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11.推しへの想いを刺繍に込めて 2

  


「よしっ、完成!あとはこれを箱に入れてリボンをかけて、と」


 我ながら、いい仕上がりだと思う。


 簡単な刺繍くらいは孤児院にいた頃にしたことがあるが、貴族が習うような凝ったものは見たこともないし、作ったこともない。仕方なく男爵の持ち物や本を参考にしたのだが、これならば貴族の娘が作ったといってもごまかせるだろう。

 もっとも王子に関して言えば、私が胸を寄せながら渡せばなんでも喜んでくれそうだけど。


 肝心なのはダリアのために作ったものだ。果たしてこれをみて、どんな反応をするだろう。この刺繍に込めた思いを、無事感じ取ってくれるだろうか。


 マリエラはダリアを想い、一針一針縫い進めた刺繍をそっとなぞった。


 マリエラはダリアへと渡すハンカチの刺繍のモチーフに、思い出の花をモチーフに選んだ。

 それは、二人並んで座ったそばに咲いていた花で、この国では結婚式で身に着けると幸せになれるというジンクスがある。孤児院には、この花が群生していた。


 あの頃はちょうど盛りの時期で、風にそよぐたび薄紫の花から爽やかな香りがしていて――。


(あの時話した相手が私だと、ダリア様は思い出してくださるかしら。もしほんの少しでも思い出してくださったら……)


 ダリアは、あの時のことを思い出してくれるだろうか。初対面で失礼な物言いをした、子どもだった私を。

 祈るような気持ちで一針一針さした、この刺繍の意味を。

 

 男爵家の令嬢としてここに住むにあたって、マリエラは男爵に言われて栗色だった髪を薄茶色に染めた。理由は、王子の金髪に近い薄茶色のほうが目を引きやすいから、らしい。しかもあの頃とは違い化粧をし、服装も髪型も大きく変わっている。


 当時とは見た目が変わっている分、もしかしたら気づかないかもしれない。そもそも孤児院でたった一度話しただけの子のことなんて、記憶にすら残っていないかもしれない。でも望みをかけたいと思った。


(思い出してくれますように――。あの日孤児院で出会ったのが、私だと気づいてくれますように)


 祈りを込めて、丁寧に箱に入れリボンをかけるマリエラだった。




 その日の午後、王宮から一通の知らせが届いた。


「でかした!お前宛に王子からの招待状だ。王宮で二人きりで会いたいそうだ。よくやった、マリエラ。これで王子は落ちたも同然だ。いよいよ私が、王族の一員に名を連ねる日も近いな」


 大きな高笑いを上げながら、王子からの招待状をひらひらと振り回しマリエラのもとへ男爵がやってきた。


(この前会ったばかりなのに、またあのエロバカと顔を突き合わせないといけないのね。でも王宮内ってことはもしかして……)


「おぉ、そうだ。ちょうどいい。これを渡しておこう」


 男爵が押し付けられた小さな箱の中には、何やらピンクの液体が入った小瓶が入っていた。なぜか嫌な予感をひしひしと感じながらも、中身は何かと尋ねる。


「それは媚薬だ。なにせ王族が特別な客と会う時だけに使うサロンでの、プライベートな茶会だからな。二人っきりで会うチャンスを無駄にするわけにはいかん。なんなら隙を見てそれを王子の茶にでも仕込めば、あとは……」


 にやにやと口元を歪ませてこちらをねっとりと見つめてくるその視線に、吐き気がする。そして、間髪おかずに付け加えるのも忘れない。


「値が張るんだからな、絶対に割るんじゃないぞ。一滴残らず大事に使え」


 金にうるさい男爵らしい一言である。


「もし王子に薬を盛ったとばれたら、重罪になるのでは?それにプライベートな場所といえメイドや護衛はいるでしょうし、そんなことが可能でしょうか」


 言っても無駄とは思いつつも、一応は確認してみるマリエラである。マリエラがしくじって重罪になったらなったで、男爵は自分が隠し子と騙されて引き取ったのだとかなんとか、罪を逃れようとする気なのだろうが。

 あとは事情を知っている者に金を握らせるか、消してしまえばいいといったところだろう。


「なぁに、あの王子のことだ。ハンカチを渡しながらちょっとすり寄れば、簡単に隙ができるはずだ。離れたところにいる護衛には、王子にくっついているお前の手元までは見えんだろう。ようは、お前の働き次第ってことだ。……わかってるな。子どもたちのためにも、くれぐれもしくじるなよ」


 蛇のような目が、マリエラをじっと見据える。男爵が嘘などついていないことは、明らかだ。もし自分が失敗するようなことがあれば、間違いなくあの子たちは――。


 マリエラは、想像したくもない未来にごくりと息を呑む。


「かしこましました」


 そう言って頭を下げ、王子へと急ぎ返事をしたためるしかなかった。






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