表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーキスの太陽 ~異世界の境界線、その手を離さない~  作者: 如月菫
第三部 それでも恋は、終わらない
66/78

第64話 二十歳の祝歌、四人の絆

 四人で朝食を囲んだあと、賢斗とオーブリーは渓谷へ向かった。

 沙弥たちは少し休んでから、いつものように川の温泉へ向かう。


 今日も……レオンの膝の上だった。


「……やっぱり、ここが一番落ち着きます」


 湯気に包まれながら呟くと、背後から低くくぐもった声が返る。


「そうだろう? なら、どうして皆がいるときは乗らない?」

「だって……恥ずかしいですよ。レオンさんに抱っこされて入るなんて」

「そうか? サーヤは本当に恥ずかしがり屋だな」


 レオンは、もう少し恥じらいというものを覚えてもいいのではないだろうか。


「そろそろ出るか?」

「そうですね。……例の準備もありますし」


 今日は賢斗の誕生日だ。

 王都で用意してきた飾りを使って、部屋を飾りつける予定になっている。


 作業は思ったよりも早く終わった。

 あとは宿に頼んである料理とケーキを受け取るだけだ。


「明日、オーブリーさんのご実家に伺うなら……手土産を用意したほうがいいですよね?」

「手土産がいるのか?」

「日本では、よそのお宅にお邪魔するときは持っていくものなんです。ルーキスには、そういう習慣はありませんか?」

「あまり聞かないな」

「このあたりで買っても珍しくはないでしょうけど……こんなことなら、王都で用意してくればよかったです」

「来る前は行く予定じゃなかったんだから、仕方ないだろう」

「そうですけど……せめて、お花でも」

「そうだな」


 街に出て、手土産用の花を選ぶ。

 傷まないよう、店で保存魔法を施してもらった。


 宿へ戻っても、まだ時間はある。


「……もう一度、入ります?」

「ああ」


 再び川湯に浸かり、自然と同じ位置に落ち着く。

 背に感じる体温と、ゆるやかに流れる水音。


「……もう、何度入ったかわかりませんね」

「ああ。そろそろサーヤが溶けてなくなる頃だな」

「私だけじゃないでしょ?」

「俺もか」

「そうです」


 くすりと笑い、目を閉じる。

 そして、レオンの首筋にそっと頬を寄せた。


 湯の熱と、彼の体温とが混ざり合い、境界が曖昧になる。

 このまま溶けてしまってもいいと、ほんの一瞬だけ思うほどに。


「……そろそろ、戻ってきますかね」

「そうだな。俺たちのときよりは早いだろう」


 湯から上がり、身支度を整える。

 ちょうどいい頃合いで、頼んでおいた料理とケーキが運ばれてきた。


 並べられた料理の中央には、大きなケーキ。

 その上には……予想の五倍はありそうな、やけに太いろうそくが二本。


「そのろうそくはどうするんだ?」

「誕生日の人が、これを一息で吹き消すと願いが叶うんです。本当は年の数だけ立てるんですけど……さすがに多いので」

「ケントの願いは、何だろうな」

「さあ……私にも」


(……その願いが、戦いのない未来ならいいのだけれど)


 言いかけたところで、レオンのテルソラが鳴る。

 オーブリーからだった。どうやら、もう戻ってきたらしい。

 準備はできていると伝え、二人を部屋へ迎える。


「わー、何これ!?」

「サプライズ! 賢斗、お誕生日おめでとう!」

「あ、俺……誕生日か!」

「忘れてたの?」

「すっかり」


 笑いが広がる。

 席につき、グラスに飲み物が注がれた。


「ハッピーバースデー・トゥー・ユー♪」


 沙弥の歌声が、静かな部屋に柔らかく広がっていく。

 レオンとオーブリーは、初めて耳にする旋律に戸惑いながらも、どこか心を引き寄せられるように聴き入っていた。

 最後の音が消えるのと同時に、賢斗が勢いよく息を吹きかける。

 太いろうそくの炎が揺れ、次の瞬間、同時に消えた。


 小さな拍手が、あたたかく響く。


「今日から二十歳。もう大人なんだから、少しはお酒も飲めるようになりなさいね。……はい、これ」


 差し出した小箱。

 中には、深い紫を湛えたアメジストの腕輪が収められていた。


「うわ、すげえ……これ、姉さんが選んだの?」

「ええ。……災いから守ってくれる石なんですって。お誕生日おめでとう、賢斗」

「その石は何というんだ?」


 レオンが興味深げに問う。


「紫水晶です。賢斗の誕生石ですよ」

「そうか……綺麗な色だな」

「ありがとう。そういえば前から思ってたけど、レオンさんのクラスプって姉さんから?」

「ああ」

「やっぱり! レオンさん、『ルーキスの太陽』だもんな!」


 嬉しそうに笑う賢斗に、思わず口元が緩む。


「あと、これとこれもだぞ」


 レオンがペンダントと腕輪を見せる。


「これは、オーブリーさんの知り合いのお店の?」

「そう。オーブリーさん、あのときは本当にお世話になりました」

「いや、間に合ってよかったよ。レオンは喜んでいたか?」

「ものすごくな」


 あのときのことを思い出し、胸の奥が柔らかくなる。


 レオンが差し出したのは、ワインとペアグラスだった。


「今日から飲めると聞いたからな」

「ありがとうございます! ……綺麗だなあ」


 光を受けて、グラスの縁がかすかに虹色を帯びる。


「ワインはみんなで飲もう。でもグラスは……もったいないから、まだ取っておきます」

「それもいいだろう」


「これは、俺からだ」


 最後にオーブリーが渡した包みの中には、アッシュブラウンのマフラーが入っていた。


「北方のカプレムという動物の毛でできている。とても暖かいらしい」

「ありがとうございます。これ、オーブリーさんの髪の色ですよね?」

「そうだ。シンボルカラーは、必ずしも異性にだけ贈るものではない」


(そうだったの……)


 小さな発見に、内心で驚く。


「皆さん、本当にありがとうございます。……すごく嬉しいです」

「二十歳の式典に出られなかったからな。せめてこれくらいは」

「ルーキスのために戦ってくれたんだ。これでも足りないくらいだぞ」

「そんなことないです。本当に……ありがとう」


 その後は、料理を囲み、ワインを分け合い、また温泉に浸かった。

 四人で遅くまで騒いだ。

 賢斗は、初めてとは思えないほど自然にグラスを傾けている。


 ……もしかしたら、初めてではなかったのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