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6.乙女たちの聖戦 火蓋

 


 会場に集う、華やかに着飾った貴族の子息令嬢たち。

 香水の香りと、衣擦れの音。本心を装いの下に隠したくすくす笑いと、ひそひそ話。


 このパーティは、別に王家主催でもなければ特別な目的があって開かれたものでもない。

ごくごく内輪なものであった。

 が、とある人物が出席するという噂を聞きつけて、是非参加したいとの申し出が殺到していた。


「随分賑やかなパーティになりましたわね」


「それは何と言ってもあの方が来られるって聞いたら、ねぇ」


「殿下もいらっしゃればよろしかったのに。せっかくなら、お二人ご一緒のところを拝見したかったわ」


 会場のあちらこちらから、ざわざわとした楽しげな好奇をにじませた声が上がる。


 ここに集った者の目下の話題はもちろん、この国の次期国王となるバルド王子の婚約者レースの行方である。


「マリエラ様、今日のお召し物もとっても素敵。お肌も本当にすべすべで透明感があって、うらやましいですわ。お手入れの秘訣を、ぜひ教えてくださいませ」


「私、殿下のお相手は絶対にマリエラ様を置いて他にはいらっしゃらないと思っていましたの。だって殿下はマリエラ様に一目惚れなさっておいでですもの。運命のお相手なのですわ」


「それに比べてあの方ときたら、相変わらずつんと澄ましてばかりで。いくら王妃様とお親しいからとはいっても、やはり慎ましさと優しさがないと」


 マリエラはこの日、何人もの令嬢たちに取り囲まれてちやほやと褒めはやされていた。

 

(ついこの間まで、卑しい隠し子だの庶民のくせになんて散々言ってたくせに。そんなに権力っていいものかしらね)


 マリエラは華のような愛らしい微笑みを全力でキープしつつも、内心では盛大に呆れ返っていた。


 今やマリエラとダリアの王子の婚約者レースは、貴族会で最もホットな話題として連日話題の的である。

 そしてその中でもひときわ皆の関心を引いているのは、ダリアとマリエラの女同士のバトルであった。


「ダリア様はいらっしゃらないのかしら?私、お二人のやりとりが見たくて参加したのに」


「お声がけはしていらっしゃるってお話だけれど、お姿は見えないわね。なんだかわくわくしちゃうわね」


「ドキドキするわ!私まだ直に見たことないのよ。あなたはどっち?ダリア様派?それともマリエラ様派?」 


 令嬢たちは小声で話しているつもりなのだろうが、興奮のあまりところどころ声が大きくなっている。


 マリエラの耳にも会場のあちらこちらから、そんなやりとりが聞こえていた。


(マリエラ派にダリア派……。皆この手の話、好きねぇ。まあ、私たちがわざと煽るような真似をしてるんだけど) 


 貴族にとって、権力のある者といかにつながるかは、人間性や見た目などよりもはるかに重要である。よって、次期王太子妃になるであろう令嬢と今のうちから懇意になりたいと思うのは至極当然だ。


 今マリエラのまわりに群がってちやほやしているのは、マリエラ派。

 そして、家柄や品格といった資質を最重要視する者や、伯爵家と関わりの深い者たちはダリア派。


 今や貴族界は、その二つに二分されていた。もちろん中立の立場でどちらにも積極的に接触を図らない者たちもいる。

 だがその者たちも、事の成り行きを好奇心丸出しで見守っていた。


 その者たちにとって、おそらく今日は相当満足の行く刺激的な一日となるだろう。

 これから起こる展開を思い、マリエラは心の中で密かにほくそ笑んだ。


(さて、そろそろかしらね)


 次の瞬間、会場は声にならない歓喜と好奇心とに包まれた。


「……まぁ!ダリア様、ようこそいらしてくださいましたわ。もういらしていただけないものかと、がっかりしてましたのに」


「ノルデア侯爵夫人、本日はお招きいただき誠にありがとうございます。王妃様にお会いしていたもので、すっかり遅くなってしまいましたわ」


「まぁ、それはそれは。あとでゆっくりお話を聞かせてくださいましな」


 このパーティの主催者である貴族界随一のゴシップ好きで口が軽いと評判なノルデア侯爵夫人が、軽やかな声で笑った。


 好奇の目が、令嬢たちの輪の中にいるマリエラとダリアに注がれる。


 そして、マリエラとダリアの視線がつと絡み合う。


(さぁ、ショーの始まりよ。紳士淑女の皆さん、存分に噂を広めて帰ってちょうだいね)


 マリエラとダリア。

 二人の渾身のお芝居が始まる――。




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