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5.終幕と新しいはじまり



「では、ゴルドア男爵への罪状を言い渡す。爵位財産ともすべて没収の上、生涯幽閉の地で無給での労働刑を言い渡す」


 国王の決定に、会場はざわめいた。


 王家に対する一連の罪を考えれば、即刻死罪を言い渡されてもおかしくない。なのになぜ、労働刑などという甘い処分なのだ、と声が上がる。


 国王は、観衆を落ち着かせるよう穏やかな声で答えた。


「金に激しい執着があり、貧しい暮らしを何より嫌がるお前のことだ。働けど働けど一銭も得られない一生を送る方が、死罪よりも苦行であろう」


 実はこれは、マリエラの発案だった。


 死罪とするのは簡単だが、他人をもののように軽んじ見下してきた男爵にとって、一生一銭にもならないタダ働きは死ぬ以上に苦痛だろう。


 一番欲しているものを取り上げるのが、一番の苦痛なのだから。


「連れて行け」


 国王の一言で、男爵はガックリと肩を落とし引きずられるように連行されていった。


 マリエラはダリアは、安堵の表情を浮かべ微笑みあった。


「さて、トラダール伯爵令嬢ダリア。そしてマリエラよ」


 国王が穏やかな声で、ダリアとマリエラを呼んだ。

 頭を垂れ、御前にひざまずく。


「そなたたちには世話をかけた。国の未来を揺るがす悪事を未然に防いだこと、心から礼を言う」


 その言葉に、マリエラは口を開いた。


「私はそれが男爵を欺くために必要だったとは言え、自分の身分を偽り王子を騙しました。いかなる処罰もお受けいたします」


 結果的にダリアを救い、悪事を未然に防いだとは言え王家の人間を騙したことは疑いようのない事実だ。処罰されても仕方がない。


 頭を垂れたまま、国王の返事を待つ。


「……ふぁっはっはっ!処罰などあるはずもなかろう。そなたに与えなければならぬのは、罰ではなく褒美だ。何でも望むものを与えよう、考えておくが良い」


 拍子抜けするほどあっさりと、マリエラはお咎めなしとなった。

 先ほどまでの険しく迫力に満ちた表情が嘘のように、国王はにこにこと温和な表情を浮かべていた。


 ダリアはマリエラを見て、にっこりと親しげに笑いかけてくれる。

 マリエラは、本当にすべてが終わったんだと胸をなでおろした。


 そして国王は、群衆に向けて今回の婚約者騒動がすべて男爵の罪を暴くための偽の話だったことを説明した。


「王子の婚約については、また今後機会を設けるとして……。せっかく皆に集まってもらったことだし、夜会を楽しむとしようか」


 そう言って、楽隊に演奏の指示を出そうとした国王をバルド王子が止めた。


「少し私にお時間をいただけませんか、陛下」


 王子の頼みに、国王は王妃と顔を見合わせ、しばし戸惑いの顔を浮かべてうなずく。


 そして観衆が見守る中、王子はおもむろにダリアの前に歩み寄り、その場にひざまずいた。


 突然の行動に、ダリアの大きな瞳がさらに大きく見開かれる。


「ダリア、この場を借りて君に言いたい。私と、これからの人生をともにしてくれないだろうか」


 その瞬間、マリエラは驚きの声を必死に飲み込んだ。


 慌ててつつつ、と少し離れたベストポジションに移動して、成り行きを見守る。


「自分がいかに不甲斐なく頼りない男であるか、よく分かっているつもりだ。でも君をずっと想ってきた」


 王子は、そっとダリアの手を取る。


「君に釣り合うわけがないと努力することをやめてしまった私は、本当にばかだった。でもどうか、チャンスをくれないだろうか」


 見つめ合う二人。


 それを、会場にいる皆が息を呑んで見守る。

 特に年頃の令嬢たちは、気づけばマリエラと同じように身を乗り出して熱い視線を送っていた。


(最推しが、目の前で、求婚、されてるっ!こんなシーン、まさに奇跡だわ!どうなるの?どうするの?ダリア様!)


 食い入るように成り行きを見守るマリエラは、ごくりと喉を鳴らした。


「殿下……。そんな、急にそのような」


「ダリア、君が好きだ。どうか私の正式な婚約者になってほしい。きっと、君に釣り合うような男になってみせるから」


 その真摯な姿に、これまで王子を冷めた目で見ていた令嬢たちも、マリエラも目を輝かせていた。


 会場内の熱が一気に高まっていく。

 そしてマリエラの胸もどんどん高鳴っていく。


(さあ、ダリア様の返答は?!どっちなの?)


 ぎゅっと握り合わせた両手に、自分の爪が強く食い込む。


「あの……私。……はい。私でよろしければ喜んでお受けします、殿下」


 顔どころか耳の先まで真っ赤に染めて、ダリアは答えた。


 その瞬間、マリエラは思わず大きくガッツポーズを取る。


「ダリア!本当か?ありがとう、ダリア」


 ダリアの手を握ったまま、まるで子犬のようにはしゃぐ王子の姿に、群衆は呆気にとられながらも温かい祝福を送る。


(なんだかもう、涙が出そう!ダリア様も王子も、みんな尊い。ダリア様がかわいくて、嬉しそうで、幸せそうで……)


 気づけば会場は、歓喜と盛大な拍手に包まれていた。


(最推し、バンザイ!良かった。本当に良かった!ダリア様に出会えて、本当に良かった……!) 


 満ち足りた思いで、マリエラは最推しの恥ずかしそうな、でもとても嬉しそうな笑顔をいつまでもその目に焼き付けるのだった。





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