表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳無双~ 神祖の魔女に拾われた孤独な少年は、人類史上六人目の魔人となりました。  作者: 堅物スライム
第二章 黄昏の終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/48

第30話 双極一閃――4

「ガハハハ! あれで隠れておるつもりか」


 物見(やぐら)の上で、ヴィルマルは腹の底から楽しそうに笑った。


 山頂の冷たい風が容赦なく吹き抜ける櫓の上からは、アロイスの城壁と、その遥か下方に広がる山肌が一望できた。

 眼下に見えるのは、険しい岩肌と針葉樹の一群、そして白く霞む谷間だけだ。案内してきた哨兵も手摺りに並び、双眼鏡を覗いてみるが、岩と木と風に揺れる枝の他には何も見えない。


「……私には何も見えませんが」


「目で見るのではない。感じるのだ、魔力を。こんなに馬鹿でかい魔力には滅多にお目にかかれんぞ」


「は、はぁ」


 哨兵は分かったような分かっていないような曖昧な相づちを返す。

 高ランクの魔術師は魔力測定器など使わなくても、その魔力量を推し量れるというが、その応用のようなものだろうか。凡夫に過ぎない己には理解できない境地だった。


「ま、儂ほどではないがな」


 言い捨てるように呟くと、ヴィルマルは踵を返し、梯子を降りていった。


 取り残された哨兵はどうしたものかと、その場で警戒の姿勢に戻る。

 しばらくして、何気なく双眼鏡を山道に向けると——その視線の先に、巨大な大槌を肩に担いだ大将軍が一人、悠々と山を下っていく姿が映った。


 ◆◆◆


 コウは要塞の死角となる場所を探し、潜入するのにふさわしい――そんな場所はありそうもないのだが――地点を求めて、険しい山道を行ったり来たりしていた。


 夕方や夜になれば見え方も変わるだろうか。だとすれば一旦引き返して、また後で来ようかな、などと思い始めた矢先だった。


「何か探し物か?」


 心臓が跳ね上がった。


 思わず振り返る。

 誰もいないはずだった。岩と木と風の音しかなかったはずだ。それなのに、気づけばそこに《《それ》》は立っていた。


 デカい。


 熊にも匹敵するほどの大きさと厚み。

 二メートル近い巨体が、まるで最初からそこにあった岩のように、自然に佇んでいる。肩に担いだ大槌は成人男性ほどもある鉄塊だ。


 いつからいた? 

 なぜ気づけなかった? 

 これだけの体積が発する気配を、なぜ一欠片も感じ取れなかったのか。


「儂も一緒に探してやろうか?」


「い、いや大丈夫。もう帰るから」


「遠慮するな」


 次の瞬間、大男は大槌を片手で持ち上げ、無造作に振り回した。

 風切り音が轟いた、と思った瞬間——


 バキバキバキッ!!


