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3.少女たちは勝利する

 



 観衆の見守る中、ダリアは事件に使われた証拠品をひとつずつ並べていく。

 いくつかの薬瓶、そしてダリア襲撃事件で押収された縄やナイフ、血に染まった黒いドレス。

 

 華やかな夜会には異質なそれらを前にした観衆は、皆困惑しつつも好奇心に目を輝かせている。


「こちらは王子に盛るよう用意された媚薬で、これは女性の子を成す力を奪うための薬です。マリエラ、その時の男爵とのやりとりを説明してちょうだい」


「はい。この媚薬は王子の隙を見て盛るようにと指示されました。既成事実があれば、婚約者として認めないわけにはいかないだろうからと」


 続けてマリエラはもうひとつの薬を手に取ると、皆によく見えるように掲げて見せる。


「そしてこちらは、ダリア様に害を成すために渡されたものです。ダリア様が襲撃された事件においても、同じ薬が押収されています。男爵はトラダール伯爵家を目の敵にしており、ダリア様もろとも排除することに、強い執念を持っているようでした」


「ありがとう。この二つの出所はすでに突き止めており、男爵に売った売人も捕獲済みです。……私を襲撃した事件については、私からご説明します」


 ダリアは、観衆を前に堂々たる態度で事件のはじまりから犯人逮捕に至る経緯を説明した。

 犯人たちを逆に伯爵家の側に付け、男爵に襲撃が成功したように見せかけたことも。


 その鮮やかな一連の行動に、会場からは称賛の声が漏れ聞こえた。


「もちろん血は偽物ですし、髪もただのかつらです。しかしこれを見た男爵は、自分の計画が成功したと勘違いしたのです」


 先ほどから放心したように床の上に座り込んでいる男爵に、ダリアは話しかける。


「もう少し確認すべきでしたわね。よく見れば、これが偽物であることはわかったでしょうに。欲に目がくらみ過ぎて、随分詰めが甘かったようですわね」


 そう言って、ダリアは不敵な笑みを浮かべた。


 その顔に、会場からは「あの不敵な笑みは、間違いなくダリア様だわ」「そうよ!悪役令嬢ダリア様よ……」というささやきが聞こえてきた。


 ようやく会場の面々も、理解したようである。

 

 あの悪役令嬢ダリアと目の前のかわいらしい少女とが、同一人物であることを。


 一気に会場のあちこちから、男爵を避難する声が上がり始めた。


「ぐぬぅ……。私は何も知らん。そんなゴロツキどもの言うことなど、何の証拠になるものか。私が首謀者だというのなら、証拠を出してみろ!」


 あくまでしらを切る男爵を、ダリアは冷めた目で一瞥した。


「あくまで、この襲撃も薬もご自分がやらせたものではないと?」


 自分の仕業だと立証できないと踏んでいるのか、どこまでも強気な男爵である。


「そうだ……!すべてはマリエラが仕組んだことだ。私の血を引いていると嘘をいい、私を騙したのだ!悪いのはその女だ」


 そう言うと、男爵はマリエラを真っ直ぐに指さしてあざ笑った。


「この女はその顔と体を使って男をたぶらかしてきた、薄汚い孤児だ!金と権力欲しさに私を騙して、すべてを仕組んだのはこの女だ……!」


 男爵の発言に、場内はざわついた。

 孤児という言葉に、あからさまに汚らしいものを見るような表情を浮かべる者もいたし、憐れみの視線を送る者もいた。


 マリエラはそんな反応をものともせずに受け流すと、ダリアにも負けないくらいににやりと不敵に微笑んだ。


「たしかに私は孤児です。ですがなぜそれを、男爵がご存知なのです?ご自身が私に騙されたとするならば、私が孤児など夢にも思わないのでは?」


 そして、マリエラは男爵の目の前にあの誓約書を突き出した。


「これに見覚えがあるはずよね。あなたが私をこの計画に引き込んだ時、あなたがこの誓約書にサインさせたんだから」


 そして、マリエラは誓約書の内容をすべて読み上げた。


「ここにあるように、男爵は孤児である私を利用して絶大な権力とお金とを得ようとしたのです。もし私が拒否したり途中で逃げ出せば、孤児院の子どもたちの命はないと脅されました」 


 会場から、どよめきの声が上がる。


「仕方なく私は加担するふりをして、密かにダリア様に助けを求めました。そしてともに、男爵の悪事を明らかにするため行動を開始したのです」


 ダリアとマリエラは男爵の門前に立ち、衛兵に両脇を抱えられたままでこちらを睨みつける男爵を見下ろす。


「この誓約書を残しておくなんて、馬鹿ね。自分が首謀者ですって書いてあるも同然じゃない。あなたとノーザを屋敷から追い出したのは、これを奪うためだったのよ」


 マリエラはにっこりと満足気に微笑んだ。


 正直胸がすっとする。

 

 これでもうこの醜悪な顔を見る必要もなくなるし、ノーザの監視からも開放される。

 孤児院のみんなも、もうビクビクして暮らさずに済むのだ。


 男爵は次々に突きつけられる証拠に、顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせていた。


 必死に反論しようとするも、会場からは男爵の罪を断罪する声がどんどん大きくなっていく。


「さあ、男爵。これでもまだ罪を言い逃れるおつもり?伯爵家の力を甘く見られては困りますわ。他にいくらでも、証拠を用意できましてよ」


「孤児だからって甘く見たら思ったら、大間違いよ!あんたなんかの計画に踊らされるほど、馬鹿でも間抜けでもないのよ。舐めないでちょうだい!」


 大の男がこんな少女二人に見下され断罪されるなど、なんと滑稽な絵だろうか。


 しばしぎりぎりと歯ぎしりをしながらこちらを睨みつけていた男爵だったが、とうとう観念したようにうなだれたのだった。


「わたしたちは、王家への反逆罪とそれに付随する諸々の罪で、ゴルドア男爵を断罪いたします!」


 その声に、男爵はがっくりと膝をついた。


 沸き上がる歓声と、男爵へ向けられる非難の声。


 こうしてここに、長い断罪計画は幕を閉じた。

 

 マリエラとダリアは、顔を見合わせにっこりと笑い合う。そして、優雅に一礼して見せる。

 そんな二人に、割れんばかりの拍手が降り注ぐのだった。




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