第2章 7話 武器
ボコボコにされながらも反撃が出来るようになったアヤト。
治癒魔法を使いパップに厳しくしごかれながらもしっかりと付いて行っていた。
果たして今回のアヤトはどうなる?!
「武器は…そうね。あなたはこれがいいんじゃないかしら?」
翌朝パップは訓練前に武器を選びに部屋の中に武器を呼び出した。そして短剣を俺に渡してきた。短く片手でも扱いやすそうだった。
「これは扱いやすそうですね」
自分なりに振り回してみた。ビュンという風切り音がした。そんなに力を込めてないのだが…不思議だった。
「なかなかいい音させるわね。あたしと素手で戦ってたから少しは力ついたのかしらね?」
「そうかもしれないっすね!」
なぜか凄い嬉しかった。
「んじゃあこの短剣もう一本持って二刀流で行きなさい。たぶん扱えるはずよ。
拳の延長のように考えなさい。刺したり切ったりはある程度できると思うわよ。」
刺す。切る。それは人をすぐにでも傷つけ、殺すことが出来るという意味だ。
自分が人を殺す…。考えたことが無かったわけではない。戦争があったんだ。身近に死を感じられた最初の場所だ。あのとき俺は指揮官だった。直接手を下すことは無いにしろ間接的に敵を殺すことになる。
それを直接…俺が…殺す…。殺される恐怖とは違った恐怖が俺の中を埋め尽くしていく。
ポンと肩が優しく叩かれた。
「ホレ。この剣、ようく見てみなさい?ちゃんと刃はつぶしてあるし、切っ先だって丸いでしょ?刺そうと思えば刺さるけどこれは訓練だ。そこまではしないわよ」
優しい言葉で俺の恐怖を和らげてくれたのだろう。しかしそのあとにはキツい話が続いた。
「ただ、あんた甘すぎるわよ?戦争中だっていうのに。情けは自分の死を招くわよ。自分の死はアナタの大切な人の死につながる可能性があることを覚えておきなさい」
なにかパップの言葉の重みは何かいつもとは違っていた。昔に何かあったのだろうか。聞くことはこの場では出来ないだろう。
「はい。頑張ります」
俺は身を引き締めた。
「じゃああたしはこれを使うわ」
と言って手に取った武器は小さな女の子の身の丈と同じくらいの大きさの斧だった。重さだったら自分よりも数倍重いだろう。
「それは…反則でしょ…」
「何言ってるの。戦場はどんな武器が出てくるかわからないのよ?それに魔法だって今日から解禁なんだから。ん~普通は試行錯誤するものなんだけど、例えば、短剣に風の魔法をまとわせてみるとか…まぁ方法はいろいろあるわよ?」
「なるほど…。魔法って便利ですね」
「そりゃそうだ!それが魔法。本来は生活を便利にするものよ!戦いに使うのはちょっと本来とは違う使い方ね。まぁ便利にするっていうのは間違ってないけど」
「そうなんですね。んじゃあちょっとやってみます」
俺は短剣を見つめ風の魔法をイメージして短剣の周りに風をまとわせるようなそんな感覚で魔法をかけてみた。すると目には見えないが風がどんどん短剣に集まっているのがわかる。まるで小さな竜巻が剣に巻き付いているようなそんな感じだった。
「なかなかいいじゃないその剣。切る剣というよりも風の力で対象を吹っ飛ばすみたいね」
「そうですね。そんな感じのをイメージして作ってみました!」
「よし!じゃあ早速やってみましょ!」
闘技場の舞台に乘りパップに切りかかってみる。短剣が触れる範囲ではなかった。
「キャッ!」
短い悲鳴を上げてパップは空に舞い上がった。きりもみ状態というのだろうかグルグルと回りながら上昇した。そのスピードが落ちてくるとそのまま降りてこなかった。たぶん浮遊しているのはパップの魔法だろう。
「ずいぶん凄い魔法ね。吹っ飛ばされたわ!」
「すみません…もうちょっと威力を絞ります…」
「いやそれでいいわよ!むしろもっと威力を高く出来るのかしら?」
「やってみます…」
短剣を見つめ風の魔法にさらに魔力を込めるイメージをした。すると短剣からゴウッという大き目な音がした。短剣自体を持っている手がねじられるような感覚さえある。
「おぉ…これ凄いですね…手がねじれそうです」
「それを維持しなさい」
