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2.乙女たちの熱い誓い

 その日、ダリアの待つ部屋に通されたマリエラは一目ですべてを悟った。


 ダリアはもうすべてを知っている。マリエラの正体も、その目的が決して権力や金ではないことも。


「あなたはあの時の方ね。思い出すのが遅くなって、ごめんなさい。服装や髪の色で受ける印象って、大きく変るものね」


「こちらこそダリア様を騙すような真似をして、本当に申し訳ございませんでした。でもこうでもしないと、とても信用していただけないと思ったんです。それに監視もされていましたし」


 マリエラは、誠心誠意ダリアに謝罪した。いくら事情が事情だったとはいえ、素性を偽り、騙したことに違いはないのだから。


「いいのよ。先日いただいたハンカチ、とても気に入っているの。孤児院の庭に咲いているあの花よね」


 そう言うと、ダリアはにっこりと嬉しそうに笑った。


 その笑顔に、マリエラはすべてが報われた気がした。そしてこの笑顔を守り抜くためなら、どんなことでもやり切って見せようとも思った。


 そしてダリアとマリエラは、これまでの経緯をすべて打ち明けたのだった。

 ダリアはマリエラの話を、すべて信じてくれた。そして全面的に協力を惜しまないと誓ってもくれた。


 さすがは私の最推しだわ、と嬉しく思いつつ、マリエラは気になっていたことを質問してみた。


「あの、ダリア様。ダリア様は王子の一番有力な婚約者候補として見られていらっしゃいますけど、本当は王子を守るためにああした振る舞いをされているのですよね?」


 マリエラは、さすがに悪役令嬢などと呼ぶわけにもいかず、言葉を濁した。

 するとダリアは「いいのよ。悪役令嬢って呼んでくださっても」と、おかしそうに笑った。


「その通りよ。よく気が付いたわね。王子の行く先を心配された王妃様に頼まれたのよ。いらぬ火の粉を払ってちょうだいって」


 その笑顔はまるでいたずらっ子のようで、とても愛らしい。


「王子ったら目を離すとすぐに、あちらこちらの女性に飛んで行ってしまうんだもの。本当にしょうのない方。でもね、昔はとても素直で優しい子だったのよ」


「お親しかったのですか?」


 正直今のバルド王子とダリアの様子を見ていると、とてもそうは思えない。ダリアは演技としても、王子はダリアを極力避けているようにも見える。

 マリエラの考えを見透かしたかのように、ダリアは苦笑した。


「私は幼い頃から王妃様に良くしていただいていたから、王宮にはよく上がっていたの。だから、自然と親しくなって。まるで姉と弟みたいな関係だったかしら」


「姉と弟、ですか?」


 ダリアは確か、王子よりひとつ年下だったはず。なのに、ダリアが姉で、王子が弟なのだろうか。


「そうなの。でも成長するに従って、王子は私を避けるようになって。きっと私が疎ましくなったのね」


 そう話すダリアの表情は、どこか寂しげだった。


(もしかしたら、ダリア様と王子の間には二人にしか分からない感情があるのかも。王子だってもしかしたら、本当は……)


 ダリアを見る王子の目は、いつもどこか苛立ちの色を含んでいて単純に嫌っているのかと思っていた。でも言われてみれば、時折その目が優しく感じられる気がしていた。


(私が王子を騙しているのを、ダリア様はどんな気持ちで見ていたのかしら。嫌な気持ちにさせていなければいいのだけれど)


 マリエラは、ダリアに対しても王子に対しても申し訳ないような気持ちになっていた。


「でも王子はいずれこの国を守らなければならないんですもの。良い伴侶を見つけて欲しいと願っているの。そのためにはなんとしてでも男爵の企みを阻止して、あなたも孤児院のみんなも守らないとね」


「ダリア様の未来もです。ダリア様は私にとって推し……、いえ!あの、恩人なんですから」


 思わずうっかり推しと言いそうになって、マリエラは焦る。最推しです、なんて言ったらドン引きされかねない。慌てて恩人と言い返る。


「え?推し……?今なんて」


 ダリアはきょとんとした顔で困惑していたが、その意味を知らないようで助かった。

 マリエラは、ほっと胸を撫でおろした。


「恩人なんて、私何かしたかしら」


 ダリアにとってみれば、マリエラは訪れた孤児院にいたたった一度話しただけの相手。不思議に思うのも無理はない。

 でもマリエラにとっては、ダリアは自分の人生に夢を与えてくれた存在だ。


「あの日、ダリア様はおっしゃってくれたんです。私がダリア様の作ってくださったお菓子をお店で売ったらいいのにって言った時、じゃあ私がお菓子を作ってあなたがいつかお店で売ればいいわって」


 ダリアにとってあの会話は、何の意味もないただの他愛無いおしゃべりだったろう。

 でもマリエラにとっては、運命が変わった一瞬だった。


「私はあの時、夢を持ったんです。それまでは見下されてばかりの人生に嫌気がさしていたけど、もうそんなのやめようって。まともな仕事がないなら自分が仕事を生み出そうって。いつか人を幸せにするようなお菓子のお店を持って、孤児院の子どもたちが安心して働ける場所を作ろうって」


 あの時から、マリエラの人生は変わった。

 最高の推しと、その推しがくれた大きな夢とが前を向かせてくれたのだった。


「だから私は、ダリア様にご恩返しがしたいんです。あの時ダリア様が私に未来をくれたみたいに、私もダリア様の未来を守ろうって」


 マリエラの話を聞き終えたダリアは、大きなその黒い瞳をさらに大きく見開いてマリエラを見つめていた。


「そんなふうに思ってくださったなんて、私……。私こそ貴族のくせにお菓子作りなんて、って皆に言われて落ち込んでいたの。でも孤児院のみんなが喜んでくれるから、とても嬉しくて。幸せな気持ちにさせていただいていたのは、私の方よ」


 マリエラとダリアは、顔を見合わせて微笑んだ。

 

「守り抜きましょうね。孤児院の子どもたちも、私たち自身も。男爵の悪事を明るみにして、相応の処罰を受けてもらわなくては」


 こうして、乙女たちは力強くタッグを組んだのであった。




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