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厭世少女は、白馬の王子様の夢を見るか?  作者: 闇音 ヒビキ


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10/12

あり方

姫役に決まってから、山崎さんにイメージを沢山聞いて、私なりのかっこいい、自分の意志のある姫を練習した。台詞も、私なんかよりずっとまっすぐで清らかなもので、邪念や下心のかけらもない。ただ、勇者を信じている。演者は、正反対な役でもそれを自分のものにする。まるで本物のように、その人生を、時を生きているように。私は演じるのは得意だと思っていたが、観客に伝わるように、時にわざとらしく振る舞わないといけない。その加減も難しい。

「私はあなたを信じていました」

一番の見せ場の台詞を口にして、どんな表情をしていたのか自分でも分からない。私は騎士の早坂さんを信じているのだろうか。いや、そんなことはない。私は、自分も他人も信じていない。でも、姫は騎士を信じている。必ず助けに来てくれると、そして、自分を信じてくれると。


「麗奈、不安げですね。劇のことですか?」

私は、相当変な顔をしていたのだろうか。昇降口に向かう途中で、るかに顔を覗き込まれてしまった。

「全然、大丈夫だよ。ただ、ちょっと、役作りで悩んでてね」

「役作りですか……。私も劇の経験はありますが、型にはまった演技しかできませんからね、助言できることはあまりありませんね」

「ううん!いいの。たくさん悩もうと思う。みんなをがっかりさせないように、完璧な演技をしたいから」

私はそう言ってにっこり笑った。るか、楽しみにしててね。


「ああ、姫よ、私のものになってほしい」

山崎さんから発せられる魔王の台詞。純粋な想いが、歪んでしまった、という設定の魔王が、姫に懇願するように言う。魔王は幼い頃からの姫の側近ということもあって、姫のことは理解している。

「あなたが手にしてしまった力は、世界をも危ぶまれる黒い力。それを私のために使うというのですか」

「姫のためじゃないなら、何のためだと言うのです。私は、この命をかけてもあなたを愛したい」

魔王の言葉に嘘はない。

「私も、あなたの事は大切に思っていました」

魔王もきっと、こんなことをしても、姫が自分を選ばないことも分かっている。姫はまっすぐな人だから、歪んだ自分はもう、慈愛の対象ではないと。

「でも、それはあなたが、光を求める人だったから」

完成した台本での練習が始まり、演者チームとは別に私と早坂さんと、山崎さんで一緒に練習することが多くなった。今日は早坂さんがバスケ部のミーティングでいないため、魔王と姫の掛け合いの練習だ。

「闇の中をもがくように生きてきた私には、あなたは光に見えた。民を思い、従者を思う、本当によくできた人」

山崎さんがぽつぽつと零すように言う。演技が上手くて、聴き込んでしまう。

「私は、あなたのようになりたかった。あなたを守れる人になりたかった。本当は、あなたに──追いつきたかった」

慈愛を込めた目を向けられる。ここで一度、ふわりとした優しい空気に包まれる。そして、予定だとここで音楽が止まり、

「でも、もう遅いなら、こうするしかない」

ふら、と、魔王が舞台上の真ん中に立つ。そして、決まりの台詞。

「姫が手に入らない世界なんていらない!壊してしまえ!」

音楽が激しいものになり、ライトが点滅する。そうして、私と魔王の彼女とは戦うことになるのだ。そして、騎士と合流し、姫は魔王すら愛で包み込み、成れ果ててしまった存在を、騎士の剣と共に浄化する。そこで交わされる台詞の数々にも胸を打つものがある。山崎さんの台詞の言い回しは、難しい言葉が多い。山崎さんの演じる魔王までも、独特な言い回しをする。その意味は、そこに込められた思いは、きっと山崎さんの───。

