3.王子の決断
マリエラとダリアが固く手を取り合い、決意を新たにしていた頃――。
王宮では王子もまた、決意を胸にその拳を固く握りしめていた。
「何だ、急な話というのは」
「一体何なのです。この国の未来に関わる重要な相談というのは……」
王子は、王と王妃と向かい合っていた。そしてその膝を折り、大きな声で宣言した。
「私は決めました。ゴルドア男爵令嬢、マリエラと人生を共にします!どうか婚約のご許可を」
息子のいつになく真剣な姿に、王と王妃は驚き顔を見合わせた。
「……それはまた、急な話だな」
「まだお相手とそれほど親しくはないのでしょう。そんなに急いで決めなくても、やはり物事には段階というものが……」
王も王妃も、急な展開に少々戸惑いを隠しきれない。
「お前もよく知っての通り、王妃になるというのは並大抵のことではない。王をどんな時も固く支え、時に国のためにその身を賭す必要もある。となれば当然、正式な婚約者として認められるには一年ほど、教育期間が必要だ。わかるな?」
息子がようやく落ち着いて一人の女性との未来を見据えてくれたことは、父親としてこれ以上なく喜ばしい。
が、性急すぎる決断は時に危険でもある。
国王は息子に、落ち着くよう言い聞かせる。
「その通りですよ。もちろんあなたの意思を尊重したいけれど、先方の気持ちも大切です。ここは婚約者候補の一人として、ダリアとともに王妃としての資質を見極めるための教育をはじめてみてはどうでしょう。もしこの厳しい教育を乗り越えられたならば、臣下たちも皆祝福してくれるでしょう」
王妃もまた、自らの経験から王妃となるための教育がいかに大変なものであるかをよく知っていた。それを乗り切るだけの精神力と思慮がなければ、王妃の重責には到底耐えられない。そのために、正式な婚約者として認められるには相応の時間が用意されているのだ。
王子は二人の反応に、少々落胆した様子ではあった。が、その意思は固かった。
「承知いたしました。ではどうか、マリエラを婚約者候補の一人としてお認めください。きっと私が彼女を支えてみせます」
力強いしっかりとしたその言葉に、王も王妃も反論しなかった。
「うむ。ではゴルドア男爵家令嬢マリエラとその父ゴルドア男爵に、取り急ぎ登城の連絡を。そしてトラダール伯爵家にも同じ旨を伝えよ」
国王の命は、すぐにゴルドア男爵家とトラダール伯爵家の屋敷へと届けられた。
◇◇◇
その頃マリエラとダリアは、額を突き合わせて今後の作戦を練っていた。
「王子には、このまま騙されたままでいていただきましょう。きっと近いうちにマリエラとの婚約の打診をするでしょうから」
「ええ、でもちょっとだけ。ほんとにちょっとだけなんですけど、心苦しい気もします。思っていたよりはいい方だったので」
ダリアの提案にはマリエラも賛同している。とはいえ、マリエラはあの王子が真実を知った時のことを思うと少々心配でもある。
「何人もの命と国の未来がかかっているんですもの。少々の犠牲は致し方ないわ。それに、あの人に男爵を上手く欺く演技ができるとは到底思えないし。素直過ぎて人を騙すのには向いていないもの」
マリエラは、ダリアのその言葉に何か特別な感情がにじんでいるような気がして思わずダリアを見つめた。
「きっとあなたは、王子の初恋の相手なのかもしれないわね。今までの王子とはちょっと違うもの。あなたが本当に男爵令嬢だったら、私あなたと王子のことを応援したと思うわ」
そう言うダリアの声は、ほんの少し寂しげで。マリエラは推しの心中を思い、なんだか複雑な心境だった。
「そうだわ。王妃様にも協力していただかなくては。もしマリエラが婚約者として選ばれてしまったら、私はあなたと会えなくなってしまうものね。私が王妃様にお願いをしてみるわ。きっとなんとかするから、私に任せてちょうだい」
ダリアはにっこりと自信ありげな笑顔を浮かべていた。
いよいよ、男爵の鼻を明かす時が来たのだ。これでダリアの未来も守られるし、孤児院の子どもたちも守れる。
マリエラは最推しのこれ以上ない力強い協力を得て、決意を新たに拳を握りしめるのだった。