 大槌の軌道上にあった木々が、根元から薙ぎ飛んだ。

 幹の太さが腕ほどある針葉樹が、まるで枯れ枝のように折れ砕け、斜面を転がり落ちていく。

 歩みを止めることなく、もう一度、さらにもう一度。

 振り回すたびに周囲の地形が塗り替わっていく。岩が砕け、土が抉れ、山肌の一角がみるみる開けていった。土煙と木屑が舞い上がり、視界を白く霞ませる。


 そして、何事もなかったかのように振り向いた。


「ガハハハ! どうだ? 大分スッキリしただろ? これで探しやすくなったんじゃないのか?」


「……足元にこれだけ木が倒れてたら、見つかる物も見つからねぇよ」


 フリーズしていた頭が、ようやく動き始める。コウは目の前の大男を改めて見据えた。


「で、あんたはグレーゲルの兵士ってことか。俺の行動はお見通しだったってわけだな」


「儂の名はヴィルマル。この国の軍事のトップよ。ま、今はただのお荷物だがな」


 そう言うと大槌を肩に戻し、楽しそうに目を細めた。


「この先に進みたくば、儂を倒してみせい」


 大人しくこの場を去ることは無理そうだ。


 コウは集中力を高め、全身に魔力を巡らせる。

 黒い炎が、体を包み始める。


 ジャオの指導で芽が出始め、レキエルの指導によってようやく花が咲き始めた魔力操作。怒りに身を焦がさなくとも、ある程度炎を燃え上がらせるほどにはなっていた。


「ガハハハ! 『肉体再生』と『破壊』、それに『呪い』が貴様の能力らしいな。聞いとるぞ」


「いつの間に俺はそんな有名人になったんだよ……」


 凍結魔術グラキリスの方までは伝わっていないか。

 まぁ、あえて教えてやる必要もない。


「儂は神話級武器ディヴァインNo.7——グラビトスの使い手だ。どんな力かは、身を持って思い知るがいい」


 大槌の先端は、禍々しい血のような赤。

 殆ど黒に近いと言っていい。

 どれだけ多くの血を吸ってきたのか想像もつかない。


 コウはファイティングポーズを構える。

 それを警戒するかのように、ヴィルマルも大槌を強く握った。


「いかに強力な力を持っていようと、その拳を儂に当てねば効果はない。さぁ、儂の懐まで潜ってみせよ」


 無造作な構えだった。

 なのに——隙が、ない。


 コウは踏み出しかけて、止まる。

 もう一度踏み出しかけて、また止まる。

 一歩先に踏み込むことすら、出来なかった。


 何かが、違う。

 圧力でも、殺気でもない。

 ただそこに立っているだけで、近づくことを拒絶されているような——。


「どうした? 来ないのなら儂の方から——」


 言葉が終わる前に、ヴィルマルが動いた。


 一歩。


 たった一歩で、距離がなくなった。

 その巨体からは想像もつかない踏み込み。目に残像が残るほどの、驚速。

 斜め上から——大槌が振り下ろされる。


 見えなかった。

 本能だけが、辛うじて間に合った。


 ガンッ!!


 両手で受け止める——受け止めきれなかった。

 骨が砕ける。両腕が。次の瞬間、大槌がそのままコウの胸にめり込み、胸骨を粉砕していく。

 体の内側から、鈍く、不快な音が響く。


 しかし——それだけでは、なかった。


 大槌のどす黒い赤い先端を中心に、重力の波紋が広がり始めた。

 見えない巨大な手が、コウの全身を掴み、押し込んでいく。


 下へ。

 ただ、下へ。


 逃げられない。

 跳べない。

 体をずらせない。


 地面が、近くなる。体がめり込んでいく。足が、腰が、背中が砕け——大地に呑まれていく。

 隕石が衝突したような轟音と共に、クレーターが広がっていく。


「ぐぅ——ッ」


 呼吸が、できない。

 胸郭が潰れて、肺が機能しない。

 それでも再生の炎が噴き上がり、砕けた骨を、潰れた内臓を修復していく——修復した端から、また砕かれる。潰れる。


 再生と破壊が同時に起こり続ける、終わりのない地獄。


 重力が、解けた。

 ヴィルマルが、大槌を引いたのだ。


「ほう。噂以上の再生力だな」


 クレーターの底から、コウは上を向いた。

 内臓から逆流してきた血を口から吐き出し、ゆっくりと立ち上がる。

 狂気の灯火が、瞳の奥に揺れ始めた。


「再生しても、痛ぇもんは痛ぇんだよ」


 声が、震えていた。

 怒りからではない。

 全身がまた生を実感し、その喜びで。


「倍にして返してやるからな」


 しかし、頭は冷静だった。

 この化物を村まで近づけたらダメだ。

 何もかもぶっ壊される。巻き込まれてみんな死ぬ。今の自分はもう一人ではない。団長としての責務がある。


「ガハハハ!! やれるもんならやってみろ、小僧」


 ヴィルマルは再び、無造作に大槌を構えた。

 己の一撃を喰らって立ち上がってきたのは何人目だ。

 そして——何十年ぶりだ。


 いい目をしている。そんな目で儂に挑む者など、もういないと思っていた。


 燻り続けていた炎が、勢いよく燃え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