「蘭さん、ちょっと休憩しましょうか」

「あ、うん!ねえ、姫のここなんだけどさ、どうしたらもっと悲痛な感じ出るかな?今の動きだと、あんまり伝わる気がしなくて」

「ああ、それなら……って休憩しましょ?」

山崎さんと話してみて分かったことだけど、観察眼がすごい。色んなことを色んな目線で見てる。だから、物語が書けるんだろうな。

「やっぱり、姫、蘭さんにぴったりですね!まっすぐで、清い、誰もが羨む存在で、すごいなあ」

そういう山崎さんの目は私を捉えていたけど、私のことは、見透かせないみたいだ。私は、まっすぐで清くなんてない。

「羨ましいな」

零れたそれが反芻する。魔王は、姫を愛していたけど、きっと恨んでもいたんじゃないかって思う。いきすぎた愛は憎しみに変わるっていうけど、そういうんじゃなくて。羨ましいって毒だから。妬ましいに変わる日はすぐ来る。きっと、姫を超えた存在になって、支配したいと思ったはずだ。どうせ、壊したところで、後悔するのに。

「山崎さんは、山崎さんのいいところがあるよ。私は物語を書いたりはできないし、多分しない。だから、羨ましがらなくてもいいんだよ。私は山崎さん素敵だと思うから」

うまく言葉にしようとしたらありきたりな言葉を並べてしまって、私はちゃんと伝わったか、山崎さんを確認した。山崎さんは、照れ笑いを浮かべて

「私、蘭さんにずっと憧れてて、なれたらいいのにって。このお話も、私がなりたい姿が、姫だったんです。騎士と結ばれてるあたり、ちょっと恥ずかしいんですけど。私は、夢を作品にしてる。実際に、凄くなれるかは分からないけど、それで私は満足してるんです」

と言った。

「羨ましい、なんて言ってごめんなさい。私、蘭さんの裏側とか何も知らないのに。でも、本当に心が綺麗なんですね。やっぱり、私嬉しいです」

「ええっ、思ったことを言っただけだよ。綺麗とかじゃ…」

私は否定しかけて、少しの間悩んでやめた。

「でも私がまっすぐで清く見えるなら、そう見ててほしい。そう在れるように頑張るから。」

「はい!私も、私らしく在りたいと思いました。そのために、全力で劇に取り組みます!」

山崎さんは眩しいな。何かを頑張る人はかっこいいと思う。それは心から。


「みんな、準備は大丈夫?もうすぐ始まるよ」

今日は劇のリハーサル。短期間しかない中で、みんなしっかり台本を覚えてきた。早坂さんは、バスケ部だからもっと時間がないのに、いつもかっこいい騎士を演じている。それどころか、何か足りない、としっかり改善点も求めている。みんなが本気で取り組んでいるのが伝わる。

「早坂さん、頑張ろうね」

私が声をかけると

「めっちゃ緊張…、でも、姫の蘭さんを守るために、私頑張るよ!」

「ふふ、私も守っちゃうんだから」

「そこ、いちゃつかない!」

山崎さんの声で表情をすっと作る。この劇のタイトルは、『perfect love』。愛についてそして生き方、考え方について、たくさん考えさせられる作品。それを生み出し、魔王として私と戦う山崎さん。きっと、本心とリンクしている部分が沢山あるんだろう。憧れ。その心は、誰にだってある。きっと、彼女は、自身が壊れるほどに何かに、いや、私のような存在に憧れていた。これはきっと、山崎さんの、自分に向けた言葉。そして夢見るハッピーエンド。そうして、一番の見せ場。

「私はあなたを信じていました」

いつも、どんな表情をしていいか分からない。愛に溢れた笑顔を向ければいいのか、目を閉じて、記憶を呼び起こせばいいのか。信じるって、どんな表情なんだろう。私は、私が信じているのは。

「そしてやっと、やっと気付いたの、この気持ち。あなたのことが、好きです。あなたのそばに居たいと、守りたいと思っています」

「私も、姫を守り続けたい。ずっとずっと愛している」

山崎さんの描きたかったハッピーエンドに、私たちはできたのだろうか。難しい感情をうまく演じられただろうか。幕が閉じたあと、早坂さんが

「私はね、いつも、好きな彼のことを考えて演じているんだ」

と教えてくれた。

「いつもは言えない想いも、演技なら込められる気がして。蘭さんも、そうだったりする?」

「うーん、どうかな」

そう言った私の顔は曇っていた。なんで、るかが浮かんだんだろう。私は誰のことも、信じていないのに。私が信じているのは、新しい世界だけ。それでいい。るかは、大事な存在だから一緒に行けたらいいなってだけで……。それだけなはずなのに。

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