知りたいⅡ
「これは……、マリオネット」
私はるかの隣に行き、吊り下げてある人形を見る。綺麗な短い黒い髪に、黒いクラシックドレスのような衣装を身にまとい、下を向いている。
「これ気になる?でも高いよ〜」
私は値札を指さす。とんでもない数字が書いてある。職人の一点物のようだ。
「動かせるんでしょうか」
「上に持ち手あるし、動かせるんじゃない?」
「マリオネットを動かすのって、結構難しいらしいですね。ほら、歩かせたり」
「へえ、技術がいるんだね〜、操るのも」
そういえば、昔テレビでちょっと見たことあるかも。私が感心しながら人形を見ているとるかが何かを呟いた。その声は、後ろから大声で走ってきた子供の声でかき消された。
その後、私たちは二階にあがり、目に付いた服屋さんに入った。そこは女の子らしいフリルのワンピースやレースがたくさんの洋服がたくさん置いてある。
「わあ、可愛い……!私、こういう服好きだなあ」
「麗奈に似合いそうですね。あまり、こういう服屋には入らないのでちょっと、緊張します」
「ふふ、大丈夫だよ、私の付き添いって顔してればいいの」
私は色んな可愛い服に目移りしながら、店の中を見て回る。私に着いてくるるかは、未知のものに触れたような顔をしていた。
「あ!これ!」
私が見つけた服を手に取る。
「るかに似合いそうだな〜」
それは、フリルがあしらわれているものの、所謂皇子服のようなユニセックスのトップスだった。
「えっ、私ですか……?」
「ボトムスもあるよ!この黒いのと合わせたらめっちゃ良くない?!」
「確かにお洒落ですけど、私は……」
「見たいな〜、王子がこの服着てるところ」
私が目をキラキラさせながらそう言うと、るかは渡された服を持って少し黙る。そして、
「分かりました。笑わないでくださいよ」
と言って試着室に入る。しばらくして、試着室の中から声がする。
「……これで合ってるんでしょうか……?」
「着れた?見せて!」
私の声におずおずと扉が開き、皇子系の服を身にまとったるかが不安そうにこちらを見る。私は見た瞬間に、やっぱり正解だった!と思った。るかは元から姿勢が良い。それに顔も整っている。そんな彼女が高貴な感じの服を着ている。今のるかは、いつも以上に王子様だ。
「やっぱりすごく似合ってる……!!かっこいい!」
「本当ですか?フリル、慣れませんね。でもすごくいいですね、こういう服」
「そっか〜!フリルが苦手じゃないなら、私の好きな服装も着てみて欲しいな〜」
「ええっ、それは遠慮しておきます……。私が着たら大変なことになりそうなので」
「ならないよ〜!るか、何でも似合いそうだし!」
そんな会話をして、再び試着室の扉が閉まる。るか似合ってたな〜。それにあの服すごくいいって言ってくれた。嬉しいな。るかは元が良すぎるから、何を着ても絶対似合っちゃうんだろうな。
「そろそろ昼ご飯にしよっか!」
時計は12時すぎを指している。私たちはフードコートに向かって歩き出した。
「何食べる?私はお惣菜クレープがいいな〜」
新しい味が出たんだって、とスマホでお店のページを開いて見せる。
「私はあまりフードコートでご飯を食べたことがないので……おすすめはありますか?」
席を確保したあと、るかがそう聞いてくる。
「私はあのカレーが好きだったな。辛さ選べるし。あと、たこ焼きも、色んな味があるよ。私が小さい頃からあるんだよ」
「なるほど……。辛さ選べるんですか…。カレーにしてみます」
「いいね!」
それぞれ注文し、受け取って席に戻る。私はシーチキンのクレープを持って、るかが持ってきたカレーを見た。
「それ、辛くないの?」
「……辛いと思います。でも私はこれくらいが丁度いいんですよ」
「そう……」
明らかに辛さMAXな、赤色のカレーを、るかは表情一つ変えず食べ始める。私もクレープを食べる。うん、美味しい。これ、昔から好きなんだよね。
