役割
「ええと……、その、劇、創作がやりたいです……!」
山崎さんの発言で、その手があったか、と思った。何の劇にするか、という話し合い中。意見は飛び交うが、中々決まらない。どうしたら面白いものになるか、沢山考えて、私なりに意見を出そうとしたが、なにぶん劇については未知だから上手く答えが出ずにいた。今ぼんやり出ているシンデレラ、レ・ミゼラブル、オペラ座の怪人…この三つからの多数決でいいのかな……?そう思った時の山崎さんの発言だった。
「創作……?」
「たしかに!それなら、みんなそれぞれ合った役割ができるね!」
「でも、誰が脚本書くの……?」
教室内で口々に反応がある。
「創作劇ということですね。いいと思います。ただ、時間があまりないので、その場合の脚本はどうしますか?」
「私たちで書きます!」
私の質問に、山崎さんと仲の良いクラスメイト二人が声を上げた。
「私たち、文芸部で、お話を書いたり、脚本を書く練習をすることもあるんです。だから、良かったら私たちにやらせてください!」
「みんなの意見を取り入れつつ、演劇部の先生にも相談して一週間で完成させます!」
その言葉に自然と教室全体で拍手が起こる。かっこいい。何かを作ろうという意志が、燃えている。
「では、このクラスの出し物は創作劇で決定します。いいですか?」
拍手が起き、はーいという声が聞こえてくる。
「では、この劇のリーダーは……」
私が、山崎さんを見る。山崎さんも、その視線に気づいて立ち上がった。
「私、この劇のリーダーやりたいです!」
「では、リーダーは山崎さんで、よろしくお願いします」
私がそう言った時、チャイムが鳴る。
「正座、礼」
ありがとうございました〜と揃った声が響く。私は山崎さんの方へ歩いていく。
「脚本やリーダー引き受けてくれてありがとう。一緒にいい劇にしよう!何でも手伝うからね!」
「蘭さん……。ありがとうございます。絶対に、いい劇にしてみせます!」
山崎さんはいい笑顔だった。私が離れた時、微かに聞こえた会話。
「麗奈さんて、あんなに凄い方なのに、優しいしフレンドリーだよね」
「かっこいいよね、本当に完璧超人ですごいな。私は、文章の中でしかああなれないから……」
それから、3日経ち、脚本は順調に進んでいるようだった。山崎さん達は、書きたいお話があるようで、それをクラスの特色に合わせて書いているらしい。これをみんなで演じれるなんて、幸せだ、と笑っていた。私のクラスには、たった一人演劇部の子がいて、裏方をしているらしく、機材やルールなどはその子の指示を仰いだ。山崎さんはその子と仲良くなったようで、実質四人で、この劇の根幹を作り上げていっている。
「それで、その、この劇の内容と役をプリントアウトしたので、見てください。裏方も書いてあります」
配られたプリントを見る。ストーリーは、攫われた姫と姫を助けに行く騎士の、ラブストーリーだ。騎士は姫のことが好きだけど、鈍感な姫は自分の気持ちに気付いていなくて、攫われて初めて寂しさ、愛しさを知る。そして元から持つ強い力で魔王に対抗する。攫った魔王も姫のことが好きで、自信に感情が向かないと知ってどんどん壊れていく。三人の気持ちの行方を描く物語だ。脚本はまだ完成していないようで、配役が決まってから少しセリフを変えたりするらしい。
「役は姫と、騎士、魔王、王様、出会う村人、敵の15人です。他に、音響、ライトなどの演出、衣装、小物、移動などの役割になります……!」
黒板に書き出される様々な役割。私はそれを眺めながら、そうか、劇って役者以外にも色々あるのか〜と考えていた。
「まずは役者を決めていきたいです!」
姫と騎士が主役……、あ、あと魔王も一応メインか。セリフがいくつかプリントに書いてある。姫のは『私の気持ちを量ろうとしないで。私の情熱は、私の中だけにあるのだから』。騎士は『僕は、姫のためならいくら傷付いたって構わない。覚悟はできている』。魔王は『姫が手に入らない世界なんていらない!壊してしまえ!』。これだけでどんな性格なのかよく分かる。このお姫様は、よくある物語の待つだけのか弱な少女ではないようだ。
「やりたい役がある人、いますか」
山崎さんがそう言うと
「はーい!」
と威勢よく手を挙げた生徒がいた。優美だ。
「出会う村人に踊り子がいたら面白そうだと思います!」
「踊り子……!なるほど。いいですね、今の通常の村人を一人踊り子に変えてみます。ありがとうございます」
山崎さんは脚本ノートに新たに決まったことを書いていく。まず決まったのは、踊り子。得意のダンスを活かした役を提案するなんて優美らしいや。
