魔力の総量はまだ自分に届いていないが、数年もすれば軽く追い抜いていくだろう。魔力操作が苦手なのも早々に見抜いたが、裏を返せばそこに無限の伸び代がある。まずは凍結魔法をもっと自在に扱えるようにさせなければならない。


 あの男に出くわす前に——。

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