そう言いながらゴーレムを6体ほど出した。その大きさは最初に見た大きさじゃなく高さは2メートル以上はあるだろう横幅も大きかった。巨人に囲まれたような形になってしまった。
「よしアヤト!こいつらにその剣を食らわせないさい!」
「わかりました」
パップの指示に従い自分の周りのゴーレムを薙ぎ払う。自分を中心にし剣を突き出しその場で回転する。手には切った感触はなかった。
ブオンという音がしたと思うとゴーレムたちは空中に舞い上がった。さっきのパップのように錐もみ状態でほかのゴーレムにぶつかりながら高く上がりそしてスピードが落ちたと思ったらそのまま落ちてきた。
ズズン…という大きな音ともに土煙が上がる。地面が多少揺れたような気がした。どんな重さのゴーレムなんだ…
「ずいぶん飛んだわね!このゴーレム1体が男10人分はある重さよ?」
大人10人!?一人70kgだとして700kg…そりゃ落ちてきた時の衝撃が凄いはずだ…
「そんなに重いものだったんですか…飛ばした時の感触はなかったですよ」
「そりゃ風の魔法で飛ばしてるんだものそうなるわね。魔法での攻撃…特に風の魔法なんてそんなものよ?」
「なるほど…大勢に囲まれたときとかは便利ですね!」
「そう!自分の置かれている場所や敵の数に応じて、、臨機応変に魔法を変えながら戦闘していく。それが今回の訓練ね!魔法については自由に考えて切り替えて行ってね!」
「わかりました!それではまずは何をしたらいいですか?」
「まずはあたしと戦いなさい!」
「わかりました!」
そういうとパップはスーーっと地上に降りてきて大きな斧を振りかぶるように構えた。小さな少女に大きな斧という見た目にもバランスの悪い姿。
「行くわよ!」
そういった瞬間その見た目とは裏腹に一気に俺の懐に飛び込んできた。何が起きたのか一切わからない…最初から斧を振りかぶった構えだったパップはそれをそのまま振り下ろす。俺は時間を止め右に身体をずらし時間を元に戻す。もともと俺がいた場所にドンという音とともに闘技場の舞台にヒビが入る。そんなものを食らったら殺される…
「よく躱したわね!時間を止めたわね?瞬時にその判断はいいわよ!」
「ありがとうございます!」
「じゃあこれなんかどう?」
と言って振り下ろされた斧を横に振り回すような形で思いっきり俺に向けて薙ぎ払う。判断する時間なんてほとんどなかった。時間を止めて当たらない範囲まで逃げる。時間を戻しパップのいた場所を確認するとパップがいない。
「心を読んだらこんなこともできるわよ?あたしも魔法使わせてもらうわ!」
声がする方は上だった。見上げると斧と一緒に回転しながらこちらに向かってくる。パップの心を読む!…
「え…」
あまりのことに俺は動きが止まってしまった。そのまま回転している斧が俺に当たる。
グシャ…
あたりに血が肉が骨が四方八方に飛び散る。
俺はつぶされた。
「途中まですごくいい出来だったのになぜ動きが止まったの?」
パップは俺を再生させた後に聞いた。
「パップさんの行動を読もうと心に入ってしまってそのまま止まってしまった感じです」
パップは難しい顔になった。何か考えているような感じだった。
「わたしの心に入ってしまった…覗こうとした…行動を読もうとしたというわけではないんだな?」
「そうです。行動を読もうとすると入り込んでしまったというのが事実に近いです」
「あたしは長生きしてる分いろんなものを見ている。綺麗なもの見てるし、それ以上に汚いもの、汚らわしいもの、一生見なくてもいいものも見ている。もしかしたらそのせいじゃないかしら…それをほんの少し覗いてしまったアンタ程度の人生なら取り込まれてしまうかもね。なるべく私の心は見ないようにしたほうがいいわね。これからは気をつけなさい。あたしも気を付けるようにする」
「わかりました」
返事は出来たがなぜあんなことになったのはわからなかった。それだけ闇を抱えてるということなのだろうか…疑問は消えなかった。
