1.推しからの招待状
先日の三人でのお茶会は、成功だった。
ダリアにマリエラが孤児院で会った少女と同一人物であることをなんとか思い出してもらおうと、少々分かりにくい手を使ったが、確かにダリアは反応していた。
帰り際、ダリアはマリエラにこう言ったのだ。
『今度二人でお茶会をいたしませんか。せっかくこうして仲良くなれたのですもの。じっくりとお話がしてみたいわ』と――。
王子からはあれ以来、毎日のように花や手紙が届く。その内容も日ごとに熱量を増しているところをみると、どうやら本気で気に入ってくれたようだ。
(なんだかこうして何度も会ってみると、印象が違って見えるものね。もっと軽薄で、性格の悪いただの甘ったれなのかと思っていたけれど)
王子は想像していたよりは、ずっとましな男だった。少なくともマリエラがこれまで会ってきたどの貴族や金持ち連中の男たちよりもずっと。
決してマリエラが嫌がることはしないし、目は胸に行くのは不可抗力としてもそれ以上のことは決してしない。あくまでちらちらと見るだけだ。
それに、頭がいいとは言えないもののそれなりに王子なりに考えて行動をしているようでもある。それが短絡的で、絶対的に思慮が足りないという大きな欠点はあるけれど。
(あとのことを思うと、少しだけかわいそうな気もするわね。でも何人もの人間の命がかかっているんだし、あんな男が義父になるよりずっとましだろうし)
マリエラは以前に比べれば、王子に対して好感を抱いてはいた。
が、この計画にはあの単純さがぜひとも必要なのだ。ここは耐えてもらうより、致し方がない。
そして今日、王子からの手紙と花束に混じって、ダリアからの招待状が届いた。
一度ぜひ伯爵家で女同士お話をしましょう、とのお茶会のお誘いだった。
マリエラの心は大きく高鳴った。
なにせこれまでは遠巻きに視線を送るだけ、そして王子を介して会うようになり。
(ついに二人っきりでお会いできる時が来たのね!……最推しと二人っきりで!お茶を!)
いや、もちろん男爵の企みをダリアと共有し、阻止することが目的ではある。でもやはり、これまでずっと推してきた相手と二人っきりで対面できるのは、これ以上ない幸せである。
マリエラの心は、今にも踊り出さんばかりに浮き立っていた。――男爵の言葉を聞くまでは。
『私はあの女を排除するようにといったはずだ。それなのに、なぜこんな親しげな招待状が届くのだ。さてはお前、裏切るつもりじゃないだろうな』
男爵はその招待状に強く反応した。
『ダリア様は私を時折憎しみのこもった目で見つめていらっしゃいますから、きっと私に何か嫌がらせをなさるおつもりなんですわ。王子の目が届かないところでなら、思う存分痛めつけられますもの。そうして王子から私を引き離すおつもりでしょう』
マリエラは、あくまでダリアとの仲はライバルとしての関係だと強調した。
もしマリエラがダリアと伯爵家と通じていることがバレたら、自分も孤児院の仲間たちも今すぐにでも殺されかねない。
『ふん……いいか。もしお前が逃げ出したり他の者に助けを求めたりすれば、あんな孤児院火を付けて灰にしてやるからな。子どもたちの命もないと思え』
男爵は、あからさまに疑いの表情を浮かべていた。
無理もない。男爵にとってダリアは、自分の野望を達成するために最も邪魔な障害だ。
伯爵家と比べれば、男爵家の立場ははるかに低い。いくら王子を色仕掛けで夢中にさせたところで、国王と王妃とが身分を重視すれば、ダリアとの婚約をごり押しするのは目に見えている。
まして、マリエラは半分しか貴族の血が流れていないのだから。
『まあ、せっかくあの女に近づくチャンスだ。これを持っていけ。あの女が使う化粧水とかクリームとかなんでもいい。その中に、これをこっそり混ぜるんだ。即効性はないが、何度か使ううちに効果が出るだろう』
そういって手渡されたのは、粉薬が入った包みだった。
おそらくは噂に聞いたことのある、子を産めない体にするとかいう薬だろう。いかにも男爵が考えそうなことだ。
(足が付かないように、大金を払って裏の売人から手に入れたんでしょうね。娼館ではよくこれを使って、子どもができないようにしているって聞いたことがあるわ)
マリエラは澄ました顔で男爵から包みを受け取ると、部屋に戻りダリアに会うための支度をはじめた。
内心怒りに燃えていたけれど、今男爵にこちらの動きを悟られるわけにはいかない。それが、ダリアと孤児院のみんなを守ることになるのだから。
(絶対に守って見せる。推しも、孤児院のみんなも。あんな男のために踏みにじられてたまるものですか!)
そしてマリエラは、最推しの待つ屋敷へと意気揚々と向かうのであった。




