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魔拳無双~ 神祖の魔女に拾われた孤独な少年は、人類史上六人目の魔人となりました。  作者: 堅物スライム
第一章 破壊と再生と呪い

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第3話 火花胎動――3

 コウが球を放った瞬間、狙いは最初からそこではなかった。


 剣のすぐ脇。エデンではなく、カルナウフの右腕。

 標的を破壊するほどの力がその球に封じられているだろうことは、薄々理解していた。あの剣が貴重なものであることは見れば分かる。失ってはいけない。直感がそう告げていた。理屈ではなく、ただそう感じた。


「き、貴様!! 血迷ったか!? 自分が何をしでかしたか分かって――」


「だから、うるさいって。螺旋圧搾スクイーズ


 エデンはそう言うと、また両手を打ち合わせた。さっきと同じ動作。同じ結末。

 ブチュッともビチャッともつかない音が一瞬響き、断末魔すら最後まで続かなかった。カルナウフは肉塊へと成り果てた。


「おしまい」


 パチッと指を鳴らすと、周囲に広がる残骸から青白い炎が立ち上がった。炎は音もなく広がり、肉塊をあっという間に喰らい尽くす。残ったのは、肉が焦げた匂いだけだった。


「あーあ。また庭の手入れしなきゃじゃん。めんどくさいなぁ、もう」


 コウはズシリと重い剣を手にしたまま、ただ茫然とそこに立っていた。さっきまで二十人近くいた人間が、跡形もなく消えた。そのことが、頭の中でうまく繋がらない。


「で、君はひょっとして……異界から召喚されたのかな?」


「た、多分……」


 そう言うしかなかった。何も分からない。ただ、ここが今までいた世界とは全くの別物だということだけは分かる。それを何と呼ぶのかと問われれば、異界とか異世界という言葉が一番近いのだろう。


「ふーん。噂は本当だったか。異世界人はわたしたちの『根源魔法オリジン』を無効化するとかいう」


 エデンはまた指をパチッと鳴らした。


「熱っ!!」


 コウの右手から火花が爆ぜた。反射的に剣を放り投げる。


「あははは。ごめんごめん。普通の魔法は通じるんだね。ピーキーだなぁ」


 楽しそうにころころと笑っている。やられた側としてはたまったものではない。しかし言うべき言葉が見つからず、コウは抗議の意を込めた視線でエデンを睨みつけた。


「自己紹介がまだだったね。わたしはエデン。神祖の魔女の一人」


 一拍置いて、少しだけ声のトーンが落ちた。


「『規律』が魂を縛り付けてる、可哀想な女の子だよ」


 そう言うと、わざとらしく、あざとく、ウインクした。

 女の子――見た目は二十代前半といったところだ。しかし本当に魔女だというのなら、実際はその何倍もの年を重ねていると考えるのが妥当だろう。


「で、わたしのことは何と聞かされてここまで連れてこられたの?」


「……邪悪な魔女とだけ」


 神祖だとか規律だとかは、聞いていない。


「ふーん」


 さして興味もなさそうに聞き流すと、エデンは続ける。


「で、どう? 実際邪悪に見える? こんな可愛い女の子に向かって邪悪とか、酷くない?」


「……何とも。まだ分からない。頭が混乱してる」


 嘘ではなかった。

 理由はどうあれ、目の前で二十人近い人間を惨殺した相手だ。普通に考えれば極悪非道と言われても仕方がない。しかしコウはこの世界のことを何も知らない。何が善で何が悪なのか、判断するだけの材料を持っていない。


「うんうん。だったら、これから自分の目で見て、自分の意思で決めればいいよ。誰かがそう言ってたから、じゃなくて」


 腕を組んで一人納得したように頷きながら、エデンは続ける。


「で、君は何者? 異世界から来たってこと以外も教えてよ」


「……俺はコウ。向こうでは溶接工をやってた。それだけ。自慢できるような特技は残念ながら何もない」


「溶接工……。鍛冶屋みたいなものかな? ちょっとついてきて」


 エデンはそう言うと歩き始めた。

 コウはまだピリピリと痛む右手を押さえながら、地面に落ちていた剣を拾って後を追う。連れていかれる先が危険かもしれないという警戒心は、どこかへ消えていた。ごく当たり前のように、ただ足を動かす。


 広大な庭園をしばらく歩いた先に、その小屋はあった。

 煙突が突き出た武骨な造り。外には木材や鉄骨のようなものが無造作に積み上げられている。


「どうぞ、入って」


 エデンに手招きされ中へ入ると、天井から電灯のようなものがぶら下がり、薄暗い室内を照らしていた。大きな窯の前の机には、コウが見たことのない工具がいくつも並んでいる。


「おや? 目が少し生気を帯びてきたよ? こういうの、興味があるのかな?」


 言われてコウははっと気づいた。


 いつの間にか、胸の奥で何かが燃え始めていた。子供の頃、夢中で廃材を加工したあの感覚。町工場で初めて本格的な溶接機に触れ、時間を忘れて作業していたあの頃と同じものだ。理屈ではなく、体が先に反応していた。


「その剣、加工してみる?」


 エデンは悪戯っぽく、それが大した価値など持っていないような軽い口調で言った。


「え? でも、これって神話級の武器だろ。No.6 レーヴァテインとか何とか……。使い物にならなくなったらどうする?」


 あの球を投げた時も、この剣には当たらないようにわざわざ調整したというのに。


「別にわたしには必要ないから。剣なんて使えないし」


「でも、凄い力があるんだろ?」


「うん。神話級武器ディヴァインはね、魔女の根源魔法オリジンを弾く効果がある。でも、君はすでにその能力を持ち合わせてるよ」


 エデンの魔法が最初カルナウフに通じなかったのは、そういうことか。


 しかし――


「え……? それだけ?」


「あとはレーヴァテインだと確か『防御力無視』の超越能力トランセンドだったかな。こっちがメイン」


「ん? よく分からないけど、それって相当凄いんじゃ?」


「凄いよ。でも当たらなければ意味が無い」


 確かにそうだ。戦闘モードに入ったこの魔女の間合いに踏み込むことは、まず不可能に近いだろう。


「君も剣なんて使えないでしょ?」


「ああ、今日初めて触った」


「だったらさ、君が使いやすい武器に改造してみなよ。武器を扱ったことがないなら、拳に装着する感じでも良くない? それ嵌めて殴るの」


 拳に装着する。殴る。

 頭の中で形が浮かんだ。メリケンサック。素手に近い感覚で使えて、当てるだけでいい。剣を振るうより、よほど自分に合っているだろう。


 だとしたら、どう改造するか。この剣の形状、素材の硬度、加工に必要な工程。頭の中で作業の手順が自然と組み上がっていく。気づけば胸の中に、久しぶりに感じる熱が灯っていた。


「面白そうだ。この工具の使い方、教えてくれ」

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