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魔拳無双~ 神祖の魔女に拾われた孤独な少年は、人類史上六人目の魔人となりました。  作者: 堅物スライム
第一章 破壊と再生と呪い

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第24話 天上の華――5

「ぶっちゃけ、ここからあたしが『原初の光(ジェネシス・レイ)』をぶっ放してればそれで終わりなんだけど、それじゃつまんねーよな? せっかくこんな熱いバトルを繰り広げられるっつーのによ」


 白い翼をはためかせ、空中に静止していたレキエルがふわっと地上に舞い降りた。

 同時に『聖装クリスタリア』が再展開される。白金の鎧、光り輝く剣。神の騎士と呼ぶにふさわしい、凛々しい姿。


 その姿に向き合うと、なぜか自分が悪の側に立っているような気になる。

 そういう世界観の中で育ってきた。善と悪。光と闇。そして、闇の側はいつも見捨てられ、搾取されてきた。かつての自分も。


 ——だが、今は違う。自分は悪ではない。エデンと共に平和な世界を創るのだから。


「助かるよ。遠くから攻撃されて何も出来ずに死ぬなんて、死んでも死にきれない」


「だったら、がっかりさせるんじゃねーぞ。そん時は容赦なく斬り捨てるからな」


 チリチリと、目に見えない火花が散り始める。


 ドンッ!!


 大地を蹴り上げ、踏み込んだ。

 右拳を警戒したレキエルが、それに当たらないよう立ち回りながら聖剣を叩き込む。一閃。胸から下腹部に向かって、斜めに斬り裂いた。血飛沫が舞う——が、闇の炎がすぐに塞ぐ。


 お構いなしに、がむしゃらに拳を振り回す。

 洗練など、どこにもない。

 土人形ゴーレムと共に磨いてきた我流の格闘術。名のある流派とは程遠い、泥臭い動き。人に教えられるようなものでは断じてない。


 だが——だからこそ、読めない。


 レキエルは慎重に対処しながら、闘牛士のように躱しては斬り、躱しては斬っていく。その都度、血が舞い、白金の聖装を赤く汚していく。


 右拳だけ警戒していればいい。左には何もない。


 やがてコウの変則的な動きにも慣れ始め、レキエルの踏み込みが少しずつ深くなっていく。つまり斬り込みも、深くなっていく。ズバッという音と共に、返り血が浴びせられる。


 再生は追いつく。

 追いつくが——息が、荒い。

 コウは次第に肩で呼吸をし始めるようになる。


 完全に見切った。

 そうレキエルが確信した瞬間——コウの右フックが、予測より若干ずれた軌道を描いた。顔面ではなく、兜を引っ掛けるような動き。レキエルの剣先が一瞬乱れ、狙いを外す。


 ガシャン。


 兜が粉砕し、地面に転がった。

 剥き出しになった美しい顔。紫の瞳。その視界に——左から拳が飛んでくるのが映った。


 これは無視していい。

 左には、何もない。

 レキエルはそのまま剣を構え直し、トドメを狙う。


凍天絶華ニヴルヘイム


 コウの血の滲む口から、静かに、低く。


 ダンッ!!


「!?」


 レキエルの殴られた顔面が——熱い。

 いや、冷たい?

 無数の針が顔面を突き刺し、その先で内部が泥のようになっていく感覚。


 まずい!


 本能で飛び上がる。翼を展開し、距離を取る。顔から首へ、首から胸へ——凍結が、広がっていく。


 まずい!!


 心臓が凍りつきそうになる。必死に回復魔法を全身に巡らせる。


 氷の王(グラキリス)——その力の一つは、大気中の水分を瞬時に針状の結晶へと変え、音速で射出する。着弾した瞬間、標的の内部から凍結を伝播させていく。

 ただし、コウの現在の魔力操作でその威力を発揮するには、できるだけ距離を詰める必要があった。願わくば、零距離まで。


 この一撃に、全てを賭けていた。


 左の拳には、呪いの他に何もないと。警戒するものなど何もないと。殴らせても構わないと——思い込ませる必要があった。


 渾身の一発。


 バランスを崩したレキエルが、地上へ落下してくる。

 

 コウは走り出す。

 回復させるわけにはいかない。

 しかし——足が、止まった。

 止められた。


 目の前から溢れ出す異様な圧に、それ以上近づけなかった。


「ハハハハハハハハッ!!! いい! いいぞ!! 『凍天絶華ニヴルヘイム』と言ったか? そのネーミングセンスも素晴らしいじゃねーか!!」


 レキエルの彫刻のような顔に、歪みが生じていた。

 肉体的な崩れではない。

 狂気の笑顔だ。


 仕切り直し。


 コウも冷静に間合いを外す。さっきまで斬りまくられ、再生のために魔力を注ぎ込み過ぎた。魔力の減少は、体力の回復まで遅らせている。


「そりゃ、どうも」


 そんな場合ではないのは分かってる。

 でも、『凍天絶華』のネーミングセンスを褒められたことに——どこか、嬉しさを感じていた。考えたのは自分ではないのだが。


「あたしの『原初の光(ジェネシス・レイ)』はどうだ? こいつもなかなかイケてるだろ?」


「……正直、かっこいいと思った」


「だろ!? お前とはセンスが合いそうだな」


 まさかの厨二病同士の邂逅。

 場の空気が、一瞬緩んだ。


 しかし——


「そんなんを隠し持ってたとはな。そしたら、あたしも魔法を使わせてもらうぜ? ああ、約束は守る。遠距離じゃないから安心しろ」


 レキエルが、一度大きく息を吐いた。


「今の回復であたしも魔力を結構持っていかれちまった。ハハッ。楽しいな、命のやり取りってのは」


「いや、全然楽しくねぇから。さっきも言ったろ? 俺は死にたくないから仕方なく戦ってるんだよ」


「嘘つけ!! その目は何だ? ギラギラ輝いてるじゃねーか。もう魔力も尽きかけてるのに、楽しくて仕方がねーって目だ!!」


 ——その通りだ。

 認めざるを得ない。

 これが、楽しいってことなんだ。楽しすぎるって。


 そして——もう一つ。

 魔力が、尽きかけている。

 体の奥から熱が引き始めている。

 魔力が、湧いてこない。


 こんなに楽しいのに!

 もっと殺り合いたいのに!!

 こいつをぶっ殺したいのに!!!


「行くぞ」


 レキエルが剣を構えた。

 疲労など無いとばかりに——先ほどまでと変わらない、目にも止まらぬ踏み込み。


 避けない。

 避けるつもりは、なかった。

 右手で受けたら破壊してしまう。破壊したら、反射的に距離を取られる。

 だから——左手で。


 聖剣が左手を貫いた。


 ぐっと、呻き声が漏れる。

 それでも掴む。掴んで、離さない。抜き取られないように。剣を捨てるか、距離を取るか、一瞬判断に迷うだろう。だが、その一瞬で充分。


 右手を、振りかぶる。

 目の前に——レキエルの顔があった。

 白金の髪。紫の瞳。

 天使の美しい顔。


 その目が、大きく見開かれていた。


創成カタストロフ


 レキエルの小さな口から、何かが呟かれた。


 瞬間、コウの背中が——燃えるように熱くなる。

 その振りかぶった右拳が、レキエルの顔面に届く前に。


 力なく、振り下ろされた。


 ドサッ。


 コウは地面に、倒れた。

 黒い炎は——もう、立ち昇っていなかった。

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