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8.乙女たちの聖戦 その裏

 


 それは、あのパーティの翌々日のこと。


「お聞きになりました?近々ダリア様が王妃様お気に入りの保養地に行かれるそうよ。なんでも、王妃様から直々にお許しが出たとかで」


「私も聞きましたわ。殿下はマリエラ様に夢中ですけれど、王太子妃ともなればやっぱり、王妃様に気に入られてらっしゃるダリア様の方が適任じゃないかしら。マリエラ様はやはりご身分もお生まれも、ねぇ」


「あら、でも私はマリエラ様が優勢と思いますわ。なんといっても、あの殿下があんなに夢中でいらっしゃるのだもの。殿下はあまりダリア様のことがお好きじゃないみたいだし」


「でも王妃様がダリア様を推しておられるのは、大きいわよね。他の貴族たちも男爵家などより、伯爵家に付く者が多いでしょうし」


 マリエラとダリアの喧嘩話のあと、王子とマリエラがいちゃいちゃしていたというデマが広まり一時は王子に愛されているマリエラが優勢との見方が強まった。

 だが、そこにダリアは近々王妃専用の保養地を訪れる予定だというデマを流したのだ。


 それを聞いて、恋物語に夢中になっていたマリエラ派も、王妃お気に入りのダリアの方が

婚約者レースの勝者になるのではとダリア派に乗り換える者が増えたのである。

 これにより、男爵は烈火のごとく怒り狂った。


『またあの娘が!小生意気な伯爵家の雌犬が!こうなったら、手ぬるいことなどしている暇はない。急いであの小娘を排除してやる。死んだって構わん』


 そこにマリエラが、ダメ押しとばかりに油を注いだのだ。


『王妃様はダリア様をお気に入りですから、このままいくと婚約者として選ばれるのはダリア様かもしれません。なんだか最近王子も、ダリア様をお気にしてらっしゃるみたいですし……。王妃様がその気なら、私にはもうこれ以上どうしようも……』


 マリエラが泣きついたことで、男爵はすぐに動いた。

 さっそく質の悪そうな数人の男たちを雇い、ダリアの襲撃に向けて行動をはじめたのだった。


「うまく乗ってくれたわね。伯爵家の者が常に張り付いているから、計画はすべて把握済みよ。実行は三日後、保養地へ向かう道中に偶然の事故を装って私を襲う気らしいわ」


「ダリア様、本当に大丈夫なのですか?下手をしたら、大けがだけでは済みませんよ」


 心配のあまり顔面蒼白になるマリエラに、ダリアはにっこりと微笑みかけた。


「あら、もちろん私は馬車には乗らないわよ。屋敷から馬車に乗り込んだと見せかけて、メイドの格好に着替えて反対側から出てしまうもの。変装は得意だから、バレっこないわ」


 ダリアの計画はこうである。


 馬車に乗り込んだと見せかけて、実は空の馬車を保養地に向けて走らせる。

 道中襲ってきた男たちを金と罪の軽減をエサに買収し、ダリアが命に関わる重傷を負い、婚約者レースから脱落したとの噂を流す。


 が、ダリアはマリエラの教育係として変装して王宮に乗り込み、マリエラとともに最後の仕上げに取り掛かるという寸法である。


 ダリアが婚約者レースから脱落しただけでなく、伯爵家の一人娘であるダリアが跡を継げないほど重傷であると知った男爵は、もう安泰だと慢心するに違いない。

 その上で、婚約発表の場ですべての悪事を明るみにして男爵を断罪するというのが一連の流れである。


「伯爵家の使用人は全員特殊な訓練を受けている強者ばかりだから、大丈夫よ。その辺のゴロツキ程度じゃ、到底歯が立たないわ。それに、王妃様の計らいで王家の護衛も付くことだし」


「……はぁ、そうなんですか。すごいですね。伯爵家」


 想像以上に伯爵家はすごい一族のようである。こんな家を相手に悪事を企んだ男爵の末路が、どれほど悲惨なものになるのか考えただけで恐ろしい。


 マリエラはダリアの身に危険が及ばないと知り、胸を撫でおろした。


 が、実はマリエラにはもうひとつ憂慮していることがあった。だが、それをダリアに話すことはできない。だって、それは――。




 実はマリエラは、先日王宮を歩いている時に噂を聞きつけた王子がダリアに問い質しているのを偶然見てしまったのだ。


「噂を聞いたぞ。一体どうしたんだ、お前らしくもない。人前であのような発言をしてマリエラを貶めるなど」


 王子はダリアに向かって、苛立ちを隠そうともせずに詰め寄った。

 一瞬ダリアは言葉に迷うようなそぶりを見せたが、すぐに言い返した。


「王太子妃となろうとする者、できて当然のことを指摘したまでですわ」


「毎日の王妃教育でマリエラも疲れているのだろう。お前もマリエラとはそれなりに親しくしていたではないか」


 その王子の言葉にダリアは一瞬口ごもるが、「……必要なことですわ」と小さな声で答えた。


 王子はそんなダリアをしばし見つめた後、


「ダリア、昔のお前は口煩くはあったがそんな冷たい人間では……。いや、いい。もう昔のお前はいないんだな。失望した」

 そう言って、ため息をついて立ち去ったのだった。


 その場に残されたダリアの表情に、マリエラははっとした。

 寂しそうな、悲しげな顔でうつむくダリア。そして立ち去った王子の顔にも同じ表情が浮かんでいて。


(やっぱりお二人には、他の人間には立ち入れない特別な感情があるのかも。もしかしら、ダリア様も王子もお互いのことを……)


 マリエラは、ダリアを守るためとはいえ自分が二人の仲を引き裂くようなことをしているのではないか。このまま王子を騙したまま計画を進めていいものか、と複雑な思いに揺れていた。





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