「るかはショッピングモールとかあんまり来ないの?」
真ん中まで食べ進めたくらいで、私はるかに話しかけた。
「私はあんまりですね……。母親と来たことはありますが、ほとんど用事だけで。高校からこちらに来たので、あまり知らないのもありまして」
「え?るかってこの辺に住んでたわけじゃないの?」
「都心からは離れたところに住んでいました。ここよりは何も無いところですよ。有名な音楽教室があって、そこでヴァイオリンと歌を特に集中してやっていましたね」
「そうなんだ……!すごいなあ。あっ、るかのヴァイオリンってまだ聞いたことないなあ」
そう言う私に
「そうですね。なかなか披露する機会ないですしね。またコンクールがある時に、招待しますね」
「いいの?!」
ヴァイオリンを弾くるかもかっこいいんだろうなあ。私はるかがステージに立って、光を浴びる様子を想像してしまう。たくさんの拍手を貰って、キラキラ輝いている。るかは不思議そうに首を傾げたけど、私にはすでにるかが光って見えた。
そして食べ終わった私たちは色んなところを回って最後に本屋に入った。ここは広くて都心にあるショッピングモールの中でも特に沢山本が置いてある。私は本を読むのは好きだ。色んな世界に行けるから。でも、今の私が一番興味があるのは、
「異世界の本だ……」
新しい異世界についての本。これならもっと詳しい行き方が書いてあるかもしれない。
「……これ、買おうかな」
私はその本を手に取ろうとする。すると、その隣の自己啓発本が目に入った。人生を変えるために、とか今の生活に満足していないあなたへ、なんて書いてある。
「いいよ、考え方なんて変わらなくても」
私はそう呟いて、異世界の本を大事に抱えた。るかは純文学のコーナーを見ていた。私がそこに行くと、るかがこちらを向く。」
「何かありましたか?」
「あ……、うん。ちょっと買ってくるね!」
私がパタパタと会計に向かう。
るかは、小説を眺めるのをやめ、後ろに置いた本を手に取る。それは心理学の本だった。これを読めば、理解できないものも理解できるようになると思った。
「……でも」
私は、中を少しだけパラパラとめくり、固い文章に
「勉強して当てはめるのは違いますね」
と、麗奈が戻る前に本を返しに行くことにした。
袋を持った私が戻ると、るかは時計を指さす。
「いい時間ですね、そろそろ帰りましょうか」
私は頷いて二人で出口に向かう。
「あー、楽しかったなあ……」
呟くような私の言葉に、るかは
「私も今日は楽しかったです。こんなに充実したのはいつぶりでしょうか」
とはっきり言った。るかの顔を見る。少し寂しそうな表情をしていた。
「また、遊ぼうよ」
私がそう言うと
「はい」
と言ってるかは顔を綻ばせた。嬉しかった。るかにとって、私との時間が大切なのだと感じて。
帰り道、別れる前。るかは立ち止まり、独り言のように
「自分自身、好きな物や、やってみたいことを上手く口にできない世界で生きてきました。私の好きはいつも母の望むものだったから」
「るか……」
「でも、あなたといる時は、いつも本当の気持ちが出てしまう。何故でしょうね?」
私は夕焼けの光を浴びながら、るかに笑いかけた。
「それは、いいことだよ」
その言葉に、るかはほっとした表情をして、
「これからも、よろしくお願いしますね」
と言った。私たちは、暫くそこで話していたが、るかの門限が近くなり別れる。
私は帰り道を歩きながら、普通に楽しんじゃったけど、るかのことを知る目的だったことを思い出した。今日だけで、ちゃんとるかのことを知れたかは分からない。でも、るかは私のことを簡単に見捨てたりはしないと思う。あの真っ直ぐな目が、私だけを捉えていた。嘘偽りのない気持ちが私に届いたから。




