知らない
早く起きて、支度をして家から出る。早いからといって見た目に気を抜かない。今日もカーブミラーには完璧な私が写っていた。校門をくぐると、まだ誰もいない校舎への道。そこを私は歩いていく。生徒会室までの廊下も、しん、と静まり返っていて、なんだか人類が滅んだあとみたい。トントンと私の歩く音が響く。この感覚は嫌いじゃない。生徒会室の前で、私は息を吸い込んだ。そして、扉を開ける。
「わわ、もう時間だったりします?!」
真っ先に大声をあげたのは書記。会計は、眠っているのか机に顔を伏せている。
「おはよう。大丈夫、まだ時間はあるよ」
私はそう言って、るかを探した。
「あー、るかさんか。るかさんはちょっと美術部の先生に呼ばれて」
「え、どうして?」
「るかさん、こないだも授業で描いた絵画で賞とってたじゃない?だから勧誘だったりして」
「勧誘!?生徒会副会長なのに?!」
確かにるかは絵が上手い。一時習っていたことがあるらしいが、その後は独学なのか才能なのか。人の目を引きつけるその独特な絵は、一度見たら忘れさせない。るかは幼い頃から習い事をたくさんしていたため、様々なことが秀でている。でも、何かを極めようとしているようには見えない。
「前も合唱部に誘われてたけど断ってたし」
合唱部?!るか、歌も上手いんだ。そういえば歌ってるところ、聴いたことないな……。
「そうなんだ……知らなかった」
「あれ?麗奈さんには話してそうだと思ったのに」
不思議そうにそう言う書記に、
「るか、あんまり自分のこと話さないからさ」
そう言ってなんだか落ち込んでしまった。私、るかのこと何も知らなくない……?!生徒会が始動し始めてから二ヶ月、色々話してきたのに。私はるかと仲良いと思ってるけど、話してるのほぼ生徒会活動の時だけだし。この感情、片思いだったらどうしよう?!
「まあ、るかさんが生徒会をやめることはないと思います──」
「誰が生徒会をやめるって?」
「わっ、るかさん!おかえりなさい!」
扉を開けて部屋に入ってきたるかは
「遅くなってすみません、そろそろ校門に行きましょう」
と時計を指さした。見ると八時を回っている。私はプラカードとたすきを持って、扉の前に立つ。
「よし!生徒会として、今日もみんなのお手本になれるように頑張りましょ!」
私の言葉にに皆がそれぞれに声をあげる。うん、大丈夫、今日も完璧で理想の生徒会長をやれるはず。そしてるかと隣合って廊下を歩きながら、私は単刀直入に聞いた。
「美術部、誘われたの?」
「えっ……、ああ、聞きました?こないだの賞のことで、お褒めの言葉を頂いたのと、そうですね、一応勧誘は」
「そうなんだ……」
私は自分の声のトーンがあからさまに落ちていることに気付かない。するとるかが
「やめませんよ、生徒会。それに私は部活には入りませんから。興味が、ないんです」
と、きっぱりと口にする。でも、その言葉は自分自身に言い聞かせるように。
「本当?!本当にやめない?生徒会!」
「何ですか?私が生徒会やめたら悲しいんですか?」
「悲しいよ!るかは私の仲良しだもん!」
そう言うと、るかはふふ、と笑い、
「大丈夫ですよ、私は」
とぽつりと呟いた。
「私は、興味ないんです。たった一つ以外」
それすら、自身に思い込ませるような言葉だった。
あいさつ運動が終わり、私たちはそれぞれのクラスに行く。いつも通りのホームルーム、そして授業が始まる。休み時間はクラスでの友人と芸能人の話をしたり(私は知らないから主に聞くだけ)、次の授業の予習ノートを見直したり。そして3限目の休み時間、移動教室のためロッカーから荷物を取り出そうとしていた。すると
「麗奈さんってるかさんと仲良しだよね?」
いつも話さないグループの一人に話しかけられた。
「え?まあ、うん」
「るかさんのこと知りたいんだけど、何か教えてくれない?!」
「何かって……」
私は悩んでしまう。教えられるようなこと、知らないなあ。友人達に先に行くよう言って、その子たちと一緒に次の教室に向かう。その子たちは私に懇願するように問いかける。
「何でもいいの!るかさんの好きなものとか!」
「好きなものかあ……」
知らないなあ。
「嫌いなものとかでも!」
「ん〜……」
「得意なこととか!」
「得意なことなら分かるかな。絵と歌とか……、あと運動とか茶道とかヴァイオリンとか……、色々得意だったはずだよ」
私がるかのことで、本人から聞いたのはそのくらいで。
「えーっ!すごい……、やっぱり、かっこいい!」
私を囲むるかのファン?であろう子達は、きゃっきゃと騒いでいる。
「後は本人から聞いてみたらいいよ。全然答えてくれると思うよ?」
そう言うと、その子たちは顔を赤くして「それは無理だよ!」なんて照れている。まあ、るかはちょっとクールでミステリアスな雰囲気があるからちょっと話しかけづらいのかな。全然、話したら打ち解けられると思うけど。
「あとるかさんて、やっぱり麗奈さんに対しても王子様なの?!」
「えっ」
突然の質問に私は吃驚してしまう。
「麗奈さんって完璧でなんでもできるお姫様みたいだから、るかさんとすっごくお似合いだなって!」
目をキラキラさせながらそう言ってくるクラスメイトに、私は目をぱちくりさせて
「あはは、るかは誰に対しても変わらないよ」
と言った。多分、るかは私が他の人と違うことを言うから、興味を持っているだけで、それ以外は他の生徒と変わりなく思っていると思う。
「えー、そうなの?でもるかさん、麗奈さんといる時、すごく真剣な目してるから!麗奈さんのこと大好きなんだと思う!」
「えっええ?」
そうなの?るかが?私以上にるかが私を必要としているなんて、そんなこと、ありえるの?教室に着く前、
「──本当にお似合いのお友達だね!」
と言われた。でも、るかと私って友達、なのかな。私はなんにも知らない。るかが考えていること。るかはなんで私と一緒にいてくれるんだろう?同じ生徒会だから?成績が同じくらいだから?それとも、私の話す異世界に興味あるから……?!それにしても、授業以外で話したことがないクラスメイトと初めて話すのがるかの話だなんて不思議だな。