それから数日パップと魔法、武器を使った戦闘の訓練をしていたがある程度パップに攻撃を当てることが出来るようになった。それからいくつもの武器を試し一番しっくりきた武器がパップの持っていた大きな斧だった。戦闘用の斧のようには見えずかなりの装飾をほどこした斧だった。
「これが一番手になじむ気がします。魔法とも相性がいい気がします」
俺は素直な感想をパップに述べた。
「それはそうだろう。この斧、ソーマの装飾品は魔法の能力を強化する宝石を使っているからね。何より大きな斧で重たいだけあって単純な攻撃力も高い武器よ」
自慢気に話すパップだった。かなりのお気に入りの武器なのだろう。
「ソーマっていう名前の斧なんですね。例えば、ソーマのような魔法とも相性のいい武器って何がありますかね?」
「ん~あたしが知る限りこのソーマが一番使いやすいし魔法との相性がいいと思うわよ。あげよっか?」
すごく軽くパップは譲ってくれると言い驚いた。
「え?いいんですか?かなり貴重な物な気がするんですが…」
「いいわよ?また作ってもらえばいいし。まぁ作ってもらうって言ってもエルフ族の生き残りがいたらなんだけどね」
「エルフ族?人間が作った斧ではないってことですか?」
「そうよ~。ずいぶん前にもらったものなの。エルフ族の集落を人間の手から守ったときにお礼としてね。一応人間以外の種族から守り神のような存在なのよあたし」
ドヤ顔で自分の説明も入れてきた。ただ、やはりというかなんというか、この異世界には人間以外の種族もいるようだ。しかもその種族も1種類ではないみたいな言い方だった。
「エルフ族…?ほかにもいろんな種族がいるんですか?人間以外の…」
「まぁ生き残っていたらいるんじゃないかしら?人間に滅ぼされていなければ…ね?」
「人間が攻撃を加えたのですか?!」
「そうね。異種間戦争とでもいうのかしら。人間は特に人数が多くてね。ほかの種族を根絶やしにしようと躍起になっていた時期があったの。今は人間同士で戦い合っているけどね」
「根絶やしにしようとした…ずいぶん物騒ですね人間がそんなことをするなんて…」
「そりゃそうさ。人間はほかの種族を嫌う。自分たちと違う者を排除する。排他的な種族なのよ。何年も前の昔の話だけどね…」
「そんなことがあったんですか…」
「まぁこの話は置いといてさ!このソーマは君にあげよう。大切に使いなさいよ!」
「そんな貴重な物を…本当にありがとうございます!」
「いやいやいいのよ。そうだなぁ…もし、お礼をしたいのであれば、人間同士の争いが落ち着いたら、いろんな種族を探して保護してほしいな」
「わかりました。必ず実行します!!!」
随分と難しそうな話だったが、こんな貴重な物をもらったのだ。必ず探し出そうと心に誓った。
「じゃあ、あたしから教えられることは全て教えたわよ。魔法、格闘、武器を駆使して頑張ってね。ちなみに今どれくらいの重力かわかっているかしら??」
「いえ、よくわかってません。ただ、ずいぶんと重いんだろうなとは思ってます」
「そうだね。実は20倍の重力をかけているわ。そんなところで生活している君は相当バケモノになっているわよ。ただ走ったりするだけでも普通の人では出せない速度を出したり飛んだりしたときもかなり高いところまで飛べるだろう。いろいろと気を付けながら生活することになるから気を付けなさい」
「わかりました…」
そんなに重力をかけているのか…バケモノじみた自分が想像できないが相当なものなのだろう。
「まぁとりあえず今日で最後よ!ゆっくりくつろいでくれ!豪華な料理でもふるまってあげるわよ」
そう言うとパップはこの生活を始めてから初めて部屋を出ていった。
「何してるよの?ついてきなさい?」
「あ、はい!」
ちょっとびっくりしたが出て行っていいのなら出て行こう。パップについていく。部屋を出た瞬間さっきのパップの話が事実なのだとわかった。体が重力から解放された。ふわっと浮く感覚というのか今まで締め付けていたものが一気にほどけていったような不思議な感覚だった。
「うわ…こんな感じになるんですね…」
「あぁ、そうね気をつけなさいよ。フワフワして歩きにくいかもしれないから」
