5.乙女たちの聖戦 開戦前夜
ダリアの機転で王妃の協力も取り付け、ひとまず男爵に対抗するための体制は整った。
男爵の目的は、三つある。
まずは第一段階として、マリエラを男爵令嬢に仕立て上げ王子と結婚させること。
そして第二段階として、王家と近しい関係にある伯爵家の跡継ぎであり、もう一人の王子の婚約者候補でもあるダリアを排除すること。
一人娘であるダリアを、抹殺とまではいかなくても、将来跡継ぎを生めない体にしてしまえば、遅かれ早かれ伯爵家は失墜するだろうと言っていたし。
第三段階として、王太子妃となったマリエラが子を成せば晴れて男爵は次代を担う国王の祖父となる。王子を適当な理由で退任させてしまえば、孫を傀儡として国王の座につけ自分が後ろで絶大な権力を思いのままにする。
そして国の実権と唸るほどの金を手中に、というのが男爵の描いたシナリオである。
壮大な計画ではあるが、事がそううまく運ぶわけがないとマリエラは思う。
が、本人はいたって自信満々なのである。自分の計画が失敗に終わるなど考えてもいない様子は滑稽ではあるが、そのために手段は選ばないという決意の表れでもある。
それを、マリエラは憂慮していた。
(私とダリア様が婚約者候補として競い合うことになるなんて、思いもしなかったわ。一人だけ選ばれるものとばかり……。これじゃ余計にダリア様が危険だわ)
この状況はどう考えても、男爵にとって面白くないはずだ。伯爵家はただでさえ貴族の中でも力を持っているし、王家の信も厚い。婚約者としてどちらがふさわしいかと言えば、やはりダリアが優勢だろう。
マリエラは、男爵の計画すべてを未然に防ぎ、悪事を計画した証拠を突き付ければそれが一番だと思っていた。自分はともかく、ダリアや孤児院を危険にさらすわけにはいかない。
「男爵の行動を監視して守りを固めるとは言っても、ダリア様の身が心配です。自分の望みを叶えるために、男爵が何をしでかすか」
マリエラの不安を見抜いたように、ダリアはマリエラの手を取りぎゅっと握りしめる。
「大丈夫。策は考えてあるわ。まずは手始めに、私が囮になって男爵の直接行動を引き出します」
「囮?嫌な思い?何をなさるおつもりですか。ダリア様」
囮とは聞き捨てならない。まさか危険な行動に出る気かと心配するマリエラである。
ダリアは心配する私を見て、ふふふっと笑うと首を振る。
「心配は無用よ。今や私たちはライバル関係でしょう。そして悪役令嬢と呼ばれていた私は、当然あなたを蹴落とそうとするのが自然だわ」
確かにそうだ、とマリエラはうなずいた。
自分たちが正式に婚約者候補として選ばれたことは、すでに公表された。きっと今頃は、貴族たちの間で相当話題になっていることだろう。
となれば、これまで王子の周辺を飛び回る女性たちを牽制し、時に辛辣に追い払ってきたダリアが黙っているわけはない。マリエラを蹴落としにかかるのが自然だ。
「では、私がダリア様に妨害されていると知った男爵が、ダリア様を邪魔する行動を起こすように仕向けるんですね。でもどんな手を使ってくるのか分からなければ、こちらも迎え撃ちようがないのでは」
今まではマリエラ自身にダリアを排除させようとして、怪しい薬などの小細工を労してきた男爵だが、もはやその手は使えない。何しろ互いがライバル関係となった今、自分たちが二人でいるところを見られれば、すべてが演技だとバレてしまう。
男爵自身が自分が手を下すしかない。だとすれば、思い切った危険な行動に出るとしか考えられない。
「ダリア様の身に危険が及ぶのは、私反対です!ダリア様をお守りしたくて、私は協力を願い出たのに」
マリエラの言葉に、ダリアはにっこりと微笑んだ。
「もちろんその辺は考えてあるわ。あなたは男爵の行動をすべて未然に防いだ上で、悪事を暴露して罪に問うつもりでしょうけど、私は反対よ。未遂で捕まってしまえば、重罪に問えなくなるわ。だからこそ、男爵には決定的な行動を起こしてもらわなくてはね。それこそ、一生牢獄から出られなくなるくらいのね」
ダリアの不敵な微笑みは、ぞっとするほど美しかった。
私の推しのなんと美しいことか。ある時は清楚で少女のようにかわいらしく、またある時は妖艶で氷のように冴えわたり、そしてまたこんなに強く凛々しくもある。
「わかりましたわ。ダリア様の身は心配ですが、計画はお任せします。どこまでも付いていきますわ」
そして乙女たちは、その額を突き合わせて計画を練る。
温室には美しく薔薇が咲き乱れ、その香りはどこまでも濃厚で華やかに香り立つ。
乙女たちの計画は、着々と進んでいた。
そのあくる日、貴族の子息令嬢たちが集まるパーティの席でそれははじまったのである。
プロの悪役令嬢、ダリアの本領発揮である。