「はい!敵がやりたいです!すっごい魔法で戦いたいです!」
「はい!村人がやりたいです!インフルエンサーとかいたら面白くない?」
誰も手が上がらなかったらあげようと思っていたのだが、次々手が上がっていき、主役の三つ以外が埋まってしまった。
「えっと……姫と騎士と魔王は……、やりたい人いませんか?」
山崎さんが少し困ったように言った時、
「はい!」
グループの一人である咲菜が手を挙げた。咲菜は自他ともに認める乙女で、少女漫画や恋愛漫画が大好きだ。特にキャラクター同士の関係性が好きらしい。今回、ラブストーリーだし、自ら主役やるんだ、と思って私が感心しかけた時だった。
「姫役は、麗奈さんがいいと思います!」
えっ?え?私は驚いて目を見開く。
「ここに書いてある容姿、麗奈ぴったりだし、何より姫の気品があるし、似合うと思う!」
こちらを見てにこにこ笑う咲菜に、私は驚いた顔をすることしかできない。
「蘭さん、どうですか?」
「えっ、その……」
「麗奈さんのお姫様の姿見たいな〜」
「蘭さんが主役なら絶対いい劇になるよ!」
「麗奈、無理はしないでね!」
咲菜が固まっている私を見てそう言ったけど、あまり聞こえていなかった。私、劇なんて全然やったことないし、主役なんて上手くできる自信ない。でも期待してくれてる。るかも私の演技見たいって言っていたし。やるなら、ちゃんとやらなくちゃ。
「……はい。大丈夫です。私、姫役をします」
私ははっきりとそう言った。大きな拍手が贈られる。
「はい……!」
次に手が上がったのは、バスケ部をしている背の高い少女、早坂さん。早坂さんはボーイッシュで人気がある。
「じゃあ、私、騎士役をします!」
「えー!早坂さんが騎士!?とってもかっこよくなりそう!」
「この組み合わせが合法で見れるとか、神様ありがとう……!」
早坂さんの立候補で、教室中が湧く。
「じゃあ……」
歓声の中、少しだけ大きく澄んだ声が響いた。
「私が、魔王役をします」
そう言ったのは、山崎さんだった。
「るかあ〜〜〜!!」
私は生徒会室の扉を丁寧に開けて、開けた瞬間見つけたるかに走り寄った。るか意外誰もいないことが分かり、その場でしばらくばたばたと足踏みする。
「どうしたんですか?麗奈」
「あのね、あのね、なんか、劇主役になっちゃった」
「えっ」
るかは吃驚した顔をして、私の顔を見る。
「なんかね、まだ内容は言わないけど!お姫様役なんだ」
「お姫様。麗奈にぴったりじゃないですか」
「本当にそう思ってる?」
しばらく間が空いた。
「……思ってますよ。今の麗奈は、誰から見てもお姫様じゃないですか。傲慢さのない、完璧な」
「……そう」
「それはそうと、すごいですね。練習、忙しくなりそうなんですか?」
「そうだね、生徒会のこと、ちょっと任せる日あるかも」
「いいですよ、一年生も、もうだいぶ慣れたみたいですし、任せられますしね」
るかはそう言ってソファに座る。机には資料とコーヒーが置いてある。
「あら、何それ」
「これですか。……まあ、単刀直入に言うと、生徒会にも何か出し物をして欲しい……というような依頼書ですね」
コーヒーを飲みながら、るかが少し唇を尖らせた。
「ただでさえ役員の仕事があるのに、学年での出し物以外になんて、恐ろしいことを言いますね……」
「ま、まあ、一応一年生もいるし……?」
とは言ったものの私も今、劇のことしか頭にないし、ちょっと困るな。そう思いながら、なにかできることがないか考えていると
「麗奈、コーヒー飲みますか」
とるかがポットを指差した。
「え?ええ。シュガーある?」
「ありますよ、麗奈はたっぷり派でしたよね」
るかからコーヒーの入ったカップを受け取る。シュガーをたくさん入れて、口にする。うん、甘い。
「ここのコーヒー好きなんですよ。母がよく飲んでいて」
「へー。たしかに美味しい」
「それはシュガーすごく入ってますけどね……」
私はるかの隣に、当たり前のように座って、コーヒーを飲みながら、さっきまでるかが見ていた紙を見る。
「ん〜、何ができるかなあ。黒板アートとか飾り付けなら、一年生と被っちゃうし」
生徒会のほかのメンバーが入ってくる。
「あ、るかさん、麗奈さん、聞いてよー!私たちも別で出し物出さなきゃらしくて!」
「うん、今その話」
「ですよねー!!何する?」
「考えよ〜」
その日は、話に花が咲いてしまい帰るのが遅くなってしまった。結局、決まったのはスタンプラリーで、手の空いた人(主に1年生)が中心にやることになった。




