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厭世少女は、白馬の王子様の夢を見るか?  作者: 闇音 ヒビキ


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麗奈という人間

帰って、ご飯を食べて、部屋に入る。楽しかったな。るかも、学校より気が緩んでいた気がする。さあ、今日は一日遊んだんだから、勉強しよう。もう慣れだ。この時間は必ず机に着いている。やる気がでなくとも、眠くても座れば、目に入るのは教材やノート。少しやってみよう、という気になるのは私の性なのだろうか。付箋を貼っているページを見る。こないだの数学の小テストでミスをしてしまった問題と同じ系統の問題が並ぶ。簡単な覚え方を先生に聞きに行って教わった。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とはよく言ったもので、聞いてみたらそんな方法が!と思う公式の覚え方を教えて貰えたのだ。あれは劇薬だ。それを使って解いてみると、するする答えに辿り着けた。あとは正解さえしていれば。

「……!全部あってる」

良かった。これでこの問題は攻略できた。こうやって一個一個落とした場所を埋めていく。そうすればいつかちゃんと私の求めるパーフェクトな私になれる。……本当に?常に正しくあり、ミスをしない。上を目指して、人の上に立って。それがパーフェクトな私?きっと私はパーフェクトになったところで満足しないだろう。だからといって半端で終わるのは私の性が許さない。難儀だ。だからいつも逃げ道を探す。

私は買ってきた本を開いた。中には、スピリチュアルのような考えた方や、異世界についての見解が書いてある。私が異世界や、破滅的な未来を求めるのは、この世界に期待をしていないから。子供じみた言葉でいうと、死んだ目をした機械のような大人となり、この世界を構成する名前や個性と問わないそれと変わらない存在になるのが厭だから。こんなの、優等生な私が思っているはずがない、と思うよね。ページをめくると、思想を強制する文。これはまた。まあこういう本もあるだろうね。こうしなきゃダメ、って決めてくるなら、私の求める自由とは違う。私は、信じることで一時的に開放されたいわけじゃないし。

「異世界への扉は、あなたの信じる心に宿されています」

ずっと本当に信じてるよ、早く行きたいのに、何で。何で、私を連れて行ってくれないんだろう。


私が私になるまでに、劇的に何かがあったわけじゃない。私は昔からきっとこんなで、この世界に生きるには不向きな考え方で。順応して、生きていけるが故に、私の中にふつふつと募っていく黒い気持ちが、いつか私を飲み込んでしまうのではないかと思う。


麗奈、という名前はうるわしい果実を意味する。私はたくさんの人に愛される麗しい人間になるように、願われて、その通りに育った。親も、本当にこんな優等生に育つと思っていなかったようで、誇りに思うと言ってくれた。愛されて育った。何不自由なかった。頑張ることが好きだった。頑張れば、何か手にできた。周りからは羨望の目を向けられた。親や先生からはさすがだと言われた。それは心地よかったし、安心した。私はすごい、求められているんだって。私は努力する才に恵まれていると思う。頑張っても実らないこともあることは、私より下になってしまった人を見る度に何度も知った。それでもどうしても一番でいたい。上を目指している自分でいたい。私はそんな自分が誇れるはずだった。私の中の、純粋さは、いつの間にか壊れてしまったようだ。

小学校高学年の頃から感じていた。なぜみんな、普通の顔をしているんだろう。私たちは、いつも何かの空気に支配された苦しい世界で一生を過ごさなきゃいけないのに。私が笑えば、みんな笑うなら、きっと、無理して笑わなきゃいけない人もいる。つまらない。くだらない。思えば全部汚いじゃないか。何かを我慢しないといけないのも、苦しいことに目を瞑るのも、他人の不幸から目を逸らすのも。私もみんなも、同じく汚い。生きることってなに?私には何の意味もなく感じる。純粋ってなんだろう。いじめられていた隣のクラスの子を助けて、みんなから褒められた時、私は純粋だったのかな。


私は本を閉じベッドに寝転んで、スマホを眺める。見るのは、スマホに来たコンビニの新作の通知くらい。私はネットをあまり見ない。とくに、SNSのアカウントはチャットアプリ以外持っていない。理由は単純に怖いからだ。私より辛い人なんてたくさんいる。それを知ったところで私は変われない。偶然見てしまった誰かの辛い日常を、上手く受け止められる心なんてないから。

浮世離れしているね、って言われるのはそれが理由なんだろう。知らなくたって、正しく生きていけるなら、知らないことは知らないままでいいじゃない。


この世界のこと、私は考えすぎなんだろう。分かる。でも、人間なんて宇宙から見たらちっぽけで何にもならない存在だってこと、みんな分かっているじゃない?言わないだけで。何かがなかったら、考えちゃいけないの?そんなことないよね。


るかは、今何してるかな。私がこんなことをぐだぐだ考えている間、勉強とかしてるのかな。画面をスクロールするとるかのアイコンのコーヒーの画像が目に入る。この時間ならまだ起きてると思うし何か送ってみようかな……?帰ってすぐ、今日はありがとう、とやり取りした履歴が残っている。私は新しくメッセージを打つ。

『るか、今なにしてる?』

するとすぐに返信が来る。

『予習していました。あと、母がようかんをくださったので食べていました』

『ようかん!いいね〜。予習もえらい!』

えらい!のスタンプを送る。どうしよう、何も考えずメッセージしちゃったから話題考えてなかった。すると

『麗奈は今、何を考えていたんですか?』

とメッセージが届く。私は返信に詰まってしまった。今何をしていた、じゃなくて、考えていたか。それは、私のことを見透かしているようで──。

『異世界への行き方だよ!本読んでたんだけど、やっぱり上手くいくものはないや……。まだまだ勉強が必要だね!』

『麗奈は勉強熱心ですね……。でも、無理しないでくださいね。また色々学校で教えてください』

るかの返信に、私の心が少し暖かくなる。

『うん!るかと一緒に異世界に行きたいからね!』

私は本気だよ。るかが手伝ってくれればもっと上手く行きそうなんだけどなあ。

『私は行きたくないです。それに……』

るかの言葉はそれ以上紡がれず

『そろそろお風呂なので、それでは』

と会話が切られてしまった。またね、というアプリに最初からあるスタンプが送られてくる。

『うん!またね!』

私はそう送って、だめかー、とため息をついた。スマホを置いてぼーっとしていると、コザクラインコの空がキュキュと鳴く。

「あっ、ご飯だね、待ってね〜」

私は空のご飯を準備をする。空は私の部屋で、言葉を何でも聞いている。いつかイセカイとか言い出したらどうしようとか思うけど、私の特別な味方だ。

「ねえ空、私ってさ」

話しかけても、きっと空には意味がわからないと思うけど。

「……めんどくさいよね」

空はキュと鳴いて、餌をねだる。

「まあ、いいや。はい」

餌をあげて、食べている様子を眺める。可愛い。

「は〜〜、もっともっと頑張らなくちゃ、ね」

私の世界はこんな小さなものじゃない。汚くなんてない。麗しい世界があるはずなんだ、きっとどこかに。そしてそこにはきっと、甘くて、全てを報う果実が……。

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