確かにちょっと力を入れてしまうとすぐに飛んでいってしまいそうな感覚もあった。パップはそのまま歩を進め広い部屋に俺を招いた。
「ここは…どこですか?」
飛んでしまわないようにゆっくり歩きながら部屋を眺めながら聞いた。
部屋には大きな暖炉があり、暖炉の上にはろうそくが輝いていた。暖炉の前には大きなテーブルがあった。テーブルはすごくきれいに彫刻された模様が彫ってあった。床には見たこともない柄のじゅうたんが敷いてあり見上げてみるとシャンデリアがあり爛々と輝いていた。
「食事をする場所にしてるわよ」
と言い指をパチンと鳴らした。次の瞬間パップはその場所には居なかった。そしてすごくいい匂いがした。テーブルには見たことのない食べ物が豪華な食器に入れられ、食欲をそそるような見た目に盛り付けされていた。
「あたしが作ったのだから感謝しなさい。さぁ、冷めないうちにどうぞ」
時間を止めたのか…そのうちに作ったのかな?俺は席に着きながらそんなことを思っていた。
スープやサラダ、肉料理いろんなものがあったが見たことのないものでどう食べていいのかわからなかった。
「パップさんって意外と肉料理とか食べるんですね」
魔法使いは精進料理のような肉とかは食べないのかとなんとなく思っていた。
「何言ってるのよ。食べるに決まっているじゃない!魔物の肉はおいしいしね」
と言って椅子に座ったパップは小さな体を伸ばしていろいろと自分用に取り分けていた。その顔は見た目通りの小さな子の無邪気な笑顔だった。俺も食事をいただくことにする。口に運ぶと頬が落ちそうになるほど美味かった。
「うまい!!!これはパップは作ったの?」
「そうよ?なかなかおいしいでしょ?」
ドヤ顔っていうのはこういう顔を言うのだろう。教科書に載せてもいいくらい完璧なドヤ顔だった。
「凄いですね!全部おいしい!これはどう覚えたの?」
「長年生きてれば料理はどんどん上手くなるもんよ。一人だし」
と笑いながら言った。ずっと一人なのかな?パップは…
「この食事終わったらこの小屋を出て王都に戻りなさい。まだあの日の深夜だからそのまま眠りにつけばいい」
「わかりました」
あぁ、最後の晩餐か…なんか寂しいな。
「そう思ってくれるなんて嬉しいな。何度もアナタを殺したのに…」
「また心を読んだんですか?でも本心ですよさみしいです」
「また来たらいいわよ。たまに私から出向くかも。アナタ面白いんだもん。まぁまた来たらいいって言ってもこの場所は私から招待しないと見えないんだけどね」
といたずらに笑った。
「そんなこともできるってすごいですね。それは習ってない気がします」
「あぁ、そうだね。場所や建物、大きなものを隠すにはこれを使わなきゃならないのよ」
と言ってポケットから何か模様の入った白い札を出してきた。
「お札…ですか?」
「お!よく知ってるわね。その通りよ。これを隠したり結界を貼ったりしたい場所を覆うように貼ると出来る魔法アイテム。まぁただの紙に魔法陣を書いて終わりなんだけどね。これをすると私が常に魔法を発動していなくても自動で隠したり結界なんかを貼ったり出来る優れものよ?魔法陣の書き方はこの本にまとめてある。欲しいなら貸してあげる」
「お願いします。必ず返しに来ます」
「うん!いいわよ!じゃあ食べましょ?」
笑顔は本当に無邪気だな。その心に底の見えない、見る者を引きずり込むほどの闇を抱える少女はまた食事に戻った。
魔法の知識はたぶんこの世界一なのだろう。そして戦いに関しても相当な腕前のようだ。この少女にまた会えることがあるのだろうか?
疑問が尽きないこの少女はまた一人になってしまうのだろう。たまに会いに来たいものだ。
そう思いながら俺は食事を再開する。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
のんびりと毎日投稿とはなりませんが、毎週投稿していこうと思っとります。
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